prologue


「えーっ!!?誠騎ちゃん転校しちゃうのぉーっ!!?」

「うん。隣街のBASARA学園だけど。」

家の都合で転校することが決まった春休み。本日は転校前最後の日曜日である。休み前から約束していた友達に連れられ、出歩いている最中にカミングアウトをした次第だ。


「編入試験もギリだけど合格したし、入寮手続きも一応終わたからもう荷物も送ってある。後は行くだけだね。」

「えーっ!!!やだぁーっ!!」

「寂しいよ!考え直してっ!!」

「そうは言ってももう決まってるし…それに私以外の家族は四国に引っ越しなんだから。それより近いじゃん?」

「う〜……」


首を傾げて聞けば、皆は口を噤んだ。

私こと成城誠騎は生まれ持った長身と男兄弟に囲まれて育った環境で養われた性格のため、その辺の野郎より男前…………らしい。
自分じゃそう思った事もそんなつもりもないんだけど、幼稚園来の幼馴染みにも言われているからどうも信憑性があるから困ったものだ。
そんな私ですが、この3月までの1年間、少女の園こと千石女子高等学校に通学し、宛ら毎日ハーレム擬きかつ宝塚の花形気分を存分に味わっておりまして。まぁ、そんな事になっている理由は他にもあるのだが、それはまた追々。
兎も角、そんな私の転校に友達らはとても驚き、悲しんでくれている様子。

「じ、じゃあ親衛隊はどうするの!?」

「えっ、何それ!?」

必死な友達が口走った事に私は思わず顔を歪めた。

「馬鹿っ!何言ってんのよっ!」

「それは内密事項でしょっ!!」

途端、別の娘らが親衛隊発言した娘の口を抑え咎める。

「な、何でもないの誠騎ちゃん!気にしないで!」

「…ん、分かった…」

取って付けたような磔の笑顔の彼女等に私は苦笑いを浮かべた。
割りとこう言うのも日常茶飯事だったからあんまり気にしないでおくけどやっぱり慣れないなぁ…。

「ねぇ、何時発つの?行く前もう1回位遊ぼうよ!」

「あー…それは無理かも。明日なんだよね。」

「えーっ!!!いきなり過ぎるよ!!」

「何でもっと早く言ってくれなかいのーっ!!?」

「あ、いや、そんな遠くに行く訳じゃないから、いいかな〜と…ごめんね。」

せびる様な媚びる様な感じで言う彼女達に私は苦笑いを崩せないまま答える。
ハーレム擬きは楽しいけど、たまに疲れる事もあるのが正直な所。まあ、概ね楽しいからいいんだけどさ。

「転校しても遊びに来てね!?」

「うん。」

「体育祭とか文化祭とかも絶対来てねっ?!一緒に回ろうねっ!!」

「う、うん…ありがと。」

ちょっと傷心を気取りながらも苦笑を崩さず答えて、ふと顔を背けた先に目障りな光景。

「おいおい姉ちゃん、これ卸し立てだぜ?どう落とし前つけてくれんだよ?」

「す、すみません……っ!!」

「謝って済む問題と済まねぇ問題があるよなぁ?ん?」

「そんな…!!」


見れば私らより上か同じ位の綺麗な御姉さんが今時流行んないカッコの不良に絡まれてるではないか。

いやいや、理由古くないか?
卸し立ての服が汚れたとか時代あってるか?
それはそれとして、女1人に2人掛かりとは頂けないんじゃない?

