私は独り暮らしの一般人。
でも、私の部屋は独り暮らしの一般人が住むには適さない。
私の部屋は基本洋風だけど、一カ所だけ不自然な襖がある。
部屋を借りたばかりの時、何を思ったか、その襖に貼ってあったこれまた不自然なシールを剥がしてしまった。
それが事の始まりだと知らずに………、
「…………お早う御座います。」
「うひゃぁああああああっ!!?き、今日、木曜日ですか…!?」
武将と一緒!〜木曜日〜
襖はどういう訳か戦国時代に繋がっていたらしく、一週間日替わりで戦国武将が私の部屋に現れる。
「ふふふ……そんなに驚く事ではないでしょう?」
「おおお驚きますよっ!!何時から居たんですかっ!!?」
「日付が変わった位でしょうか。」
木曜日は有名過ぎる謀反人、明智光秀。
長身痩躯、顔面蒼白とは正に彼のためにあるのでは無いかと思ってしまう様な容貌。美形、美丈夫と言うより美人さんである。
毎週、知らない内にやって来てるもんだから心臓に悪い。
「って、日付が変わった位って深夜ですかッ?!」
「ええ。襖を開けたら繋がっていましたので。」
「ちょ!な、何もしてませよねっ?!!」
「ええ。御馳走様でした。」
「何したんですかッ!!?」
「冗談ですよ。そんなにムキにならないで下さい。」
薄笑いを浮かべた光秀さんに私は肩を竦めた。
何と言うかこの大人かつ冷静な反応に慣れないせいか、光秀さんはどうも苦手である。
色白過ぎる肌と恐ろしい程美しい銀髪も合わさってこの世の物に対する苦手意識とはまた違ったそれを感じるのだ。
「それに……」
「な…何ですか?」
苦笑い甚だしい愛想笑いを浮かべていると、光秀さんは私と顔を合わせず、僅かに上を向き言葉を発する。
「反応が無いより反応がある方が愉しいでしょう…?」
「……え?」
ゆっくりと此方に首を回し舌舐めずりをした光秀さんに目を屡叩いた
そして次の瞬間上体を起こしていた筈の私の背中は再びベッドに触れる。
「えぇぇぇぇぇぇええええっ!!?何してるんですか光秀さんんんんんんんっ!!?」
見上げれば私の顔にまで流れる銀の長髪。
言い忘れたが、この人は月曜日の彼と違い、変態丸出しの方だ。今日は違うが、何時だったか紐みたいなの巻き付けてきた時はどうしようかと思った。
「さぁ…愉しい宴の始まりですよ…!」
「楽しくないですから!始まらなくていいですからっ!」
ゆっくりと孤を描く薄い唇に命の危険を感じた。
逃げようにも光秀さんに両手を拘束されているし、この男、見た目に反して大分力が強い。
「ちょ、光秀さん!待って!待とう?!」
「大丈夫ですよ、悪い様にはしませんから。」
「もうなってる!悪い様になってるよ!」
相変わらず薄く笑う光秀さんの顔は綺麗過ぎて怖い。てか、もう絶体絶命のピンチなんだけど!何で私、毎回毎回こんな窮地に立たされなきゃいけないの〜っ!?
ヒュッ……ダスッ!
「あ、」
「え?」
心中で助けを求めていると突然、空を切る音が耳に入った。と、同時に光秀さんが短く声を漏らし、ベッドから落っこちる。
「み、光秀さん、大丈夫ですか?!」
落下した光秀さんに驚きつつ、ベッドの下を見遣れば、側頭に矢が1本刺さっているではないか。
「み、光秀さぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!!」
やばい!これはやばい!殺人事件だッ!歴史的に有名過ぎるこの人が今死んだらあの大事件は起こらないじゃないか!歴史が変わってしまうじゃないか!
「蘭丸に黙って先に来てるなんて光秀の癖に生意気だぞ!」
おたおたしてると、例の襖から高い声がした。
「ら、蘭丸君!?」
見れば自分の身の丈程ある弓を構えたデコ出し少年、森蘭丸が此方を睨んでいる。
私が声を掛けると蘭丸君は、表情一変、得意気に此方に駆け寄ってきた。
「久し振りだな!蘭丸が遊びに来てやったぞ!」
「あ、有り難う。でもね、この時代に人を殺しちゃうのはね、」
「痛いじゃないですか、蘭丸。酷い事をしますね。」
「ぎゃあああああああっ!!?」
無邪気な蘭丸君を諭しつつ、この後どうしようか混乱していると、死んだ筈の光秀さんが頭に矢が刺さった儘、むくりと起き上がり言葉を発する。
勿論、悲鳴の主は私だ。
「何だよ光秀。生きてたのか。」
「御生憎様です。貴方の様な子供の攻撃で倒される程、柔ではありませんから。」
いやいや、そういう問題じゃないでしょ。
矢1本急所に命中させておいて生きてる方が可笑しって。
どんな頭してるんですか。
「蘭丸はもう子供じゃないんだ。子供扱いすんなよな!」
「子供だと言われてムキになるのは子供の証拠ですよ。」
「〜っ!だいたい、お前ムカつくんだよ!光秀の癖に!」
「おお、怖い怖い。何て理不尽な道理ですか。」
「てっめぇ〜ッ!!!ブッ殺す!」
光秀さんが生きていたのは良かったけど、今にも戦いだしそうな2人の言い争いが勃発た。
何と言うギスギスした空気。本当にこの2人は同じ軍に従事してるのか疑問に思う。
「どうしよう……」
下手に手出ししたら巻き込まれそうだし、放置してそのまま武器で戦ってもらっても困るし……。
どぉぉぉおおんッ!!!
