Friday


私は独り暮らしの一般人。

でも、私の部屋は独り暮らしの一般人が住むには適さない。

私の部屋は基本洋風だけど、一カ所だけ不自然な襖がある。
部屋を借りたばかりの時、何を思ったか、その襖に貼ってあったこれまた不自然なシールを剥がしてしまった。


それが事の始まりだと知らずに………、


「どいたどいた〜っ!前田慶次、罷り通ぉーるっ!!!」
「えぇっ!?ちょ…!金曜日ぃぃぃぃぃっ!!!」


武将と一緒!〜金曜日〜


襖はどういう訳か戦国時代に繋がっていたらしく、一週間日替わりで戦国武将が私の部屋に現れる。

「久し振りだねぇ!元気にしてたかい?」
「慶次さん!神輿で来ないでって先週……!」
「あれ?そうだっけ?」

金曜日は天下の傾奇者、前田慶次。
何とも奇妙奇天烈な格好に予測不能な行動をするのだけど、人懐っこい笑顔と性格のゴールデンレトリーバーみたいな人。
でも毎回毎回、ほぼ半壊している襖を全壊させる登場の仕方は止めて頂きたい。

黒焦げでも何とか襖として頑張っていた物が無残に四散した場を指差して、私は慶次さんに詰め寄った。

「どうしてくれるんですかこれっ!!」
「ちょ…!ちょっと待ちなよ!何も俺だけのせいじゃないだろ!?」
「でも壊したのは慶次さんです!」
「えぇーっ!!」

唇を尖らせて困った様に頭を掻いて腰を下ろした慶次さんにちょっと罪悪感。
確かに火曜日の騎馬襲来と木曜日の魔王降臨の方が余程責任は重いのだが、何と言うか慶次さんの人の良さについつい甘えてしまって八つ当たりしちゃうんだ。悪いとは思ってるんだけど…。

「うーん…でもここまで壊れた襖は直せないしなぁ…」

頭を掻いて本気で悩んでいる慶次さんに、冗談ですよ、と言い出せなくなってしまい凄く気まずく思いつつも、彼が答えを出すのを仁王立ちして構える。色んな頭の抱え方をして、唸り出した慶次さんが、拳を反対の掌に、ぽんと叩き付けるまで時間は掛からなかった。

「そうだ!良い事考えたよ!」
「何ですか?」

嬉しそうに顔を綻ばせる慶次さんについ釣られて眉が下がる。
そして、首を傾げて後に続くであろう“良い事”を尋ねると、悪戯っ子みたいに無邪気な笑顔を浮かべて慶次さんは言った。

「壊れちゃった襖は直せないから、代わりになる物一緒に探しに行くってのはどうだい?」
「え?」

にっこりと笑う慶次さんの突拍子もない発言に目を屡叩く。
で、出掛ける…ですって…っ?!


「な、何言ってるんですか慶次さんッ!!」
「だってさ、俺、こっちに来ても外に出た事ないだろ?やっぱ見て回りたいよ!」
「だ、駄目です!駄目!絶対駄目です!」
「何だよー。そう言われると余計に行ってみたくなるだろー?」
「駄目ですって本当!」

えー、とか、いーじゃん、とか言って眉尻を下げる慶次さんに私はぶんぶんと頭を振った。
出来る訳がないじゃない!頭に羽根やら棒やら刺して、もふもふしたのが付いたド派手な着物かどうか定かでない服着てる大男を連れて街中なんて歩ける訳無いじゃない!
必死に御出掛け拒否を続けていると、ふと、慶次さんがブーイングをしなくなった。

どうしたものかと目を遣れば、にまーっと唇を歪めてワクワクしている慶次さん。
何と無く嫌な予感がする。
何ですか?と無理に笑顔を作ろうとしていたら、ずいっと身を乗り出してきた。

「分かった。俺と一緒に出掛けてるの見られたら困る様な奴が近場に住んでるんだろ?」
「はい?」
「何だい何だい!それならそうと早く言ってくれりゃあ良いのに!」

どうしたらその考えに行き着くか。否定を込めて聞き返したが、どうやら彼には伝わらなかったらしい。
いいねいいねぇ!とか、恋してるなんて羨ましいよ!とか言って1人で盛り上がりはじめた。

「違います!そんな人いません!」
「あれ?照れてんの?可愛いなぁ。」
「照れてません!」

にこにこと楽しそうな慶次さんにちょっと強くそう言うと、彼は目を屡叩いて首を傾げた。

「じゃあ、今、君は恋してないってことかい?」

何故その質問になるの慶次さん?話の流れは貴方が出掛けられない理由についてだったのに。
しかし、話を戻す気など更々なさそうな慶次さんは興味深げに回答を待っている。
正直、学生でもないのにそんな質問をされるのは恥ずかしいのだが、答えるまで断固動くまいとどっかり胡座をかいてしまった慶次さんに観念した私はその前に腰を下ろした。


「今は…恋愛御休み中です。」
「勿体無いねぇー。年頃の女の子がさー。」
「放っといて下さいよ、もう!」
「命短し人よ恋せよ!って言うだろ?人生そう長くないんだからさぁ。」
「聞いた事ないですよ、そんなの!!」
「あ、そう?」

