100話記念企画 No.069
*長編中で勉強会してるくらいの時系列です
*長編読んでなくても読めますが、かるーくご参考まで




氷帝学園には色んな人が居る。

いや、氷帝でなくたって色んな人が学校には居るものだし、単純な全校生徒の数で言うと立海の方が上だ。
ただ、氷帝はその校風から色んなタイプや育ちの人を呼び込みやすく、タイプのるつぼという意味ではどこよりも上かもしれない。

忍足はこの日、本当に。
本当にこの学園には変わった人も居るなあと思いながら、部活後の部室に座っていた。

(どないしよ、これ。)

いや、どうしようも何も家に持って帰るしかないんだけど。
この場で捨てられないし。人に譲ろうにも、学校じゃ見られてた時に角が立つし。
ただ家に帰った後どうする。しまうのか。姉にでもあげるか。

うーんどうしたもんかな、と思いながら目の前のそれを眺めていたら、ジャージから着替えた可憐が部室に姿を現した。

「忍足君、お疲れさまっ!」
「ああ、お疲れさん。」
「ごめんね、待たせちゃっ・・・それ何っ?」

ここのところ、テニスの事をほぼ何も知らない可憐のために昼と放課後に時間を取ってテニスの勉強をしている2人。
この日もそのつもりで部室に戻ったら、いつも鞄が置いてあるところに、今日は見慣れない箱が。

結構大きい。
1m四方くらいはあるんじゃないだろうか。

「これなあ、茶器やねん。」
「ちゃき・・・?」
「茶器。お茶会する用のん。」
「あ、ああっ!ちゃきって、茶器だねっ!そっかそっかっ!でもどうして?」
「貰うて。」
「茶器をっ!?」

日常生活で、というか学校生活で茶器を貰うことなんてあるだろうか。
無いだろう、普通は。

「なんでっ!?誰にどうやって貰ったのっ!?」
「くれた人は3年生の先輩やったわ。」
「先輩・・・」
「何や、俺に似合うから一式やるとかなんとかかんとか・・・」


『はじめまして、忍足君!私、3年生のお茶会愛好クラブ部長の者よ!』
『前から君に目をつけていたの!君のそのクールな表情!物憂げな眼差し!君には絶対お紅茶が似合うわ!』
『良いの!何も言わないで!そんな事言われてもお紅茶のことなんてよくわからないわよね!』
『だから今日はこれを用意してきたの・・・はい!君用のお茶会セット一式よ!』
『これを機に、お紅茶を習慣にしてみて!そして気が向いたら、我がお茶会愛好クラブの一員になってね!』


そもそもお茶会愛好クラブなんてものがあった事を忍足は初めて知り。
色々あるんやなあ、まあこの学校だしそこまで不思議ではないかな、なんて思っている間にこのでかい荷物を半ば押し付けられるように受け取ってしまい。
一式あげるってこれ結構するんじゃないのか、そんなもの貰っても却って困るんだけど、と思っている間にもう本人はどこかへ立ち去ってしまっていた。

後に残されたのはポカンとしている自分と、割と大きく普通に重いティータイムセットが一式入った箱。

「・・・で、もう返しに行くのも面倒やし、そもそも返させて貰えへんような気もするし。
取り敢えず持って帰ろ思うて此処まで運んでんけど。」
「そ、そうなんだ・・・大変だねっ。」

自分は平凡な女子なのでわからないけれど、イケメンにはイケメンなりの悩みというかトラブルもあるものだ。
まあこんなトラブルは滅多とないだろうけど。

「可憐ちゃん、要らへん?」
「わ、私は要らないかなあっ・・・うち誰も紅茶はそんなに飲まないし、持て余しそうだしっ!」
「せやな、まあ普通はそうやわ。」

かといって自分も要らないのだが、まあしょうがない。
貰ったのは自分だ。

「・・・あっ!でも。」
「?」
「欲しくはないけど、ちょっと見ても良いかなっ?」
「?ええで。」

「やった、有難うっ!」
「見たいん?」
「見たいっていうか、なんていうかお茶会っていう響きにちょっと憧れがあってっ!お洒落だよね、お茶会っ!」
「お洒落・・・まあ確かに、洒落てるとは言えるかもしれへんな。」

別に可憐だって、そこまで特別お茶に興味があるわけじゃない。
でも、それはそれとして「お茶会」という響きはちょっと乙女心をくすぐられる。
ちょっとしたティーブレイクならともかく、ちゃんとした茶器を持ち出すようなお茶の時間なんてそうそう過ごせないし。

「そういえば、俺もまだちゃんと見てへんわ。開けよか。」
「はーいっ!」

楽しそうな可憐に顔を綻ばせつつ忍足が蓋を開けると、そこにはかなりちゃんとしたアフタヌーンティーのセットが鎮座していた。
こんなに色々入っていたのか。重いはずだよ。

「あっ、これこれっ!よく見えるよねっ!」
「ティースタンドやな。」
「カップと、お皿と、ポットと・・・これなんだろうっ?」
「シュガーポットとちゃうやろか。」
「あっ!そっかそっか、お砂糖入れるやつっ!じゃあこっちはっ?」
「多分ミルクポットやな。それからカトラリーと・・・ほんまに一式入ってるわ。」

くれた人には申し訳ないのだが、ぶっちゃけ揃いが良ければ良いほど持って帰るのは億劫である。絶対箪笥の肥やしになるに決まってるのに。

「良いなあ、お茶会やりたいなあっ。」
「お茶会なあ。」
「えへへっ!って言っても、私作法とかそういうの全然わかんないんだけどっ!」
「俺もよう知らへんわ。やっぱり知らへんのに、こんなええもん貰うても・・・」

あ。
と忍足は口の中で呟いた。

待てよ待てよ。
そういえば居るな。べらぼうに詳しい者が一人。


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