「なぁに。ちっと付き合ってくれりゃ見逃してやるからよ。」

「やっ!……止めて、下さい……っ!!」

「あぁっ?!!口答えすんのかぁっ!?」

「ねえ、ちょっと、オニーサン方。」

思ったが早いか、私は友人を置き去りにその近くまで走り寄っていて、御姉さんが野郎の腕を振り払った瞬間反射的に声を掛けていた。
それから若干、眼を飛ばしつつゆっくりと距離を詰める。

「あぁ?ンだテメェ?」

勿論、一昔前のオニーサン方だ。そんな近付き方されたら黙ってない訳で、舎弟らしき方が眼を飛ばし返しがら凄んできた。

「通りすがりの女子高生。別に問題ないでしょ?」

「問題ありまくりだこのアマぁ!!ンな事聞いちゃいねぇんだよっ!!」

「……あ?何だテメェって聞かれたから教えてやったんだろーが。」

「そうじゃねぇよ!何の用だってんだよっ!!!」

「それなら何だじゃなくて最初からそう言わないと。ねぇ、オニーサン?」

「テメ…!!」

「……おいおい、落ち着けや…。」

挑発的に言葉を並べると案の定逆上しそうになる下っ端だったが、立場が上っぽい方が間に入る。

「御嬢さん、俺達ゃ何も捕って食らおうなんざ思っちゃいねぇ。服汚されたんだ、それ相応の見返り求めたって何ら可笑しかねぇだろ?」

「服を汚した見返りねぇ……」

「な?だから邪魔しないでくれねぇか?」

「…そうだなぁ……、あ、でもさ、」

「あん?」

穏やかな口調で諭す様に言う上っぽい方。納得した素振りを見せながら間合いに詰め寄って下から睨みを利かせる。

「時代錯誤って知ってっか?オッサンよぉ!」

「…!!んだと小娘…っ!!下手に出てりゃ調子ン乗りやがって…!!!」


御姉さんを庇う様に一歩前に出ると、遂に本性現したと言わんばかりに穏やかな口調を一変したオニーサンが顔を歪めて手を振り上げる。


「その辺にしとけよ。」


来るであろう衝撃に身構えて、臨戦態勢を取ったその時、低い掠れた声が響いた。

「!」

「あぁっ?!」


謀らずも不良達と同時に声の方を見れば、鋭い隻眼のガタイの良い銀髪の野郎が不良等の後方に立っている。
奴はポケットに手を突っ込んで、ゆっくりと近寄ってきた。


「どっちが吹っ掛けたかは知らねぇが、女に手ぇ上げるのは頂けねぇんじゃねぇか?」


若干口角を上げたその顔は見るからに不良だったが、何というか一線を画す感じの奴らしい。
下っ端じゃ無い方の肩が僅かに竦んだ。


「んだとテメェっ!!やんのかコラァっ!!」

「や、止めろ…!!」


早速喧嘩腰になった舎弟の肩をもう一方が青冷めながら掴む。

「何言ってんスか!!」

「止めろってんだよッ!!あいつァ……例の21代目だ…!!」」

「!!?」


上っぽい兄さんは強く抑止した後ぼそりと言った。


(21代目?)


って何だ?
極道的な?
そんな歳食ってる訳じゃなさそうだし、不良っぽいけど、パッと見そこまでそんな感じじゃないけどなぁ…。


「い、いやぁ、すいやせん…ウチのは血の気が多いもんで……」

「なぁに、構やしねぇ。血の気が多いのは御互い様よ。」

なんて1人で考えていれば、いきなり腰が低くなった不良に銀髪隻眼はニヤリと笑う。

「ただよォ、挑発されただけで女を殴り付けんのはどうかと思ってな。」

「へ、へぇ、以後気ィ付けます…!し、失礼しやしたッ!!おら、行くぞ!!」

「へ、へいっ!!」


するとどうだろう。不良共は苦笑いを浮かべてそそくさと去っていった。

何なんだ、この銀髪隻眼?


