目が覚めたら知らない天井───なんて、そうある話じゃない。
この世界に来て初めて見た景色は、木目の天井だった。私の部屋の天井は白色だったけど、寝ぼけた頭でその木目を見てもいまいちピンと来なかった。何処に出掛けてたっけ、それとも目が覚める夢を見てるのかな。多分そうだ。じゃあこれは明晰夢ってやつだ……そんな惚けた思考で、もう一度眠りに入ろうとしたのだ。
薄く開けた目を再び閉じようとした時、横からカーテンを引く音と共に光が差し込んだ。その光がやけに眩しくて、反射で眉間に力が入った。きっと相当ひどい顔をしていただろうと思う。
現れたのはいやに色気の溢れる姿のナースさんで(その時は本当にナースなのかしばらく疑った)、私の意識や健康状態を確認した後、私に爆弾を落とした。
「貴女、樽に入って流されてたのよ」
覚えてる?と。
…
樽に入って…今考えると笑えてくる。私は寝ている間に島流しにでもあったのか?21世紀に?寝ぼけて大罪でも犯したのか、私は。
快晴の下、洗濯物を取り込みながら海を眺める午後。穏やかな波にキラキラ反射する日光は、綺麗さとは裏腹に人間には厳しい。確実に肌は焼けているし、頭頂部は既に煮えたぎっている。
今朝、サッチさんが「夏島の領域に入ったぜ」と教えてくれた時は夏島が何かを知らなかったので曖昧に頷いておいたけど、お昼近くになって実感した。大方夏の気候の島ってとこだろう。夏バテ疑惑の体調になり昼食はあまり食べられなかった。
それにしても日差しが強い。ちょっと頭痛がするレベル。…………ダメだ、ちょっと日陰で休もう。
洗濯物を取り込んで、畳んでしまえば夕食まで仕事は無い。それでもこんな風に座り込んでいるところを見たら、具合でも悪いのかと聞かれそうだから長居は出来ない。実際具合悪いんだけど。
心配かけたく無いし、されたくない。何かに意地になってる訳じゃなくて、そういう性分なので仕方がない。
日陰に入れば直射日光に当たっているよりは幾分マシだ。それに目を閉じて聞く波の音は、体の重さを攫ってくれる気がする。
「おい、どうした?」
早い〜〜〜!見つかるのが早いよ!!!
無視するわけにもいかないので渋々目を開けると、目線を合わせるように蹲み込んでいるエース君が目に入った。エース君その帽子いいね、正解。
「……ちょっと、休憩」
「具合悪ィのか?」
「いや、大丈夫だよ」
案の定心配そうな顔で見てくるもんだから、しくじったなぁと思う。仕事全部終わらせて自室に戻るんだった。
それにしても、エース君の人の良さは一体何なんだろう。エース君に限らず、この船にいる人は皆んな優しい。海賊と聞いた時は死んだも同然だと思っていたけど、そんな素振りが全く無いのは何でなんだろう。私なんか何時でも捻れるぞって余裕?それでも優しくする理由なんか…というか、理由云々じゃなくて、根っからの優しさみたいなものを感じることが多々あって混乱する。今とか。
大丈夫と言ったのに中々動かない私を見て、エース君は怪訝そうに「おい」と言った。
「顔色悪いぞ。医務室まで歩けるか?」
「…ちょっと休めば大丈夫」
「熱があるんじゃねェのか?」
「いや………夏バテ、かな……?」
「水は?」
「…飲んでないかも……」
「飯は」
「………………食べてないかも……」
「なんでだよ」
体が怠くて目を開けているのも億劫なレベルけど、あと一踏ん張りしてせめて部屋まで行こう。そう思って立ち上がりかけた瞬間、目眩で足の力が抜けた。みっともなく膝をつく自分に溜息が出る。溜息なのか深呼吸なのかも分からなくなってきた。
その息に、私のじゃない深く吐いた息が重なった。
「お前、自己管理グズグズだな」
「………………返す言葉もございません」
そうしてエース君に医務室まで運ばれた後、ナースさんには呆れながら熱中症だと診断を下され、昼食をほぼ食べなかったことをサッチさんに怒られ、私はご飯を抜かないという誓いを立てさせられるのだった。
エース君はおにぎりを食べながら、私が大人たちに怒られる様子をずっと見ていた。それは私のじゃないんか。