おっかしいなー、なんておどける慶次さんに私は肩を竦める。
て言うか、外出の話は何処に行った?!無くなったら無くなったで良いんだけど、私の恋愛云々なんて関係ないじゃない…!
もう、こっ恥ずかしくて、斜め右に俯く私とは逆に慶次さんは天井に目を向けて、ふーん、とか、へぇーとか言いながら左右に緩く揺れている。

「……じゃあさー、」

暫くゆらゆらしていた慶次さんが不意に口を開いた。
何かと思って目を遣ると、気持ち身を乗り出した慶次さんは機嫌の良さそうな表情を浮かべている。

「どうしたんですか?」
「今、恋してないなら、俺と恋しない?」
「はい?」

にこっと笑って軽く首を傾げる慶次さん。
また突拍子もない事を言い出したよ。

「だから恋愛は御休み中ですから、」
「そうじゃなくてさ。俺、君の事好きだし。」
「な…!?」

それとなく流すつもりが、さらっとそんな台詞を返ってきたんだから堪ったもんじゃない。
恥ずかしながら、面と向かってはっきりそんな事言われたのなんかほぼ初めてに近い私は身体中の血が一気に顔に集まったみたいに頬が熱くなった。

「か…っ、からかわないで下さい…っ!」
「本気だよ。うかうかしてたら、また他の奴に持ってかれちまう。」

無邪気な笑みが段々優しくも真面目な表情に変わった慶次さんの顔を直視出来ずにまた右斜め下に目線を逸らす。

ああ…!こう言うのを天然タラシと言うんですね…!
こんなに純粋な人は久し振り(幸村さんは純粋と言うより純情だし)だから変に心臓が働いて落ち着かない。

「今すぐに、って言いたいけど、考えといてくれないかな。」

沈黙のままの私に気を遣ったのかちょっとすまなそうに眉を寄せた慶次さんが首を傾げた。答え様にも何を言って良いか分からなくて俯いたまま何も出来ない。
ああもう!何でこんな話になっちゃったの?!こんな事なら襖とか触れなきゃ良かった!これからどうして慶次さんと接すれば良いの!?

「………駄目…かな?」

もやもや考えてはいるものの一切口を開かない私の顔を覗き込もうと慶次さんが姿勢を低くした時、


慶次!漸く見つけましたわ!」
「探したぞ慶次!」
「さあ!御覚悟なさいませ!」
「そうだそうだ!」

ばーん、と言わんばかりに襖がとれた押し入れから男女の2人組が飛び出してきた。

「げぇっ?!まつ姉ちゃんに利?!!」

咄嗟に振り向き尻餅を付いた慶次さんは顔を引き攣らせる。そこに薙刀を構えた美人さん、まつさんがスイッと近付く。

「毎日毎日、何処を遊びに歩いているのかは知りませぬが、今日と言う今日は許しませぬ!」
「待ってよ、まつ姉ちゃん!今、大事な話を…!」
「御黙りなさい!女子を困らせて何が大事な話です?!」

きりっとした表情でじりじりと距離を縮めるまつさんに慶次さんは片手を伸ばして掌を振りながら座ったままじりじり後退している。
すっかり緊張感を無くした私にぶつかると、素早く私の後ろに隠れる慶次さん。
まあ、隠れ切れはないんだけどね。

「まあ!慶次!」
「慶次!女子を盾にするとは見損なったぞ!」
「利にだけは言われたくねぇよ!つーかまつ姉ちゃん!話だけでも…!」

目を見開くまつさんの斜め後ろから利家さんが拳を突き上げて抗議すればコントみたいなテンポで慶次さんが言い返した。
しかし俄然言い訳を許さないとまなじりを上げたまつさんに睨まれて口を噤んだらしい慶次さん。
まつさんはそれに軽く溜息を吐いて私の前に正座した。

「慶次が何時も御世話になっておりまする。」
「あ、いえ…」
「何も持って参らぬ御無礼、どうか御許し下さりませ。」
「そんな…!頭を上げて下さい…!」

深々と頭を下げるまつさんに慌てて促せば、ゆるりと顔を上げで柔らかに微笑んだ。そして、

「慶次。まだ話は終わってませんよ。」
「うわっ!気付かれたっ?!」

その間にこっそりと押し入れへと足を向けてまつさんの後ろの辺りを通る慶次さんを確認もせずに呼び止める。

「犬千代様!」
「おう!」
「うわっ?!利!何すんだよ!」

素早く振り向いたまつさんが利家さんを呼ぶと、慶次さんはあっという間に羽交い締めにされてしまった。
綺麗な動作で立ち上がったまつさんは慶次さんの前に立つと儚げに目を伏せる。

「女子を盾にするだけに止まらず、こっそりと逃げよう等、まつめは恥ずかしゅう御座います…!」
「そうだぞ慶次!恥を知れ!」
「年中裸の利の方が恥ずかしいって!」
「まあ!何と往生際の悪い!」
「某、傷付いたぞ!」
「豪語すんなよ!」

やいのやいの騒ぎ出した前田家御一行を私はただぽかんと見守る。て言うかそれしか出来ないんだけどね。
漫才を見てるみたいで楽しいけど、結局、慶次さんに何も言わず仕舞いで終わってしまってまたちょっと罪悪感を覚える私だった。




Friday!!
フライング注意?金曜日!

fin!
[#] | [*]
戻るballad

+以下広告+