「リザ……本当に来ないのか?」
「ハイ。すみません、でもやっぱり諦められないんです」
「……そうか」
海岸で、リザは長い間世話になったクルーたちに別れを告げた。
彼らはジャンバールを置いて先へ行く。
責めはしない。
おそらく海賊として、それが一番正しい判断だ。
けれど、リザは海賊ではないから。
「ご安航を」
「お前もな」
その言葉を最後に、彼らは新世界へと船出した。
それからリザは、ここ数日世話になっていたバーを訪れた。
ぼったくりバーと称されるこの店だが、店長であるシャッキーの料理はとても美味しく、放浪人のような見た目とは裏腹に小金持ちのリザはここに入り浸っていた。
すると連れが行方不明であるシャッキーは、ぼったくっても不満を零すだけできっちり払うリザを上客とみて、宿を探していたリザに空いている部屋を貸すという話を持ちかけた。
当然追加料金が発生するが、女一人でいる以上、安全には代えられない。
リザはそれを呑んだ。それが三日前の話しだ。
滞在を終えたはずのリザが返ってきたので、シャッキーはあら?と目を瞬いた。
「なにかあったの?」
そう心配そうに水を差し出してくれるシャッキーにタダということを確認した後、知り合いが、恩人が奴隷になってしまったと告げる。
「天竜人……確かに厄介ね」
「ハイ。財力もそうですけど、すれ違えないから鍵が掏れないのが痛いですね。それに船がないので奪ったとしても逃げれません」
「なるほどねえ」
天竜人に直接立ち向かえるほど、リザは馬鹿でも勇敢でもなかった。
殴ってでも取り返したいという気持ちはあるが、肉弾戦が苦手なリザには勝算が低い。
戦うことは時に泥棒家業でも必要になるし、戦えないわけではない。が、天竜人の特権でやってくる大将に勝つには程遠い。
「で? そのひと、諦めちゃうの?」
シャッキーが顎をくいっと上げ、煽るように聞く。リザはふんっ、と鼻を鳴らした。
「まさか。どんな手を使ってでも盗みます」
リザが宣言してみせると、シャッキーは満足げに笑った。
「それでこそリザね。はい、おまたせ」
「……え、なんですかこの料理。あ、ちょっとシャッキーさん、さすがに注文してないのに出されて金払えってのはどうかと思いますよ!?」
「なーに言ってるの、オゴリよオ・ゴ・リ!」
「ええ……ジャンバールさん盗む前に世界が滅亡しそうですね……いてっ」
「馬鹿なこと言ってないでさっさと食べる!」
「ハーイ」
リザは目の前に置かれたナポリタンにがっついきながら、頭の中で計画を立てていく。
どんなに時間がかかっても、どんな手段を使おうとも、絶対あなたを盗みますから。
待っててください、ジャンバールさん。