遠月学園の中等部では、高等部に比べて実技よりも座学が多い。中学となれば当然、料理関連以外の必修科目というのもある。
選択授業以外は基本的にクラス単位で教室で受けることが多い。そうなると、自然、近くの席のひととの付き合いは重要になるわけだ。

知ってる人は誰もいない環境で、クラス分けはとても大切だ。教室の扉に張ってある座席表を眺める。
序盤で自分の名前を見つけ、その隣の席を確認する。

一色慧という男子生徒が隣の席だった。

一色……なんて読むんだろう。イッショク? ヒトシキ? イチイロ……。ううん、わからん。
下の名前も、ケイ? サトシ?
まあ、自己紹介があるからいいか。
男女それぞれ列になっているらしく、男女差の帳尻は後ろの方で合わせられている。
目についたのは、『新堂幸太郎』という男子生徒の名前……。
思い出されるのは、入学式後のことだ。

* * *

入学式のが終わって、私がやっと堅苦しい式が終わったと息をついた時だ。

先ほどまで学園のお偉いさんがとんでもなくスパルタなお話をしていた講壇に、西洋系の顔立ちの男性が上がり、話始めた。

「私はローラン・シャペルだ」

明らかにカタカナ発音で言われた名前は、先生がどれだけ日本にいるかを暗示した。
なんだかお堅そうな雰囲気だ。さっきのおじいさんといい、こういう感じの先生ばかりなんだろうか。優しかった小学校の先生が恋しい……。
しばらく自己紹介をしていた先生は、さて、と一拍置いて、本題に入った。

「君たちの学年では、試験的にペア制度が導入される。目的等については入学概要を参照するように。
料理人は人を見る目も大切になる。自分の店を持とうと思っている者も多いだろう。人を見る目も学生のうちにしっかり磨いておきなさい。それでは、ペア決めを開始する」

「ペアが決まった者から座るように」

それだけ付け加えて、先生はマイクを切った。

「……んん?」

私は思わず顔をしかめた。入学の経緯が経緯なだけに、私はこの学園についてあまり知らない。ペア制度? そんなものあったの?
ていうか入学初日にやることか、これ! 全員初対面なんだけど!?

私が戸惑っているうちに、入学前から交流があったり評判を聞いていたりするものなのか、案外するするとペアが出来ていく。

「え、えー……?」

私が茫然としていると、突然裾を引かれた。

「わっ」

びっくりして振り返ると、心無し息が上がっている男子生徒が手を膝について立っていた。私からは旋毛しか見えないけれど、「あ、あのっ」とか細い声が聞こえてきた。

「うん!? 何、ちゃんと聞くから、落ち着いて〜」

男子生徒の肩を支えつつ一歩引くと、その男子生徒はバッと顔を上げ、もう一度頭を下げた。

「僕とペアになってください!」
「えっ、うん!? はい!」

あまりにも必死そうだったからつい条件反射で頷いてしまった。
再び顔をあげた彼の頬は僅かに赤く上気していて、ふたりで並んで座った後、「ありがとう」と嬉しそうに笑った。

* * *

「同じクラスかー」

結局自己紹介した後も、彼はどうして私を選んだのか教えてくれなかった。覚えてないならいいやと言っていたので、私が忘れている何かがあるのかもしれない。

まあ、ペアあのひとと同じクラスなら最悪ボッチにはならないはず……。ひとまず胸を撫で下ろして、私は教室に入った。
教室には新堂君はいなかったけれど、代わりに隣の席のひとは既にいた。
私が席に荷物を置くと、一色くんがこちらを向いてふわりと微笑んだ。

「きみが秋ヶ瀬さん?」
「え」

なんで知ってるんだ。と思ったが、そういえば私も彼の名前を知っていた。

「うん、そうだよ」
「僕は一色慧、仲良くしてくれると嬉しいな」
「イッシキくんね」

良かった、読み方教えてもらえた。

私が心中で安どしていると、一色くんは、年不相応に穏やかな微笑みを浮かべて手を差し出した。

はじめましての挨拶で握手というのは私のなかで馴染みがなかったけれど、この学校に通う生徒のほとんどが料亭やなんやの子息令嬢らしいので、私の知らない当然があってもおかしくない。

「……こちらこそ、よろしく」

私はむず痒いものを感じながら、その手を握り返した。


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