卵焼きが好きだった。

私が料理人を志す者が誰しも目指すような、名門・遠月学園中等部の入学試験に合格できたのは、ただそれだけが理由だった。

* * *

「何かの間違いなんじゃないの……」

私は茶色い封筒片手に、重苦しく息を吐いた。
憂鬱だ。なんて呟いたら、試験に落ちてしまったひとたちに怒られそうだけれど、思わずにはいられなかった。

秋ヶ瀬アキ、12歳。
卵焼きを焼き続ける人生を送ってきた私がどうしてこんなきらびやかな学校にいるかというと、私自身にもわからない。
強いて言えば、うっかり、だ。

もともと地元の公立中学に進学するつもりだった私は、ある日、ポストの中に入っていたパンフレットを見つけた。
私立の学校案内。特に興味はなく、中身を開くことすらせず食卓の上に放ったままだった。
「あれ、これ、母さんの母校じゃないのか?」
帰ってくるなり父が言った言葉に、私は漸くその中学の名前を知った。
学年1の秀才が豪華な名前の中学を受ける自慢話を聞いていたからなのか、そのときの私は掛かる受験料を考えもせず、ただ興味本意で「受けてみたい」と口にした。

まあ、受からないだろうけど。
と思いつつ申し込み、絢爛な学園に当てられながら試験会場に行けば、キラキラのキッチンと高そうな食材、そしてそれらと釣り合った、つまり私とは住む世界の違う小学生がずらりと揃っていた。
なんやかんや浮いていたためにひと悶着あったのち、私は出された課題に、頭に浮かんだのはたったひとこと。

『卵料理』

勝った。



秋ヶ瀬アキ
卵焼きが好きなだけの女


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