「どういうことだ! 乗るのはお前と、その蛇だけという話だっただろう!」
海賊女帝こと麗しのボア・ハンコックと髭が素敵なモモンガ中将は出向前に言い争いをしている。
原因は聞いての通り、鈴蘭だ。

「ええいうるさい! ただの伝え忘れじゃ。問題なかろう、一人二人増えたところで!」
「ふざけるな! 七武海とはいえ、海賊をインペルダウンに入れること自体、特例中の特例なのだ。その後には白ひげとの戦争もある! そうやすやすと許可を出すわけにはいかん!」

かれこれ十分ほど続く不毛なやりとり。
鈴蘭は当事者にしてうんざりしながら、もしかしてルフィに抱き付かれて居たいがためにわざと引き伸ばしているのではと思い始めた。
いやしかし、『恋愛』というものに対してかなり奥手らしく、服の中にルフィを入れるということも躊躇していたくらいだ、わざとではないのだろう……鈴蘭はそう思い直した。
続いてそれにしても好きならなるべくひっついていたいんじゃないのか、と首を傾げた。少なくとも鈴蘭はマーガレットと四六時中いちゃつきたいと思っている。

口論しているハンコックの後ろで考えごとをしていたが、いい加減出発しないと間に合わなくなるかもしれないと気づき、ようやく口を挟もうと前の二人に意識を向けた。
それにしてもこの二人、同じような話がループしていることに気付いているのか。ハンコックに易々と従わない中将に感心しつつ、鈴蘭は話に割って入った。

「まあまあ、落ち着けって。えーと、悪いね、中将殿だっけか。コイツはほんと我儘でさ」
「鈴蘭! わらわたちが謝る必要などない!」
「お前が謝んらないからだっての」

言い合いの勢いのままこちらを振り向いたハンコックを諌め、鈴蘭は改めてモモンガに向き直った。

「伝えてなかったのは、ま、こっちの落ち度だ。でも、私を乗せないで大変なのはそっちだぜ?」

これまでのモモンガを見るに、モモンガは腕っぷしだけ頭も回る。自分の正義をもっていて、且つ、形式ばかりに囚われない。メロメロメロウへの対処方に鑑みれば簡単にわかるが、脳筋でもなく、損得勘定ができる男だ。
そういうタイプにはごり押しよりも理詰めのほうが利く。
ハンコックも頭はいいはずだが、何分我儘なのでこういうことは大体鈴蘭の担当だ。……といっても、ハンコックの我儘が通らないのは本当に極稀なので、ほとんど機会はないも同然だが。

鈴蘭の意味深な発言に案の定モモンガは関心を向けた。
「……どういうことだ」
鈴蘭は長身の二人に挟まれながら、それを物怖じすることなく、ピッと人差し指を立てた。
「1、我儘なハンコックを止めるストッパー。2、男嫌いなハンコックがアンタらと喋るときの緩衝材」

ここまでで、モモンガは少し悩んでから渋い表情に戻る。
もう一息か。鈴蘭は三本目の立てた。

「3、私はコイツの主治医だ」

この言葉にモモンガが目を見開いた。まさかここで驚かれるとは思っておらず、カッとした目で見られ、次に続くはずだった言葉を思わず飲み込んだ。

「まさか、“九蛇の魔女”か!?」
「おお? 懐かしいな。その二つ名」

外海の人間から最後に呼ばれたのはいつだったか。
九蛇自体露出が少ないのに、鈴蘭は最近では専ら裏方で、表に出ることが少なかったのだ。

「……確かに、足手まといにはならないようだが、船医だったら海軍にもいる」
「それがさ、知っての通り、コイツは気難しい奴でよ。
治療が終わったら、それこそ老若男女関係なく石にするんだぜ、同席したやつもそう含めてな」

な! と鈴蘭がハンコックを見ると、わらわに触れれたのじゃ、石になるくらい何でもなかろう、と胸を張られた。
開き直ってんじゃねーよ。と小突くが、その理由が我儘だけではないことを知っている鈴蘭としては強く言うことはできないのだ。ただ自分が傍から離れなければそれで済む話だ。

唇を引き結んでいたモモンガは目を閉じてから、深いため息を吐いた。

「わかった。乗船を許可しよう。ただし、単独行動は許さん。戦争にも参加してもらうぞ」
「お、ほんとか! ありがとな!」
「フン、さっさとそうしておけばよいものを」
「オイコラ、せっかく話纏まったんだから余計なこと言ってんな」

部屋に案内する。そう言って先を先導したモモンガの後ろを着いていくハンコックの後ろを、青い空を眺めながら歩いた。