「話がある」

何時もどおり一色くんと新堂くんと三人でお昼を食べていると、矢切くんが教室へやってきて私にそう言った。
私がお弁当を片付けてから立ち上がると、「秋ヶ瀬さん」と新堂くんが心配そうに呼ぶので、大丈夫とへらっと笑った。

私と矢切くんは件の校舎裏まで行くと、再度そこで相対した。

「それで、話って――」
「この前は悪かった」
「えっ」

喧嘩腰で話し出そうとした私の目の前には、矢切くんのものと思われる旋毛がひとつ。あ、やっぱ旋毛の辺りは黒っぽいな。……じゃなくて。

「……」

私は驚きを隠せないまま、矢切くんを見つめた。
矢切くんはその体勢のまま言葉を継いだ。

「正直、今でもお前のことは信頼してないし、新堂が気づいてないだけで利用してんじゃねーかって思ってる」
「本当に正直だ……」
「でも、この前は言い過ぎだった。悪かった」

矢切くんは頭を下げたまま微動だにしない。私の言葉を待っているようだけど、今のを聞いた後だと、許すも何もない気がする。
とりあえず私は、矢切くんの旋毛を人差し指で押した。ぐりぐりと念入りに。

「!?」
「じゃあ、これでこの件についてはお終いってことで、以後私たちの周りをうろちょろしないでね」

ピッと指をさしながら言うと、反対側に曲げられた。すごく既視感。

「ところで叡山くんとどうやって友達になったの?」
「友達じゃねえ。殴り合ったことがあるだけだ」

それでいいのか良家子息。

* * *

その日の放課後、私がいくつかの研究会を見て回っていた。どこも面白そうではあるんだけど、同級生には私の悪評が轟いているようで、同学年が所属する研究会には入りにくい状態だ。となるとほとんどの候補が消えるので、もう研究会は諦めた方が良いのかもしれない。

とぼとぼと廊下を歩いていると、また叡山くんを見つけた。
なにやら電話をしているようだ。
その背中を眺めながら歩いていると電話を終えたようで、聞こえていた声が一変して「クソが」と悪態をついていた。ひええ。

「叡山くん!」

そのガラの悪い背に声をかけると、これまたいかにもヤンキーと言った仕草で彼は振り返った。

「またテメエか。今度は何だ」
「昨日の伝言、ちゃんと言ってくれたんでしょ。ありがとう」

ぺこりと頭をさげると、叡山くんは「一色のやつが……」と言ってから、「面倒かけやがって」と私の頭に手刀を落とした。痛い。

「じゃあ面倒かけたお礼に、これあげる」

私が持っていた鞄からキレイにラッピングされたクッキーを差し出すと、叡山くんは少し驚いたような顔をした。

「これ、家の近くの洋菓子店で売ってるんだけどね、すごく美味しいんだ」
「当たり前だろ。この俺がプロデュースしたんだからな」
「えっ、そうなの!?」

中学一年生で!? そんなことするの!?
もしかして、叡山くんも一色くんと同じ中学生離れした中学生だったりするのかな。

私がクッキーについてべた褒めすると、叡山くんは眉間に皺を寄せたまま満更でもなさそうに鼻を鳴らした。
その姿に、数学の問について聞いてきた一色くんに近いものを見て、私はなけなしの緊張感を緩めてしまった。

「とりあえずこのクッキー貰ってくれる? 私が作ったのとどっちがいい?」
「どっちも要らねえよ」
「まあこっちだよね。私も自分で作ったのあげるきないし」
「聞け」

血管を浮き出させる叡山くんの手にクッキーを無理やり渡すと、自分でプロデュースしたというだけあって愛着があるのか、握りつぶしたり捨てたりはしなかった。

「ねえ叡山くん」
「まだなんかあんのかよ……」
「叡山って呼んでいい?」
「却下だ」
「よしよし、改めてよろしく叡山」
「聞け!」

やはり実力行使にでてきた叡山の手から、今度は上手く逃れることができた。
ひらりと身を翻した私は「またあしたー」と手を振りながら、時間ギリギリの電車へ急いだ。
実家通いも大変だ!


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