「私、諏訪さん断ちします」
「はっ!?」

諏訪は突然告げられた言葉に、吸おうとしていた煙草を落とした。

高校三年になった自身の成績の低迷っぷりに、ボーダー内指折りの楽観主義のなまえでさえ頭を抱えた。
ボーダーとの提携大学ですらかなり危ういのだ。
そんな折に頭をよぎったのは亡くなった祖母のことば――叶えたいことがあるなら、大切なものをひとつ断ちなさい。

かくしてなまえは大切なもの――年上の恋人である諏訪洸太郎を断とうというのである。

当然断つものを諏訪に決めるまでに紆余曲折あった。
携帯もゲームも没収されている今、臓器をひとつ捨てる思いで、なまえは諏訪を断つことにしたのであった。

諏訪は最初は驚いたものの、なまえが大学に受かるまでの一年間、それも諏訪と同じ大学に入る受験のためである。
片手で足りるほどの差とはいえ、なまえは未成年で、諏訪にとっても成人するまで耐えなければならない理性強化期間のうち一年を非接触という形で済ませるのも、悪い話ではなかった。真面目な性分ではないため、うっかり手を出してもおかしくはないという自覚はあるのだ。そんなことをすれば諏訪を目の敵のようにしているなまえの父に引き離されかねない。

そんなこんなで、お互いの合意の上で行われた諏訪断ち(といってもたまに会うことはあったのだが、ふたりきりになることはなかった)からかれこれ一年が経ち、とうとう合格発表の日が訪れた。

諏訪はなまえがネットではなく現地に見に来ているという話を聞き、授業もないのに大学を訪れていた。
ちなみになまえがわざわざ直接見に来ているのは、おとといの第二志望の大学の合格発表の際に、滑り止めにもかかわらず落ち着かな過ぎて、中々更新のない合格発表ページの更新ボタンを連打、お待ちくださいから番号の羅列に切り替わった瞬間に驚きすぎてスマホを投げ天井で跳ね返って重力を増しつつ床に落下、使用不能になったためである。そんな馬鹿なところも可愛いと思ってしまう自分に毒されてるなと思う。

時間になり、露わになる数字の群れ、歓喜と落胆、絶叫。諏訪は阿鼻叫喚の高校生・浪人生の中最近ではモニター越しにしか見ない恋人を探した。
最後に直接会った時よりも髪は伸びていたが、すぐにわかった。この空間の中心かに思えるところに両手をぶらりとさげ、茫然といった様子で、なまえは立っていた。ゆらりと空を仰ぐ。

「みょうじ――……」

落ちたのか。そう察して、諏訪輪努めて優しく、らしくないとすら思う声音で、その力ない背中に呼びかけた。

過剰に反応し振り向いたなまえの目には涙が、頬は上気し、口元はこれ以上ないほど緩んでいた。

「す、すっ」
「――ぅお」
「諏訪っさああああああん」

なまえは大地を強く踏みしめ諏訪にダイブした。
質量と加速度の積に耐え切れず、トリオン体でもない諏訪の身体はよろめいた。

「おい、あんま大声で喚くなって!」
「うええ、……んむっ――……ふわは」

知り合いもいそうで怖いので(隠しているわけではないが小恥ずかしい)袖を口元に押し付け消音を試みた。
が、しかし、なまえも列記とした戦闘員である、ぐいぐいと腕を離した。
「諏訪さんっ、諏訪さん、やりましたよ!」
「おお、おめでとう、良かったな!」
「はい! あー、一年間つらかったけど、諏訪さん断ちも終わりだ〜〜これでデートとかデートとかできる〜〜!」
うれしいうれしいと言いながらぐりぐり押し付ける頭を乱雑に掻きまわせば、なまえが諏訪の腕の中で笑った。

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