100話記念企画 No.076

「はあ・・・・」

部活後。
部室で可憐は今日の日誌を書きながら、ぐったりと溜息を吐いていた。

「ごめん桐生ちゃん、俺あんまり綺麗に外せなくて・・・・」
「ううんっ!芥川君のせいじゃないよっ!私が不注意だったからっ!」

あの後、鏡をさっと見てみたら綺麗に纏められていた髪は大きく崩れていた。
そもそも引っかかっていたのもあるし、芥川も外そうとしてピンだのなんだのを何本か外したものだから、最早元のアレンジの形は見る影もない。
可憐を見た部員達も、一目見て何が起こってどうなったのかを悟ったようだったが、かといってしてやれる事もなかった。

もう部活も終わりだから良かった。
このまま外して帰ろう。

「良いよ、芥川くんっ!」
「でも・・・」
「本当に、私が無理してベンチの下になんか潜るからこんな風になっちゃったんだしっ!それにどこかでは戻さないといけないからっ!」
「そう・・・?」
「うんっ!気にしないでっ!」
「う〜ん・・・わかった。じゃあまた明日。」
「うんっ!また明日っ!」

パタン、と心なしか元気なさげに扉が閉まるとほぼ同時に、肩から髪が落ちた。
パサ、と軽い音がする三つ編みが今はちょっと悲しい。

(折角やってもらったのになあ・・・)

家に帰ったら、どうなってるのかちゃんと見よう、とか思ってたのに。

かといって、自分じゃ戻せないし。
どうなってたのかわからないし。

ちょいちょい、と滅多にしない三つ編みを軽くつついて、もうこれも何も全部解いて帰ろう、と思った時だった。

「なんや、可憐ちゃん。まだ居った・・・どないしたん、髪。」
「あっ、忍足君っ。えへへ・・・ちょっとドジしちゃってっ。」

(ああ・・・)

御多分に漏れず、忍足も大体の事は察した。

「どないするん。」
「・・・流石に、このままじゃ帰れないからっ。全部ここで解いて、元の髪型にしてから帰るよっ。」

まさかこんな風に解くことになるなんて。
しょうがないとは分かりつつ、それでもこれ以上ぐちゃぐちゃな髪を自分で見たくないという気持ちもあって、もう一思いに三つ編みのゴムを解こうとした。

そのためにかけた可憐の指を、忍足の右手が包み込んだ。

「・・・え?」
「ちょっと待ってな。」

忍足はさっと後ろに回ると、何やら観察するように髪を触り始めた。

「えっ?えっ?・・・戻せるのっ?」
「戻されへん。」
「あ、そうなんだ・・・」
「外すで。」
「あ、はい・・・って、良いよっ!解くのくらい、私一人で、」
「ジッとしといて。」
「はい・・・」

ピン、ピン、とヘアピンの外れる感触。
パサ、と広がる髪。
そのサイドにある編み込まれた三つ編みを解くーーーいや、解かない。

「ここから三つ編みやねんな。」
「え?」
「いうことは、こっちも元々三つ編みやったわけやから・・・ああ、ここの髪の毛が抜けてるんやわ。」
「忍足君っ?あの、何を、」
「まあ、思い付きやな。」
「思い・・・?」
「ちょっと引っ張るで。」

そう言いつつ殆ど引っ張られないような、優しい力がバックの髪にかかる。

「・・・あの、忍足君っ?」
「ああ、鏡欲しい?ええで、スマホ見といてくれたら。」
「じゃなくて、何してるのっ?」
「三つ編みやで。俺は三つ編みしか出来へんさかい。」

三つ編みって、もうすでに三つ編みが2本あるんだけど。
まだ増やすんだろうか、とか思っている間に、忍足は3本目の三つ編みを完成させた。
その後更に三つ編み。4本目。

