「あいつ、新堂幸太郎にほとんど頼りっきりだったぜ」

私がトイレから出ようとしたとき、隣の男子トイレからそんな声が聞こえてきた。確実に私のことだ。
なんとなく足を止めてしまったが、鉢合わせるのはなんか嫌だし、どうしようかなと思っていると私の背中に何かがぶつかった。

慌てて振り返るとふらりと黒髪の女子生徒が倒れていくのが見えて、いくら綺麗な校舎でもトイレで倒れるのはヤバいと少し強引に腕を引き背中を支えた。

「だ、大丈夫!? ごめん、急に止まって」
「私の方こそ、前を見ていなかったわ。ごめんなさい」

綺麗な黒髪を几帳面に三つ編みしている彼女は、すぐに私の手を解いて、眼鏡と制服を整えながら言った。

「……」
「なにか?」
「あ、ううん、なんでもない」

じーっとそのまま見ていると、伏せがちな瞳で見上げられ、慌てて道を開けた。
その凛とした後ろ姿を見ながら、私ははーっとため息をついた。
すっごい和風美少女。それにいい匂いがした。

トイレから教室に戻った時には悪口のことなんか頭からなくなっていて、どころかそのおかげで良いことがあったと上機嫌だった。


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