セバスチャン・サロウの場合
「君は随分、彼と仲が良いようだな?」
クソ、またか。
寝室に足を踏み入れた瞬間これだから、自然と溜息が出てしまった。ドアから光が漏れていなかったから油断した。よく考えれば、声の主──オミニスに光は必要ないんだった。
僕はもう一度、今度は態とらしく溜息を吐いて、一目散にベッドに向かう。僕にも光は必要ない。暗闇に紛れて寮に帰るのは慣れたものだ。
「また彼の話?」
ここ最近は、「彼」だけで誰の事を指しているか分かるようになってしまった。
「君は、とても転入生と仲が良い」
声のする方向からして、オミニスは自身のベッドにいる。彼に気づかれないように、僕は禁書の棚から拝借したものを枕の下に隠す。四年間使い続けたそれは、幼児向けの絵本くらい薄い。
「あぁ。まぁね」
オミニスの小言にはうんざりだ。僕の進む道は僕が決める。君には悪いと思っているけれど、アンを諦めないでくれているのは、転入生だけだ。
「彼は、俺について何か言っていたか?」
「は?」
僕はオミニスの顔を見る。正確には、顔があるだろう場所を。だって、いつもの台詞は「彼と関わるのは止めろ」「彼を巻き込むのは止めろ」のどちらかだ。
「何か、って?」
「何かだ」
彼の様子は、一言で表すなら変だ。僕は話している相手が本当にオミニスなのか、熱でも出したんじゃないか不安になってルーモスを唱えた。
部屋が僅かに明るくなる。僕の予測地点から数センチ左にオミニスがいた。足を組み、いつもの表情でベッドに腰かけている。
「転入生は、陰口を言うようなタイプじゃないぜ」
「言われなくても分かっている」
──言われなくても分かってる?
まるで彼と親友にでもなったかのような口振りだ。僕は答えの分からないこの話に腹が立ってきた。
「じゃあ、なんだよ?」
「だから、つまり」
オミニスは言葉に詰まり、誤魔化すように咳払いをした。喉に百味ビーンズを詰まらせた一年生とそっくりだ。
「スリザリンの一年によると、俺は整った顔をしているらしいな?」
「え? あ、あぁ。まぁね」
「転入生は何か?」
僕は一瞬、自分が馬鹿になったのかと思った。しばらく声が出ず、部屋中を静寂が包む。そして、数秒後。これ以上は入らないくらい息を吸い、同室の奴らの睡眠なんて気にせず声を荒らげた。
「転入生が、君を、カッコイイと言ってるか、知りたいって?」
「何か言っていたか?」
「なんでだよ……!」
よく知ったこの男の考えが分からず、右手に杖を持ったまま頭を抱えた。例えば、転入生が聞くなら分かる。彼とオミニスの出会いは散々だったし、転入生は皆と仲良くしたい"良い子"だから。
しかし、質問者は他でもないオミニスだ。もしかして、からかわれているのか?
「それを聞いて何になるんだよ?」
今度はオミニスが黙る番だ。このままじゃ埒が明かない。僕は三度目の溜息を吐き、ベッドに横たわって瞼を閉じた。
「特に何も。話題に上がらないから」
僕が無言で杖先の光を消すと、布が擦れる音が聞こえる。オミニスも大人しくベッドに入ったようだった。
目をつぶっていると、ふつふつと罪悪感が湧き出てきた。自分がホグワーツで最も酷い友人のように思えてくる。 僕は目を開け、闇の中で彼を見つめる。
「機会があれば聞いてやるよ。おやすみ」
「おやすみ」
そのチャンスは想像より早く巡ってきた。僕は転入生御用達の菓子屋で彼を捕まえ、ただの雑談のように話しかける。そういえば最近、オミニスと話してるよな? 調子はどう? こんな感じで。
そして、得られた成果はこれだ。
「え? オミニス?」
「え? どうって……良い人、だね?」
「見た目? え……あぁ、綺麗な顔立ちだよね。なんだか美術作品みたいな」
転入生は全てのセリフに「え?」を入れるものだから、僕は恥ずかしくて仕方がなかった。
「美術作品みたい」
転入生の言葉を口に出す。目の前の男は、確かに端正な顔立ちをしているが、それは言い過ぎだ。美術作品は人にこれほど鋭い目つきを向けないし、三本の箒の床にパンくずを落としはしない。
「はぁ?」
当然ながら、はぁ? とも言わない。
「転入生がそう言った。君は美術作品みたいだって」
「褒め言葉か?」
「あぁ。あと良い人で、綺麗な顔立ちだとも言っていたかな」
オミニスは「ふん」と満足そうに口角を上げ、ぺたぺたと自分の顔を触る。両手を頬にやり、輪郭をなぞる。こんなふうに容姿を気にするオミニスは初めてで、僕は薄気味悪さを感じていた。変な薬でも飲んだのか? 誰かに惚れ薬を盛られたのかもしれないが、それならどう考えても転入生が薬を盛った人物だ。
僕は変に乾いた喉を潤す為、バタービールを一口飲む。すると、オミニスは突然動きを止め、四方八方に顔を動かした。そして、僕に尋ねる。
「転入生がいる?」
僕は彼に代わり、三本の箒を見渡した。転入生の姿はどこにも見当たらない。今入ってきたのも、ハッフルパフの下級生だ。
「いないけど。足音でもした?」
「いや、似た匂いがした。きっと同じ洗剤だ」
その言葉に、僕はここ最近で一番深い溜息をついた。恋するオミニス・ゴーントは、気味が悪い!