私は独り暮らしの一般人。
でも、私の部屋は独り暮らしの一般人が住むには適さない。
私の部屋は基本洋風だけど、一カ所だけ不自然な襖がある。
部屋を借りたばかりの時、何を思ったか、その襖に貼ってあったこれまた不自然なシールを剥がしてしまった。
それが事の始まりだと知らずに………、
「朝で御座るっ!起きられよ!朝で御座るっ!」
「う〜……ん、今日火曜日じゃん……あとちょっと…」
「駄目駄目。ほら、起きなさいっ!」
「うわぁぁっ!!布団返してぇぇぇっ!!!」
武将と一緒!〜火曜日〜
襖はどういう訳か戦国時代に繋がっていたらしく、一週間日替わりで戦国武将が私の部屋に現れる。
「全くもう。七日に一遍しか会えないんだから、旦那と早起きしてきたのにあとちょっとは無いでしょうよ。」
「御免なさい、お母さん。」
「お母さんじゃないから。寝惚けてるの?」
「佐助!お代わり!」
「はいはいちょっと待ってね。」
火曜日は甲斐の虎若子真田幸村とその十勇士筆頭猿飛佐助。
幸村さんは熱血漢で純粋。言っちゃ悪いけど、何か可愛い。
佐助さんはクールなお兄さん。でも、凄く家庭的な良い人。
独り暮らしなのに、お母さんと弟がいるみたいで、私の中で火曜日は家族の日となっている。何てったって、この日は待ってても御飯が出てくるんだもん。
「はい、旦那。30回噛んで食べるんだよ。」
「分かっておるわ!」
「はいはい。ふー、やっと一息付けるよ。」
そう言って佐助さんはエプロンを外して幸村さんの隣に座った。
洋風のキッチン故にダイニングはテーブル。でも佐助さんは一番最初から全く違和感も不信感も抱かず、普通に自然に座ってたっけ…。
「……あ。すみません、佐助さん。何時も御飯作ってもらっちゃって…」
余りにもナチュラルにお母さんしてるのでうっかり忘れそうになったけど、何とか思い出し、私は言った。
「いーえ。何時もやってるし。この時代は便利だから逆に楽出来るしね。」
すると佐助さんは優しく笑う。
ああ、やっぱり良い人。月曜日の誰かとは大違いで安心する。
「今日は御仕事は?」
「夕方からです。」
「じゃあ家事は俺様がやるから、ゆっくりしてな。」
「そんな悪いですよ!佐助さんだって何時も大変なんでしょ!?」
「いーの、俺様は。」
「でも…っ!」
「じゃあ旦那の御守り頼むから。それで御相子。」
「佐助っ!俺はもう御守りなどいらぬっ!!子供扱いするなっ!!」
ぱちんと片目を瞑る佐助さんに幸村さんが言った。
しかし、そんな幸村さんは言葉に反してとても可愛い事になっているではないか。
「……幸村さん、口の周りに御飯粒付いてますよ?」
「ぬっ!?」
「あはは、旦那カッコ悪〜い。」
「わ、笑うな佐助ぇ!」
笑いを堪えながら告げると幸村さんは瞬く間に真っ赤になった。
本当にもうこの人は可愛い。
月曜日の誰かとは大違い。(本日2度目)
「はいはい。分かったから。食べながら喋らないの!」
ムキになった幸村さんを軽く流した佐助さんは何処からかハンカチ的な物を取り出し幸村さんに渡す。
「む。すまぬ。」
受け取る幸村さんに佐助さんは、いえいえ、と別段気にせず手を振った。
それから佐助さんも朝御飯を食べ始めるのだが、どうも違和感を覚えるのは私だけかしら…?
仮にもこの2人、主従関係なのだから、もうちょっとこう…政宗さんと小十郎さんみたいな…………あ、よく考えたらあの2人と変わんないか。
私が思っている程、主従ってのは厳しくないのかもしれない。
少なくともこの人達に関しては、などと思いながら箸を進めた。
「はっ!そうだ!」
突然、幸村さんが何か大事な事を思い出したかの様に顔を上げる。
「幸村さん?」
「どしたの旦那?」
聞き返すと、深刻そうな顔で幸村さんは佐助さんを見た。
「俺や佐助は此処で朝餉を食べているが………御館様はどうしておられるのだ……?!!」
「え?大将?」
心配というか不安というかそんな口調の幸村さんに聞かれた佐助さんは目を屡叩く。
そう言えば幸村さん達はよく御館様って人の話をしているが、一体誰なのだろう?
「それならちゃんと作ってきてあるから。大丈夫だよ。」
「そうか…!流石佐助だな!」
私が疑問符を浮かべていれば、佐助さんはにこりと応え、幸村さんもホッと表情を崩した。聞くなら今かもしれない!
