「ぎゃああっ!!」
「一度で覚えよ薄馬鹿者」

ハンコックは恒例の見下しポーズで海兵たちを見ながら――あの恰好では見えないだろうが――海兵たちに告げた。

「わらわの膳は一食100s!! これ以下は腹の足しにもならぬ!!! 再び石にされたいか!!!」
「やややや!! も、申し訳ありません!! 以後厳重に注意を!!」

インペルダウンに向かう船の途中。
女二人ならともかくルフィも同行しているのだ。通常の食事量で足りるはずがない。
乗っているのが海賊、ジュエリー・ボニーならいざ知らず、此処に居るのはハンコックと鈴蘭だけだ。
しかしルフィの存在は知られてはならないので、自然と運ばれてくる量は女二人分だ。

自分たちに与えられた部屋の机に座り、鈴蘭はふたりを見た。
ハンコックはルフィといちゃつく妄想しつつ、ルフィは食べることに夢中だ。
ハンコックはやはり奥手なようで、ルフィから食わねえのかと聞かれても照れてしまっている。

(胸がいっぱいで食べれないって…。もし私がマーガレットから食事を勧められたら、喜んで食べてるけどなー)

鈴蘭はハンコックの反応に首を傾げた。
ルフィが「ぶへー食った食った」と食後の叫びを上げたせいで海兵たちに怪しまれてしまったが、そこは愛の力なのか、あのハンコックが海兵たちに同じことを言っている。
海兵たちも驚いたようで、開けられたドアの隙間から、目が飛び出さんばかりの(実際飛び出している)驚きを見せている。
付き合いの長い鈴蘭ですらあんなハンコックは見たことない。改めてルフィ……というか恋の恐ろしさを感じた。

「馳走になった。皿を下げよ。――今の分量、わらわは一日に5回食すので忘れるな」
「そんなに!!?」「それでは我々の食糧が!」
「そなたらなど死んでも構わぬ」
「最悪だ! でも美しい…!」
「ああそれと、鈴蘭の分は別に用意せよ」
「は、はい!!」
「あれで一人分なのか……!?」

……今ハンコック、さらっと私の分を確保したか?

ハンコックをみながらにやついていると、扉を閉めて振り返ったハンコックが気に障ったようで眉を寄せた。

「……なんじゃ」
「いや〜? お優しいなーってな?」

さらに口角を上げて答えると、ハンコックがフンとそっぽ向いた。

「何拗ねてんだよ」
「拗ねてなどおらぬ!」

きっと睨みながら寄ってきたハンコックとしばらくじゃれていると、肉を貪ぼっていた二人を見ていたルフィが歯を見せて笑った。

「おめえら仲いいな!」
「そうでもねえよ」「そうじゃろう!」

綺麗にハモって、思わず顔を見合わせる。

「何故否定するのじゃ! わらわたちの付き合いではないか!」
「いや、まあ、そうなんだけどよ」

確かに20年来の付き合いではあるのだけれど、そうはっきりと仲いいというのは些か抵抗がある。
すると不機嫌そうにしていたハンコックが、一転して得意げな顔になった。

「なんじゃ、照れておるのか?」
「照れてねえよ! おい、触んなって」

クスクス笑いながら頬を撫でてくるハンコックの手を叩き落とす。
さっきまでと立場が逆転したことに気付いて、むず痒い気持ちになる。
食事を終えて手持無沙汰になったのか、ルフィが首を傾げながら聞いてきた。

「おめえらってどういう仲なんだ?」
「どういう仲……って、難しいな。一番しっくり来るのは幼馴染みか?」
「ああ、ルフィ。此奴とは“例の事件”前からの付き合いなのじゃ」

ハンコックが人さらいの件をにおわせると、一応気にしていたのか表情が明るくなった。

「そうなのか!……ん?」

そのあと、一転して首を傾げた。

「鈴蘭おめえいくつだ? おれより下じゃねえのか?」
「……ああ、いや」
「ルフィ、わらわたちは同い年じゃ」

思わず言いよどんだ鈴蘭をフォローして、ハンコックが言う。

「見えねえなー」
「ま、若く見られて光栄だけどな」
「子供っぽいということじゃろう」
「あんだと?」

ルフィの言葉で僅かに緊張していた鈴蘭の空気が緩む。

ふとハンコックと目が合う。
普段の冷酷さが鳴りを潜め、鈴蘭を憂いているような瞳。

「……少し外出てくるな!」

些か不自然かとは思ったが、笑顔でそう言ってから、甲板に出る。
扉を閉めた後、ルフィが「あいつどうしたんだ?」と言っているのが聞こえた。

「……わらわたちにもあるように、鈴蘭にも事情があるのじゃ」
「悪いこと聞いちまったか?」
「大丈夫じゃ、ルフィ。そなたが気にすることではない」

……おまえが気にすることでもねえけどな。
部屋の隣の壁に背を預け、部屋の中の会話を聞きながら苦笑した。

昔の話にかかわることが出るたびに、ハンコックは顔を曇らせる。
人攫いにあったことはもちろん、鈴蘭に起こったことはハンコックたちのせいではない。人攫いのせいであり、鈴蘭自身のせいだ。

――すまぬ、鈴蘭。

そう言って、涙を溢したハンコックの姿が脳裏をよぎる。

無駄にきれいな顔をゆがめて、鈴蘭を抱きしめたハンコックの涙の温度を気持ち悪いくらい鮮明に覚えている。

もう二度と、あんなのは御免だ。
ただ偉そうに笑っていれば、それでいい。

(通り過ぎた日の夢)