5周年記念企画:カサブランカの物憂い

誰かに捕まった。

そう感じた瞬間、可憐は背筋を這い上るような強い恐怖を感じたが、不幸中の幸いにもその恐怖はすぐ和らいだ。

巨大な箱のような所に入れられた時には、目は目隠しされたままだったが、口はすぐ解放してもらえたからだ。
多分、塞いでもあんまり意味ないと思われたのだろう。犯人は荷車的な何かを使って可憐を運んでいるのか、車輪の音がガタガタうるさくて、大声を出しても聞こえないからだ。

ただ。箱の中では結構声が聞こえて。

「可憐ちゃん、そこ居る?」

「・・・!い、居るっ!居るよっ!」
「良かった。怪我してへん?」
「大丈夫っ!」

ごく近くから聞こえてきた忍足の声は、正に一筋の光明だった。

捕まったのが自分だけだったらどうしようー−−その気持ちは可憐の心にずっと冷たく存在感を持って鎮座していたが、幸運にもこれは早い段階で霧散したのだ。

また、忍足の声も元気そうと言うことも、可憐を元気づけた。
とりあえず現時点では、二人とも無事。身体的には。

「私達、どうなっちゃうのかなあ・・・」
「まあとりあえず、すぐ死ぬみたいなことはあらへんわ。」
「え、そうなのっ?」
「多分相手は十手団か、まあ華族狙いの奴やと思うねん。忍足家がどうの、とか言うてたのん聞こえたし。」
「いつっ!?」
「捕まるとき。」
「そうなんだ・・・」
「ほんで、そうなると次に狙いは何かていう話になるねんけど。多分、金やねんな。」
「お金・・・」
「そう。身代金や。」
「そっかっ。身代金を要求するんだったらー−−」
「死んどったら話にならへんさかいな。せやから、すぐ死ぬとか殺されるとか、そういうのんは無いて思うで。」

ほう・・・と可憐は息を吐いたが、一方で忍足の頭はフル回転していた。

可憐を死なせない。
何が何でも。

でも、それはそれとして、自分も原則死んじゃいけないのだ。
これを両方成立させて切り抜けるためには、どうすべきか。

「・・・失敗したなあ。」
「え、何がっ!?」
「ああ、堪忍。こっちの話やねん。今関係ないさかい、気にせんといて。」
「そうっ・・・?」

それにしても、出発してから結構経つ。
どこに居るんだろうかと2人が考え出した頃、荷車はようやく止まった。


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