「あの、幸村さん、佐助さん。」
「如何致した?」
「んー?」
ちょっと躊躇いがちに話を振ると、幸村さんは首を傾げて、佐助さんは目だけ此方に寄越して返事をしてくれた。
「前から気になってたんですけど、御館様とか大将とかってどんな方なんですか?」
すると、幸村さんが目を見開き、間髪入れず身を乗り出してきた。
「お、御館様を御存知ないと申されるか…?!」
「ご、御免なさい…」
突然声を張られて驚いてしまった私は肩を竦め反射的に謝った。
「まぁまぁ旦那。」
肩で息をする幸村さんを隣の佐助さんが、宥めながら苦笑いを浮かべる。
「時代も違うし、俺様達説明してないんだし仕方ないって。」
「そ、そうか…。失礼致した…。」
「そんな大袈裟な…。」
我に返ったのか、幸村さんは大袈裟な位深く頭を下げて、また腰を下ろした。
「…でも、幸村さんが様付けで呼んでるって事は凄い人なんですよね?」
「無論!」
話を元に戻すと、幸村さんは嬉々として拳を握る。
「御館様は某の人生に於ける最高の御方にして天下を御治めになるに最も相応しい御方で御座る!御心も然る事ながらその熱い拳で某を正しい道へと導いて下さるのだ!」
「す、凄い、ですね…っ。拳でって……」
スーパーヒーローに憧れる少年の様に目を輝かせ熱弁する幸村さんに圧倒されながら相槌を打つと、更に嬉しそうに話を続ける。
「おお!分かって下さるかっ!!先日、貴殿の事やこの時代の事も御話し申し上げたのだが、全く動揺もせず、御興味を抱かれたのだ!」
「わ、私の事もですか…!?」
「無論!」
ぐっ、と拳を握り直した幸村さんに何だか恥ずかしくなってしまった。な、何て話したんだろう…。気になる…!
すると、その隣の佐助さんが何故かニヤニヤしだした。
「旦那ってば、君の事、何て紹介したと思う?」
「えっ?!」
読心術でも出来るのか、唐突に口にした佐助さんに私は目を丸くする。
しかし、それ以上に幸村さんの反応が大きく、ガタッと立ち上がると顔を真っ赤に染めた。
「なっ!!?さっ、佐助ぇっ!!!!!」
「良いじゃないっすか別に。早いもん勝ちなんですから。うかうかしてると、竜の旦那とか風来坊に取られちゃうよ?」
「おっ、俺はそのような事……!」
「?」
それはそれは楽しそうにニヤニヤニヤニヤする佐助さんに幸村さんは更に顔を赤くして取り乱す。
どんな紹介をされたか皆目見当も付かない私は、疑問符を浮かべるしかなかった。
「と…っ兎に角!御館様は貴殿に礼がしたいと仰っておられたので、此方への来方を某は御教え致したのだ!」
「げっ!!?旦那、それホントっ?!」
あわあわしながら再び私に話し掛ける幸村さんに、次は佐助さんが顔を歪める。
「無論!御支度があると申され、共に来る事は出来なかったが、もうすぐにいらっしゃるだろう!!!」
「ええええええっ!!?き、今日来んの、大将っ!!?」
相変わらず顔は赤いけど、凛とした顔付きの幸村さんに佐助さんは更に表情を歪める。
「…さ、佐助さん、大丈夫ですか…?」
「あ、うん、ううん!全然駄目っ!!て言うか先に謝っとくね、すんませんでしたっ!!!」
「え!?なっ、何でですか!!?」
聞けば珍しく動揺を隠せない佐助さんが突然土下座した。
もう何回も頭を下げまくっている。
「ち、ちょっと、え?ど、どう言う………」
ドカァァァァァアァァァァアンっ!!!
「な、何っ!!?」
言い終わる前に寝室、例の襖がある部屋から爆破音に似た轟音が響いた。
「御館様っ!!」
「あああああああっ!!来ちゃったよぉぉぉぉぉっ!!!」
「え?え?あ、ちょ、幸村さん!!?」
肘を床に付き、頭を抱える佐助さんを余所に、爛々と目を輝かせる幸村さんに手を引かれ、有無を言えずに私は寝室に連れていかれた。
そして、其処で見た物は……
「ぅ御館さむぁっ!!!!御待ちしておりましたぁぁっ!!!」
「うむ!!!幸村よ!其の者が例の?」
「はっ!左様で御座います!」
それはそれは迫力満点の…
「そうか!此度は幸村と佐助が世話になっておるな!此れは礼じゃ!受け取ってくれ!」
「あ、あああ………」
二頭の白馬を連れた如何にも豪快そうなおじさんと…
「む?どうした?」
「ふっ襖がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!部屋がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
はちゃめちゃになった部屋でした。
Tuesday!!
躊躇を知らない火曜日!
fin!