「今度は何!?」
喧騒を掻き消す様な爆破音の後に何か焦げ臭さが部屋に漂う。
「おひゃぁぁぁぁぁあああああっ!!燃えっ、燃えぇぇぇぇぇっ!!!」
音源はやはり例の場所で、見れば、パチパチと襖が香ばしい音を立てて燃えていた。
「蘭丸君ー!」
「濃姫様!」
煙の中からえらい色っぽい美人が慌てて現れるがそれ所ではなく、私は台所にある消火器を取りに跳び起きる。
一方で美人こと濃姫さんは蘭丸君の姿を見付けホッと胸を撫で下ろしていた。
「やっぱり此処に居たのね。朝になっても起きて来ないから心配したのよ。」
「御免なさい、濃姫様…。」
「すみません、それより消火を…っ!」
アパートなのに!借り部屋なのにっ!
「まぁ!御免あそばせ。今手伝うわ!光秀、水を!」
「そそっかしいですね、帰蝶は。」
「ちょ、光秀さん!そっちに水場はありませんよ!何やってんですか!!クローゼット漁らないで下さいッ!!!」
「蘭丸も手伝う!消せば良いんだろ?」
「待って蘭丸君!外に捨てちゃ駄目ッ!!!」
「何ですか、この布は?」
「わぁあああああっ!?何引っ張り出してきてるんですかぁぁぁぁぁあっ!!!」
「蘭丸だってそれくらい見付けられるぞ!」
「止めて!それ以上荒らさないでッ!!!!」
「長い管があったから、水が出る所と繋いできたんだけど、出てこないわね…、」
「蛇口捻ってないからです濃姫さんっ!!!」
ピシャーン!!
「!!?」
消火器片手に素なのかボケなのかを分からないが全員に目が行き届かなくて三度おたおたしていると、遠い様な至近距離の様な所で雷鳴が聞こえた。
「平伏せぇぇぇい!!愚民共がァァァァァッ!!!」
「ひあっ?!」
消火器の煙の向こうから響く声と共に酷い強風が部屋に向かって流れ込む。
その風か襖から立ち上る火を消したんだから信じられない。
「上総之介様!」
「信長様!」
地底から轟く様な声に濃姫さんと蘭丸君は襖だった場所の両脇に膝を付いた。掃け始めた煙の向こうから、現れたのは禍々しい影。
バキッ!ベキッ!
それは襖だった場所の枠の其処彼処にぶつかり、破壊しつつその実体を現した。
「余は第六天魔王……織田信長ぞ!!」
裾がズタズタの真っ赤なマントを翻し、悠々と登場したのは尾張の大虚け、時の人、織田信長。
何故完全武装か、何故手から持っている銃が硝煙を吹いているのかは敢えて触れない。
「その方……久しいのう…」
「……はぁ……御久し振りです…。」
「……近う…」
「へ?」
「近う寄れと申しておる…」
「は、はい……っ!!」
BGMに濁音が聞こえてきそうな雰囲気の信長さんに慌てて近付いた。
「手を。」
「は、はい…。」
とても畏れ多くて顔なんか見られないけど、言われた通りにしないと多分、次の瞬間首が飛ぶ。その目が物語っていた。
私が言われた儘、掌を向けた両手を素早く合わせ前に出すと間もなく、軽い重量がそこに掛かる。
「……?」
見れば縮緬の可愛い巾着がちょこん乗っかっていた。
「……?…?」
「……貴様には丸が世話になっておる。礼を言うぞ。」
疑問符を浮かべれはそれに気付いたのか、変わらぬ禍々しい声色で信長さんは告げる。
「……あ、有り難う御座います……。」
ちょっと不思議な気分になりつつも、包みを開くときらきらと光る小さな金平糖がぎっしり詰まっていた。
「わーっ!!良いなーっ!!」
「蘭丸君も頑張れば貰えるわよ。」
「よーし!負けないぞーっ!」
「はーっはっはっ!!まーるーめーがぁー!!!」
「全く子供ですね……。」
蘭丸君の頭をがしがしと撫で回す信長さんと微笑む濃姫さん。
光秀さんは素っ気ないが、仄々家族している彼等は微笑ましいんだけど…。
(………いや、御礼は良いんだけど……襖…ってか部屋……。)
その背景が大惨事だったのは想像に易いだろう。
Thursday!!
サージは常時、木曜日!
fin!