「・・・あっ!もしかして、くせをつけようと、」
「ちゃう。」
「違うのっ!?」
「まあ見といて・・・いうて、上手いこと出来るかわからへんけど。」

4本目の三つ編みが完成すると、忍足は今度は三つ編みをほぐし始めた。

「可憐ちゃん、こんなもんでええ?」
「えっ?」
「ほぐし加減が。」
「あっ、はいっ。丁度良いです・・・」
「さよか。」

嘘である。
嘘というか、こんなもんで良いのかどうか可憐にもわかりはしない。
良いのかなと自問自答している間に、忍足はちゃかちゃかと三つ編みをほぐしていく。

4本全部終わったら、さらにもう一手間。

「・・・今、何やってるのっ?」
「待ってな、もう終わるからその後で・・・よし。」

完成。

そう言われてスマホのインカメラで自分を見ると。


「わあ・・・!」


「どないやろ。」
「す、すごいすごいっ!可愛いっ!これどうなってるのっ!?」
「大した事あらへんで。三つ編み半分ほどいてツイストしてるだけやから。」

三つ編みしておいてそれをほぐす、所謂ゆるふわ三つ編み。
それを忍足は左右に二本づつ作って、さらに捩じって止めてふわふわ感を大きくしている。

元の髪型とは全然方向が違うが、可愛い。

「忍足君すごいねっ!私こんなの知らなかったよっ!」
「俺もこないだまで知らへんかったで。」
「えっ?」
「姉貴に手伝わされた時に、初めて覚えてん。」

もっとも、手伝わされたのは全然別なアレンジだった。
雑誌を広げられて、これをやってみたから手伝ってと言われて。その傍らにこのアレンジが書いてあって、こっちならさっと出来そうなのに・・・と現実逃避気味に考えていたことがなんとこんな所で役に立つとは。
人間、なんでも覚えているものである。

「まあ、元のやつと違うてこっちは機能性には欠けるかも知らへんけど。もう部活も終わりやさかい。」
「うんっ!これが良いっ!可愛いよっ!有難う、忍足君っ!」

ちょっと頭を振って見ると、さっきまでと違ってちょっと派手目に揺れるゆるふわ三つ編み。
でも、良いよね。
もう今日の部活は終わりだから、「可愛い」ことだけ考えてても。

「有難うっ!忍足く・・・」

言いかけて振り返って、そしたら忍足の顔がすぐ上にあって、満足そうに自分を覗き込んでいた。

その顔は、分かりにくいながらすごく優しい。
やって貰ったのは自分なのに、もしかしたら自分より喜んでないかと思うくらいの嬉しそうな笑顔で、忍足は静かに言った。

「どういたしまして。」

「・・・・・」
「可憐ちゃん?」
「あっ!え、あ、うんっ、有難う・・・」

失礼かな、と思いつつぱっと前を向き直ってしまう可憐。
しょうがないじゃないじゃないか、恥ずかしいんだもん。

そうやって首を振ると、また三つ編みがふわっと揺れる。

良かったね、と自分に言ってるように。

「ほんなら、帰ろか?」
「あっ!ごめん、私まだ日誌がっ!」
「じゃあ待っとくわ。」
「い、良いよっ!先に帰ってくれて、」
「ええて。待っとくわ。」
「えーと、じゃあ急ぐからっ!ちょっと待ってねっ!」
「ええで、急がんで。」

(全然、急がんでええで。)

正直に言うと、もっと見ていたいから。
今の三つ編みの可憐を。

別に前の髪型も普通に良かったし決して嫌いじゃなかったし。
似合ってると思ったのだって、嘘とかいうわけでは全然ないんだけど。でも。

(こっちの可憐ちゃんの方が好きやわ。)

「ごめんっ、何か言ったっ?」
「いや、なんも言うてへんで?」
「そうっ?」

危なかった。
聞こえたかと思った。

今度こそ何も言わないように気を付けながら、忍足は近くの椅子に腰かけて、今しばらく。

もうしばらく、夕日に照らされる三つ編みの可憐を見つめていようと思った。




100話記念くじびき企画
お題:No.076 みつあみ
くじ結果:58秒→8:主人公4×忍足

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