見られている。
確実に、見られている。

ダブルヤンキー事件から数日経ったわけだが、矢切という男子生徒がちらちらこちらを見てくる。私を見ているのか新堂くんを見ているのかは知らないが、とにかくうざったいくらいに視線を感じるのだ。

「新堂くん、あの人何なの?」
「うーん、僕は友達だと思ってるんだけど……この前のでちょっと喧嘩みたいになっちゃっててね」
「矢切くんのことかい?」
「一色くんも知ってるの」
「うん、まあ彼は界隈の人間なら誰でも知ってるくらいには、有名人だからね」

界隈の人間じゃない私は何も知らないわけだけど。
そう思いながら、私は矢切くんを見た。彼は今、叡山くんの前の席に座って叡山くんと話しながら、ちらちらとこちらを見ている。

「あれ、叡山くん面白がってるよね」
「そうだね」

私がそういうと、一色くんが爽やかな笑顔で同意した。何考えてるんだろうなあ、この人。

* * *

放課後、私はひとりで廊下を歩いていた。
新堂くんは研究会で、一色くんは寮に帰った。
私はというと電車までに少し時間があるので、なんとなく学校をぶらついている。

研究会。
新堂くんは郷土料理研究会に所属していて、地元愛の強い新堂くんは楽しそうに研究会での活動を話していた。
私ももう夏休みが差し迫るくらいこの学校に通っているので学校生活には慣れてきて、まあ部活か何かだと考えると、研究会に入ってみるのも悪くない。
ただ果たして私を歓迎してくれる部活があるだろうかという疑問はあるのだが……。

「おっ?」

そんなことを考えながら校内を徘徊していると、叡山くんを見つけた。

「叡山くーん」

手を振ってから駆けよれば、叡山くんは眉間に深い深い皺を寄せた。

「馴れ馴れしい、近寄んじゃねえ」
「ふふん、そんなこと言ったって無駄だよ。もう慣れたしね」

そのヤンキーオーラに怯えていたのは数日前までの話だ。なんだかんだ矢切くんからのギラついた視線をずっと浴びているうちに、耐性が付いたのだ。
叡山くんの眉間の皴がさらに濃くなったが、まあ些細なことだ。

「叡山くんって矢切くんと仲いいよね」
「良くねえよ」
「ちょっと伝言してくれないかな」
「聞け」

実力行使に出た叡山くんの右手が私の頭を掴もうと伸びて来たけれど、私は叡山くんの手の届かない距離まで引いて、ピッと指をさした。

「いい加減うざいから、直接来い! って言っといて!」

そのまま言い逃げようとしたが、叡山くんが私の伸ばした手を掴むのが先だった。

「だから、仲良くねえっつってんだろ」
「いたたたた」

指! 指折れるから!


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