100話記念企画 No.026


「おおお!じゃあじゃあ、紫希ぴょんはキューピッドさんを呼べるんですな!」

明くる日の朝、予鈴前の時間に、紫希は事の次第を紀伊梨と千百合に話した。

「次は次は!?何したら良いの!?」
「次は、『ステップ1が出来た日から次の月曜日の10時丁度に、クランベリーを2粒食べてみよう』でした。」
「今日じゃん。ってか、授業中じゃん。」
「はい。なので無理です。」
「えー!」
「えー、じゃねえわ。」
「出来るよー!クランベリー買って来たら良いんだよー!で、こっそり食べる!」
「話聞いてないだろ、お前。」
「紀伊梨ちゃん、次の月曜日ですから今日じゃないと駄目なんです。今から用意は出来ませんから・・・」
「えー!そんなー!折角猫ちゃんなでなでは出来たのに・・・」
「まあ確かに勿体ない感はあるけどさ。」
「あはは・・・私もまさか、クリア出来るとは思ってなくて。」

実際、昨日は遂行しながらも「そんな馬鹿な」という思いがどうしてもあった。
どうしよう、本当に出来ちゃった感というか。

(まあただ、このステップは出来ないでしょうから・・・)

千百合の言う通り、勿体ない感はあるなと思いつつ紫希が諦念の溜息を吐いた時、クラスの女子が声をかけてきた。

「ねえ春日さん、ちょっと良いかな?」
「はい?」
「パンケーキの作り方詳しい?」
「?パンケーキ、ですか?」
「紀伊梨ちゃんパンケーキ食べたい!」
「どう見てもそういう話してねえわ、今。」
「あはは!じゃなくて、今日の家庭科実習の話。

パンケーキを、ホイップと自作のクランベリージャムで食べるんだって。」

3人が目を見開いた時、予冷が鳴った。

「あ!じゃあ春日さん、後で教えてね!」

そう言って軽やかに席に戻るクラスメイト。

「・・・家庭科って何限だっけ。」
「2限、です・・・あ!紀伊梨ちゃん、紀伊梨ちゃんはクラスに戻りませんと、」
「おおお!?」

結局その日、紫希は10時にクランベリーを2粒食べたのだった。


召喚術ステップ2。
完遂。






「えーと・・・あ、居た居た。」
「おーい!ゆっきー!」

次の日の火曜日。
休み時間に、3人は幸村のクラスを訪れた。

「皆。どうしたんだい、3人揃って。」
「あの・・・実は折り入ってお願いがありまして・・・」
「春日が?俺に?」
「はい。」
「珍しいね。構わないよ、なんだい?」
「あの、もう今日は使わない教科書を貸して頂けませんか?」
「??今日、もう使わない教科書?」
「おかしな頼みだな。」

聞いていた柳が横から言った。
普通、教科書を借りるというのは、特定の教科の教科書が無いから借りると思うのだが。

「まるで教科書ならなんでも良いという風に取れるが。」
「はい、そうなんです・・・」
「・・・どういう事かな?」
「おまじない、おまじない。」
「ゆっきー覚えてにゃーい?皆で小さい頃、色々試したじゃーん!紫希ぴょんの持ってる本見てさー!」
「・・・・ああ!」

幸村も思い出した。
そうだ、確かにそんな事昔やったっけ。

「もしかして、あれを今やってるのかい?」
「昔出来なかったやつをやってんの。ほら、覚えてない?まず最初に虹の下で黒猫3回撫でろって指示があったやつ。」
「あったね。あの時はそれが出来なくて頓挫したけれど・・・」
「今こうして進んでいると言うことは、それはやり遂げたのか。」
「はい、偶々偶然・・・」
「あはは!偶然にしては、なかなか強運だね。それで、続きの指示に俺の教科書が必要なのかな?」
「はい。『友達の中で一番賢い人から本を借りて、ピンクの付箋を貼って返そう』です。」
「紫希ぴょんが一番成績良いけどー、次に良いのはゆっきーだよね!」
「分かった、良いよ。返ってきたら、もう付箋は剥がして良いのかな?」
「はい、それはもう指示の外なので。」
「参考までに聞きたいんだが、何のまじないだ?」
「ふふん!実はねー、恋のキューピッドがしょーかん出来ちゃうんですよっ!」

幸村はちょっと目を見開いた。
恋のキューピッド。
の、召喚。

「春日はキューピッドを呼びたいのか。」
「えっ!?いえ、そ「そういうわけじゃない、とお前は言う。だが、実際多少はその気にならないと進めようとは思わないだろう。」

そう言われるとそうなのだが。

「・・・なんというか、目的よりも興味が先に立っている感じで・・・」
「ま、私達が昔やってた時もそうだったわよ。効果に期待してるって言うより、本当かどうかってのの確認がしたいんだって。」
「・・・まあ、確かに。キューピッドなら、別に危ないものではないしね。悪魔だとか人を不幸にするでなし。ただ、」
「ゆっきー、悪魔だとかそーいうの止めてお!寄って来たらどーするんですか!」
「そう、五十嵐の言う通りだよ春日。」
「え?」

「もし本当に呼んでしまったら、と言う事は考えておかないと駄目だ。どんなに確率が低くても、呼ぶために行動を起こしているんだからね。」

もし本当に呼んでしまって。
それでその結果何かがあった時に、そんなつもりじゃなかったのに、は通じない。

勿論、こんなの子供だましだと紀伊梨以外この場の全員が思っている。
でも同時に、進めているということは、心のどこかでもしかしたらと思っているのだ。

「だから。悪いことは言わないから、もし最後までやるのなら・・・ああ、あった。」

幸村の机から、さっき使い終えた英語の教科書が顔を出す。

「誰に対してキューピッドの協力を得たいのか、それはちゃんと考えておいた方が良いよ。」

にこ、と微笑みながら幸村は言った。



召喚術ステップ3。
ほぼ完遂。
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