100話記念企画 No.026
その日、紫希は軽く部屋の掃除をしていた。
大掃除というレベルじゃないけれど、ほんのちょっといつもより念入りに。
普段開けないところを開けて、目をやらない所を整理して。
「・・・あ。」
出てきたのは1冊の本。
所謂児童書である。
絵本というにはあまりに字が多く幼児向きでなく、普通の本というには絵が多くて内容がファンタジー。
「懐かしい・・・」
これは小さかった頃、おまじないとかそういうのに嵌っていた時買った本だった。
紀伊梨なんかは見つけた途端はしゃいで、端から試そうと皆で色々やったものだ。
(あ・・・でも、確か。どこかに一つ、試せなかったおまじないがあった気が・・・)
どんなまじないだったかも、何故試せなかったのかももう覚えてない。
ただ、試せなかったことだけ覚えている。
いけないなあ、と内心で苦笑しつつ、どうしても気になった紫希は掃除を一時中断して、目を通し始めた。
(紅茶が美味しくなるおまじない・・・あははっ!これはただ、紅茶のコツでしたね今見ると・・・良い夢が見られるおまじない、これは確か小さい頃は結構気持ちの上で効きいてたっけ・・・)
「あ。」
手を止めた。
これだ。
恋のキューピッドの召喚術。
「やり方が・・・ああ。そうでした、これ難しいんでした。」
『先ず最初に』の前ふりの後、書いてあるのがいきなり『大きな虹の下で黒猫を3回撫でて見よう!』である。
そうだった、思い出した。
こんなの出来るかよと、見た瞬間皆で諦めたのだ。
いや、紀伊梨は多少食い下がった気もするが、それでも諦めはいつもより早かった。
(努力でどうにもならないというか、不確定要素が多いんですよね。黒猫ちゃんを飼ってるとかなら、幾らかはやりやすいのかもしれないですけどーーー)
と、そこへノックの音。
「紫希ちゃん?開けて良い?」
「あ、はい!」
「ごめんね、ちょっと・・・あれ?掃除中?」
「・・・の、休憩中でした。」
「ふふっ!でもそっか、ちょっとお使いにいってきて貰おうかと思ってたんだけど、お母さんが行って来ようかな?」
「いえ、行きます!ちょっと疲れてた所だったので、気分転換に。」
「そう?じゃあお願いして良いかな?これがお金だよ。メモはこれ。お釣りでおやつを買っても良いからね?」
「ふふっ!はい。じゃあ行ってきます。」
「あ、雨が降ってるから傘を持って行ってね。車に気を付けて。」
「雨・・・」
そうか。
そういえば今日は小雨だった。
滑らないようにしないと、なんて思いながら階下に降りて、靴を履き。
傘を持ち。
「じゃあ、行ってらっしゃい。」
「はい、行ってきまーーーー」
扉を開けた瞬間。
晴れた。
「わあ・・・・」
まだ雨は降っている。天気雨状態。
それでも、晴れているというだけでこんなにも空は美しい。
「あ、紫希ちゃん虹が!」
「え?」
「前じゃなくて上。ほら、丁度真上だよ。」
「わ、わあ・・・」
真上に虹。
マジかよ、こんな時に。なんてタイムリーな。
「綺麗だね。」
「ええ・・・綺麗ですね・・・」
ニャーン
「え?」
「あ、お向かいの猫ちゃんだ。」
「え?お向かいに猫ちゃんなんて居ましたっけ?」
「今預かってるんだって。親戚が旅行だって言ってたよ?ほらおいでー。紫希ちゃんも撫でてあげたら?きっと喜ぶよ。」
「・・・・・」
そんなまさか、と思いながらしゃがむ。
これはまあ。見事な黒猫。
「・・・失礼、しますね。」
一撫で。
二撫で。
三撫で。
「ニャーン。」
「あ、帰っちゃった。お母さんも触りたかったのに・・・紫希ちゃん?」
(3回撫でてしまいました・・・)
召喚術ステップ1。
完遂。
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