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叡山くん(名簿で漢字を見つけた)から冷たくあしらわれたことを新堂くんに話すと、「すごいところに声かけたね……」とぎょっとされた。やっぱり怖いよね、叡山くん。
でもいけると思ったんだけどな。
どうやら彼が私の悪口やなんかを言わないのは、ただ興味がないだけらしかった。ならなんで見てるんだという疑問は残るが、素直になれないツンデレさんには見えないし、とりあえず当分関わる予定もないのでそういうことにしておこう。
今はそれより、目下の問題について考えよう。
はじめてのちょうりじっしゅう。
そんな可愛らしいものではないけれど、漸く実技ができるということで心無しみんなテンションが高い。……私を除いて。
「……」
「頑張ろうね、秋ヶ瀬さん!」
隣の新堂くんは握りこぶしで意気込んでいる。
「あー、うん、そだね」
私は苦笑いで返しながら、困ったなと頬を掻いた。
まったく料理するモチベーションが沸かない。
* * *
さて、現在私がぶち当たっている問題とは、『モチベーション』。これに尽きる。
もともと私は料理するのが好きというよりも、食べるのが好きなのだ。
だから自分がおいしいものを食べるために料理するのはいいけれど、他人に食べさせるためだけに作るなんてことでやる気が起きないのだ。
そのことを自覚したきっかけは、入学試験だった。
見慣れない調理器具や食材に興奮しつつ一時は我を忘れたが、時間が経つにつれて冷静になり、いつも通りに料理を始めた。
出来上がったのは目標である母の料理には一枚も二枚も劣る卵焼きだったけれど、そのとき審査員だったおじさんやおばさんの反応は概ね良好だった。思い返すとあの列の並びにシャペル先生が居た気がする。すごい仏頂面で食べてた。
審査が終わった後、私は自分用に取り分けておいた卵焼きを食べようと厨房を振り返ったのだが、そこにはあるはずの卵焼きがなかった。
あれ? と私が首を傾げていると、不正の無いよう監視していたサングラスのお兄さんが一切の悪気なく笑って言った。
「美味しかったよ、キミの卵焼き。わざわざ私の分までありがとう」
残酷なその言葉を聞きながら、私はどうにか笑って「そうですかー」と返した。小学六年生の愛想なんて知れてるから、お兄さんが誤解していたことに気付いたかもしれないけれど、そんなのは後の祭りだ。
楽しみにしていたのに。普段家にはないようなお高い食材をふんだんに使った卵焼き……、きっともう作ることはできないのに!
あのときのことを私は一生忘れない。
私は自分のためだけにしか、料理を作れない。
新堂くんにペアを組んだ直後に、簡単にこういう体質(というのはたぶん正確ではないけど)だというのを話したのだけど、いまいちピンと来ていないようだった。
お客様に料理を提供するのが当然の環境で育ったのだから、そもそも「作ったものを誰にも食べさせない」という発想がないのかもしれない。
そもそもと言い始めると、そもそもここは料理人を育てる学校なのだからそれくらい承知で来いよという話だが、そう言われるとぐうの音も出ないので言わないでほしい。
* * *
「調理開始」
ちょっと聞き取れない言語だけれど、おそらくそれは開始の合図だった。
キッチンに並ぶ全員がそろって行動を始める。今回の実習では、入学してから今日までの間に学んだことの実践だ。
先生に食べられるために作るの、憂鬱だなーと私がげんなりしながら玉ねぎを刻んでいると、私の陰鬱な雰囲気を察した新堂くんが気遣うように言った。
「秋ヶ瀬さん、僕が主導でやるから、サポートお願いできる?」
「新堂くん……うん、任せて」
申し訳なくなるくらいにいい人だな。
新堂くんの料理の腕は確かで、評価はすごく良かった。
おんぶにだっことはこのこと。
でもいけると思ったんだけどな。
どうやら彼が私の悪口やなんかを言わないのは、ただ興味がないだけらしかった。ならなんで見てるんだという疑問は残るが、素直になれないツンデレさんには見えないし、とりあえず当分関わる予定もないのでそういうことにしておこう。
今はそれより、目下の問題について考えよう。
はじめてのちょうりじっしゅう。
そんな可愛らしいものではないけれど、漸く実技ができるということで心無しみんなテンションが高い。……私を除いて。
「……」
「頑張ろうね、秋ヶ瀬さん!」
隣の新堂くんは握りこぶしで意気込んでいる。
「あー、うん、そだね」
私は苦笑いで返しながら、困ったなと頬を掻いた。
まったく料理するモチベーションが沸かない。
* * *
さて、現在私がぶち当たっている問題とは、『モチベーション』。これに尽きる。
もともと私は料理するのが好きというよりも、食べるのが好きなのだ。
だから自分がおいしいものを食べるために料理するのはいいけれど、他人に食べさせるためだけに作るなんてことでやる気が起きないのだ。
そのことを自覚したきっかけは、入学試験だった。
見慣れない調理器具や食材に興奮しつつ一時は我を忘れたが、時間が経つにつれて冷静になり、いつも通りに料理を始めた。
出来上がったのは目標である母の料理には一枚も二枚も劣る卵焼きだったけれど、そのとき審査員だったおじさんやおばさんの反応は概ね良好だった。思い返すとあの列の並びにシャペル先生が居た気がする。すごい仏頂面で食べてた。
審査が終わった後、私は自分用に取り分けておいた卵焼きを食べようと厨房を振り返ったのだが、そこにはあるはずの卵焼きがなかった。
あれ? と私が首を傾げていると、不正の無いよう監視していたサングラスのお兄さんが一切の悪気なく笑って言った。
「美味しかったよ、キミの卵焼き。わざわざ私の分までありがとう」
残酷なその言葉を聞きながら、私はどうにか笑って「そうですかー」と返した。小学六年生の愛想なんて知れてるから、お兄さんが誤解していたことに気付いたかもしれないけれど、そんなのは後の祭りだ。
楽しみにしていたのに。普段家にはないようなお高い食材をふんだんに使った卵焼き……、きっともう作ることはできないのに!
あのときのことを私は一生忘れない。
私は自分のためだけにしか、料理を作れない。
新堂くんにペアを組んだ直後に、簡単にこういう体質(というのはたぶん正確ではないけど)だというのを話したのだけど、いまいちピンと来ていないようだった。
お客様に料理を提供するのが当然の環境で育ったのだから、そもそも「作ったものを誰にも食べさせない」という発想がないのかもしれない。
そもそもと言い始めると、そもそもここは料理人を育てる学校なのだからそれくらい承知で来いよという話だが、そう言われるとぐうの音も出ないので言わないでほしい。
* * *
「調理開始」
ちょっと聞き取れない言語だけれど、おそらくそれは開始の合図だった。
キッチンに並ぶ全員がそろって行動を始める。今回の実習では、入学してから今日までの間に学んだことの実践だ。
先生に食べられるために作るの、憂鬱だなーと私がげんなりしながら玉ねぎを刻んでいると、私の陰鬱な雰囲気を察した新堂くんが気遣うように言った。
「秋ヶ瀬さん、僕が主導でやるから、サポートお願いできる?」
「新堂くん……うん、任せて」
申し訳なくなるくらいにいい人だな。
新堂くんの料理の腕は確かで、評価はすごく良かった。
おんぶにだっことはこのこと。
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