時間いっぱい、クルーたちに手持ちの宝石類の換金をしてもらった。
当のリザはというと、少しでも多くの金をと思い、下調べなしに海賊船に忍び込み、全額掻っ攫っていった。
リザらしくない荒い盗みだったがクルーのひとりに協力して貰った甲斐あって、無事に盗みだせた。

とうとうオークションの時間がやってきて、リザとクルーたちは人間屋へと向かった。
盗みの最中は頭を空っぽにできたが、走り出すと思考が回り出す。
ジャンバールが攫われた。
今更になってその事実がリザの心臓を握りつぶした。ジャンバールがまさかという気持ちはまだあって、けれどこの島では何が起こってもおかしくないことは理解している。些細な油断や切っ掛けで気絶させられれば目覚めたときには首輪がついている。そうなればどんなに強くとも、能力者であろうとも、奴隷となる他ない。
けれど、実際身内に起こってみるとどうしようもなく怒りが沸き上がった。

切れた息をそのままに、リザは人間屋に入った。
実力行使で連れ出すのはリスクがあまりにも高すぎる。ここはオーソドックスに競り落とすしかない。そうするための財は既に用意した。

「リザ、まずはおれたちの金で競り落としていく。できればこれで、船長までいけるといいんだが……」
「わかりました。ですが援助は惜しみません。ジャンバールさんもそうですけど、他の人にだってお世話になってるんです」
「助かる」
代表でやってきた男と頷きあう。リザは彼らと同じ立場でこそないが、同行人として一定以上の愛着をもってはいるのだ。

何人もの人間が売られていく。吐き気がする光景だ。存在は知っていても、それだけだ。実際に参加するのとでは訳が違う。
「来た! 次だ!」
クルーのひとりが出てきた。
隣の男が意気込んで、競りに参加していった。いくらかのお金をつぎ込んで、取り戻していく。

それを何度か繰り返し、とうとうオオトリ、ジャンバールの番が来た。
ここまでのクルーはリザのお金を使うことなく、取り戻すことが出来た。まだ相場分の余力はある。
そして競りが始まる。

「3000万!」

隣の男が真っ先に声を張った。
まだリザの分の資金がある上に、観客たちはクルーのときだけ参加する男の存在に薄々気が付いていて、最初に大きく出れば、どうやったって譲る気はないと伝わるはずだ。
牽制で3000万ベリーだったが、効果は十分。人間相場からすれば破格で、ともすれば巨人族すら競り落とせる額だ。
諦めムードが会場に広がりかけ、逆にリザたちはほっと息をついた――はずだった。

「1億出すえ!」

会場のVIP席の辺りから声が飛んだ。
「……は?」
隣の男から気の抜けた声が漏れる。こんな序盤から一億。いくら名の知れた船長にしても、普通ではない。会場が騒めく。
誰だ!?
バッとそちらを振り向いて、愕然とした。
――天竜人。
「くそ、厄介な奴が……。しかもよりによってロズワード聖だと?」
船長をコレクションしていると噂の、人間屋の常連だ。小さく、茫然とした声で男が漏らす。それからハッとしたようにリザを呼んだ。
「っわかってます! 1億5000万!」
負けてはいられない。どよめく空気を断ち切るように、リザが声を張り上げた。
「む」だか「ぬ」だかわからないが、そんな声をロズワード聖があげた。また会場がざわめく。しかしリザはそんなものはそっちのけでジャンバールを見ていた。
目が合う。
彼は心底驚いたような顔で、絶望にまみれた顔に、一筋の光を見出したような顔でリザを見ていた。
リザは彼に頷きかける。
大丈夫、私が助けますから。そんで、何してるんだって笑ってやります。だから、だいじょう、

「3億だえ!!」

ぶ、

「なっ」
「――ッ4億!」
「おいリザ!?」
男がぎょっとした顔でリザを振り向く。リザがこれまでに稼いできた金は2憶5000万だ。クルーにもそう言った。……けれど、自分の稼ぎでなければまだある。使うつもりはなかったが、そんなことをいっている場合ではない。

まだだ、まだ、まだ、可能性はある。
リザの目に涙が滲んだ。

わかっている。
この世界の理も、天竜人の異質さも、何もかも。

「5億!」
「ごおく、5億3000万!」
「6億!!」
「っ……ろくおく、」
「リザ! これ以上はやめろ!」
男はリザが容姿を隠すために被っていた布を、注目されたがらないリザを周囲の視線から守るべく引っ張った。そしてリザの肩を揺さぶって言う。
リザは首を振ったが、そう思ったのは隣の男だけではない。
「もういい!」
「!」
「船長……」
ジャンバールが晒されている舞台の上で吠えた。
幾人もの人を隔てて、ジャンバールはリザを見つめる。
この場で一番自由を渇望しているのは彼のはずなのに、それでも彼は、リザのために言った。
「もう十分だ……」
「ジャンバールさん……っ」
焦った人間屋の人間が出てくる。殴ろうと振りかぶったが、商品に傷がついてはいけないとハッとして慌てて木槌を打った。
「6億! 6億で落札です!!」
非情な音がリザの脳に反響する。
ジャンバールさん、ジャンバールさん。ぼろぼろと涙が零れ落ちる。

あなたは私を助けてくれたのに。
あなたを助けられないなんて嫌だ、いやだ、いやだ!

「リザ、出よう。競り落としたやつは他のやつに任せたから」
男が声を潜めてリザに言う。
天龍人と直接争ったことを憂い、警戒しているようだった。
当のロズワード聖は目的のモノを手に入れた上に余興として十分に楽しめたため、寧ろ上機嫌にしているようだった。普段無駄遣いを窘められている彼の子供たちが文句を言うが、どこ吹く風だ。

男に背を押されながら、リザはジャンバールの首の鍵を受け取る天竜人の後ろ姿を睨みつけた。