「……あ、」

奴等の背を見送りながら、ふと隣に目を遣れば絡まれていた例の綺麗な御姉さんが唖然と立ち尽くしていた。
そうだ、そうだ、御姉さんを助けに入ったんだったよ。

「御姉さん、大丈夫?」

「えっ!?」

突然声を掛けられたからか、彼女は肩を跳ねさせて此方を見た。
不良に絡んでった手前、変に怖がらせない様に学校の女子達に評判の笑顔を浮かべてみせる。

「怪我とかしてないですか?」

「あ……、はい、有り難う御座います。」

「いやいや、御礼ならそっちの兄さんにして下さい。私は何もしてませんから。」

「いえ、そんな…、助かりました…有り難う御座います。そちらの御兄さんも…」

ぺこりと頭を下げた御姉さんに銀髪隻眼は口の端を上げ事も無げな態度を取った。

「礼には及ばねぇ。」

「御姉さん綺麗だから、気を付けてね!」

「本当に有り難う御座いました!」


愛想の無い野郎に続いてそう言えば、御姉さんは頬を染めつつ、深々と頭を下げてその場を去っていった。

人助けって気持ち良いな!


「…おい、アンタ」

「ん?」

そんな自己満足に満たされ、彼女の背を見送っていれば、不意に声が掛かったので顔を上げる。

「何?」

「あの女、アンタの連れじゃねぇのか?」

「違うけど?私の連れは…多分、今私の事探してる思う。」

「探してるって…おめぇ……。」

銀髪隻眼の問いに答えれば、吃驚した様な、がっかりした様な表情で肩を落とした。

「何だよ、失礼な奴だな。」

「っと、すまねぇ。気に障ったかい?」

横目で軽く睨みを利かせれば、軽く頭を下げて奴は続ける。

「何でもねぇ赤の他人を庇う様な女が居るたぁ思わなくてよ。」

「女の子が困ってたら助けないと。」

「あ?……まぁ…そうか、」


答えれば、野郎は一瞬目を見開き、曖昧に答えた。


「………似た様な考えの奴ってのは居るもんなんだな…」

「何?言いたい事あるならはっきり言いな。」

「何でもねぇよ。」


野郎がぼそりと何か言った様に聞こえて聞き返すも、奴は目を瞑り肩を竦める。
その仕草に首を傾げていれば、奴の後ろから大柄な影が近付いているのが見えた。


「あーっ!!いたいたーっ!!おーいっ!!元親ぁ!!」

少し高めの良く通る声に野郎は溜め息を吐き頭を抱える。

「っち、見つかっちまった……」

奴は渋々振り返ると、苦い顔で近付いてきた影に対峙した。
現れたのは如何にもテンション高そうな長髪ポニーテール。

「俺にばっかり買い出し任せるのは酷くないかい?謙信に言い付けるぞ!?」

「わぁーった、わぁーった。晩飯は俺が作るからよ、な?それで相子だ。」

「マジで?やりぃッ!!って言うか、此方の美人は誰だい?」

うんざりした顔の銀髪隻眼とは対象にテンションの高いポニーテールが不意にオレに視線を落とした。

「び…っ!?美人んっ!!?」

「何だい何だい!この俺を差し置いて女の子と逢い引きなんて元親も隅に置けねぇなっ!!!」

「違ぇーわ、馬鹿ったれ。ちっと手ぇ貸しただけだ。てめぇと一緒にすんな、慶次。」


テンションの高いポニーテールに言われた事に驚いて固まってれば、銀髪隻眼は面倒臭そうな顔をして徐に足を進める。

「嬢ちゃんよ、肝の据わった女は嫌ぇじゃねぇが、あんま無理すんじゃねぇぞ。」

「うおっ!?」

傍らを通り過ぎ様、突然わしゃわしゃと頭を撫でられた。

「じゃあな。」

「あっ!おい!待てよ元親っ!!」

何事も無かった様に去っていく銀髪隻眼にテンションの高いポニーテールは言うと、踵を返す。

「あ!それじゃキミも!またな!」

去り際にポニーテールは私に笑い掛け、銀髪眼帯を追っていった。

「お、おーぅ……?」

唐突に言われたから天パってつい復唱したけどまたとかあるのか…?

「何だ……あいつ等…?」


遠退く奴等の背を見送れば、自然と言葉が零れた。




何か気になる、引っ掛かる。
「あーっ!!誠騎ちゃんいたーっ!!」
「もう!いきなり走り出さないでよ!」
「あ、ごめん。」



【続け】

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