ルフィがシャボンディ諸島から、此処、女ヶ島に飛ばされてからいろいろあった。
体からキノコが生えたり。
起きたら女ばかりだったり。
海賊女帝・ハンコックの裸を見たり。恩人が石にされたり。ソニアやマリーと闘ったり。彼女たちの過去を聞いたり。
そんなイロイロが吹き飛ぶくらい。否、イロイロがあったからこそ信じられない光景がルフィの目の前で起こった。
「目的地を言え!!船を貸そう!」
ハンコックがそう言った直後であった。突如開いた扉と同時に入ってきた女は。
「ハンコックテメェえええ!!」
雄叫びを上げながら鮮やかに踏み切った。
そして有ろう事かあの海賊女帝に――老若男女を虜にするボア・ハンコックの、その麗しき顔に、跳び蹴りを喰らわせた。
「姉様――――!!」
「姉様のお顔がぁぁあぁ!!」
「なんだぁ!? 誰だ!?」
ルフィは先刻、マーガレットたちが、自分の仲間たちが石に変えられたというのに蛇姫様のすることであればと、異常なまでの忠誠心を見せるこの国の女たちを見ている。いや、この国の女だけではない。見たことはないが、まるで全世界の人間に自分のやること全ては許される。そう言わんばかりのハンコックの態度や彼女の扱いを見た。
そんなハンコックの顔に、仮にも七武海である彼女に華麗な蹴りを決めた。
その信じがたい女の眉間には幾筋ものしわが刻まれ、一目で不機嫌であることが見て取れる。女は険しい顔のまま、起き上がったハンコックを睨みつけた。
「おい」
「な、なんじゃ? 唐突に。何をそんなに怒っておる?」
「そ、そうよ鈴蘭。なにがあったのかは知らないけど姉様を蹴るなんて」
「しかもお顔を蹴るなんて……。本当に何があったの……?」
ルフィは恐らく自分と同等の『無礼』にあたる行為をされたにもかかわらず、戸惑い、怯えているハンコックたちにを不思議に思ったが、口をはさむことはできない。
「なにがあったの、ねえ? ……いい度胸だなてめーら!」
「わ、わらわはそなたが怒るようなことはなにも……!」
ハンコックはその女を見上げた。頬を抑えながら上目遣いに見られれば万人が虜になってしまいそうなものだが、女は冷ややかな目で見下ろしている。
「だ、第一鈴蘭。そなた、島に着いたら直ぐ妹御のところに……!」
瞬間。部屋全体に漂う殺気がピリッと尖る。ただでさえ険しかった女の顔がさらに怒りに染まり、鬼を背負っているようだった。
「あぁ。そうだ。私は行ったんだよ。愛しい愛しい妹の――」
女の口角がひくりと引き攣り、歪に弧を描いた。
「――マーガレットの下になァ?」
「……んん?まーがれっと?」
なにが起こっているのか理解できていなかったルフィだが、聞き覚えのある名前に反応した。
「おめえ、さっきの石にされたやつの姉ちゃんか!」
ルフィの言葉になにを察したのか三姉妹は、青い顔をさらに青くした。
「やっとわかったか? お前ら、私のマーガレットを。可愛い可愛い……目に入れても痛くない大事な、だいっっじなマーガレットをよぉ。
石 に し た ん だ っ て?」
「……っ!」
ゆっくりと威圧するように言った女の言葉に三姉妹は肩を跳ねさせた。状況がつかめないルフィがいつも通り思いのまま聞こうとすると、それに感づいたソニアとマリーが慌ててふさいだ。ルフィは顔を寄せてくれた二人の言葉に従って小声で尋ねた。
「なぁ。あいつ偉いやつなのか?」
「……九蛇海賊団の船医よ」
「船医ぃ? じゃあ船長の方が偉いじゃねぇか!」
「ええ。……でも、姉様はあの人と相性が悪いのよ。一対一なら姉様の分が悪いわ」
「あのノロノロビームみたいなのがあってもダメなのか?」
「効かないのよ」
「??なんでだ?女なら誰でも効くんじゃねぇのかよ?」
「女だけじゃなくて、本来なら全ての人間に効くはずなんだけどね。麦わら、あなたと同様に……鈴蘭は姉様に『は』一切の邪心がないのよ。情をすべて妹に注いでいるから」
ルフィがソニアの答えにさらに疑問を挟もうとしたとき、ハンコックに向いていた視線や殺気がこちらに向いた。鈴蘭と呼ばれた女は吊り上がった口角をそのままに口を開いた。
「なぁソニア、石にされたマーガレット。壊そうとしたんだって?」
「ひっ……! あ、あれは、その」
「問答無用だコノヤロー!」
何故仲間相手に絶体絶命のピンチにならなければ。
ソニアがギュッと目を瞑った、扉が開いた。
「姉さん!」
モーションに入った鈴蘭が機械のように動きを止めた。
「マ、マーガレット! どうして此処に……」
「エニシダさんに呼ばれて……」
三姉妹が侍女に向けて感涙したのは言うまでもない。余談だが、この後エニシダはハンコックに抱きしめられ卒倒した。
一転してご機嫌になった鈴蘭を見て、断固として妹に合わせようとしなかった彼女の姿を思い出しつつ、ハンコックは溜息を溢した。