「いぃぃぃぃぃえぇぇぇぇぇやぁすぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!」
「待て三成!!憎しみでは駄目なんだ!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ襖ぁぁぁぁぁぁっ!!!」
武将と一緒!〜祝祭日〜
私は独り暮らしの一般人以下略!!
ちょっとちょっと何なのよこれは!!寝室から破裂音が聞こえて見に行ってみれば、ツンツンに立てた黒い短髪に全体的に健康そうな黄色い人と銀色のかなり鋭利な前髪をした全体的に不健康そうな薄紫の人が人ん家で刀と拳を振り回し合っている。
毎日代わる代わるで戦国武将が来るけれど、今日の今日まで祝祭日は誰も来なかったのに、唯一私がプライベートを堪能できる日が祝祭日だったのに、この人たち誰!?非常識にも程があるでしょう!?
「秀吉様、半兵衛様!私に奴を殺す許可を!!」
「三成!話を聞いてくれ!儂はお前と戦うつもりはない!!」
「戯れ言を!!貴様の話を聞く耳等ない!!死ねぇ!!」
いや、私の話を聞いてくれ!!
貴方達は誰で何をしているのか誰か私に教えてくれ!!何か物騒なこと言い始めてるし…!!
熱を増すだけで一向に静まる気配のない2人に私はただ呆然と立ち尽くすしか他無かった。
ああ、襖が…デスクが…クローゼットが…ベッドが…ああ、ああ、ああ…っ!!
「い…いい加減にっ、しなさぁぁぁぁいっ!!!」
「!」
「!」
荒れていく一方の寝室に我慢ならず、私は精一杯声を張った。それは彼らの耳に届いたらしく、ぴたりと動きを止め、回りが見えてなかったらしい2人は今更になってキョロキョロと不思議そうに辺りを見渡す。
「此処は、何処だ?儂等は一体…?」
「なんだ此処は……刑部!刑部は何処だ!?」
不健康そうな方がイライラと辺りに怒鳴り散らす。しかし、そんなに人がいる訳もなく声だけが響いた。
彼は視線を動かし私のそれと搗ち合うと、それはそれは顔を顰めているではないか。
「貴様の仕業か…?何者だ?!」
「わ、私のせいじゃないです!私は塾講師を生業にしているしがない一般人です!」
「訳の分からん事を言うな!貴様でなければ誰がやったと言うんだ!?」
角度にしたら5度位しかなさそうな鋭い眼差しで睨み続ける不健康そうな人に思わず肩が竦まる。
殺気の滲み方が半端じゃない。そしてその量をどんどん増やしながら、刀身の長い刀を構えてにじりにじりと間合いを詰めてきているではないか。
「言え。嘘偽りは許さない。貴様は何者だ。」
「嘘じゃないですって…」
呟く程度の音量で答えると、不健康そうな人は、カッと目を見開き、刀を振り上げた。
あ。殺された。
お父さん、お母さん、先立つ不幸をお許しください。
「……?」
思わず目を瞑ったが、来るべき痛みがやってこない。それどころか、刀が振り下ろされる際の風すら感じない。
どうしたのかと恐る恐る目を開ければ、不健康そうな人は健康そうな人に腕を捕まれ、刀を振り下ろせずにいた。
「……何のつもりだ。私の邪魔をするなァっ!!」
「落ち着け三成!知らぬ場で暴れるのは得策ではない事くらいお前も知っているだろう!?」
「っ!離せっ!!」
健康そうな人に咎められた不健康そうな人は止められたら腕を乱暴に振り払い、刀を鞘に収めた。
「すまんな。御主、怪我はないか?」
「は、はあ…。」
小さく舌を打って背を向けた不健康そうな人に代わり、健康そうな人に尋ねられ、苦笑いを返す。怪我はないけど心的傷害にはなりかねないんだから仕方ない。
「そうか。なら良かった。所で、此処が何処か教えてはもらえんか?儂等は戦の最中だったんだが…」
「…………勿論、御説明はしますが、その前に、あなた方の御名前を御聞きしても宜しいですか…?」
「おお。そうだったな。儂は家康!徳川家康だ。こっちは石田三成。」
「貴様、何を勝手な!」
「良いではないか、三成。此処では戦うに戦えぬ。この者に頼るしかないのだ、名ぐらい名乗らねば。」
「………秀吉様、この者の気楽な脳天をかち割る許可を…!」
友好的な健康そうな人もとい家康さんと対照的に、歯を食い縛り絞り出す様に呟く不健康そうな人こと三成さん。
それは兎に角、徳川家康と石田三成、か………やっぱり戦国武将だった。
しかし、戦場からどうやってたら襖に繋がるんだろう?まあ、第一、襖自体が戦国時代に繋がってるって言うのが非常識だから、詳しくは追求しないでおこう。
私は家康さんと三成さんに此処が未来であるという事を告げ、壊れた襖と戦国時代が繋がっている事など、一通り説明した。
「莫迦な。400年後の世界だと?嘘を吐くな!」
「待て、三成!儂は幼い頃、独眼竜や元親、それに慶次からそんな話を聞いた事があるぞ。今は行き来できないと聞いたが…、」
「貴様の言う事など信用するか。女、証拠はあるのか?」
「……証拠、ですか…?」
家康さんの言葉を蹴散らしそう言った三成さん。話に寄れば、どうやらこの2人は、何時も来ている彼らよりも少し未来の時間軸なのかもしれない。実際、政宗さんなんかは昨日来たばっかりだ。
ともあれ、三成さんを納得させる為の証拠を出さなくては。また殺されかけかねない。
私はデスク脇の授業用資料を探った。
……伝記の本とかでいいかな?一応、塾では社会科、日本史を教えてるからその類は沢山あるし、石田三成に見せるならこれかしら。
「未来人が偉人を讃えて書いた書物です。恐らくもう御亡くなりになられてる方だと思うのでこの2冊なんか証拠になりませんかね?」
「!!」
本を差し出すや否や、三成さんは目を見開きそれを引ったくった。そして初めて眉根を下げる。
「半兵衛様…!秀吉様…!!」
ああ、当たった当たった。
本と言うのは豊臣秀吉と竹中半兵衛の生涯を綴った小学校高学年向けのハードカバー。表紙に肖像画が描いてあるんだけど、本当にあんなゴリラみたいな顔だったり、女みたいな顔だったりするんだ…。
兎に角、今にも泣き出しそうな三成さんに私は漸く、彼も人の子かと安心を覚えた。
「女!貴様の言う事を信じてやる。だが絶対に裏切るな!」
「はあ……、有り難う御座います…。」
しっかりとハードカバーを抱き締める三成さんが最初のものよりも少し和らいだ視線で私に言う。上から目線だな…まあ、慣れてるけど…。
所であのハードカバー返してもらえないのかな?結構高かったんだけどな…。
「はっはっは!良かったな、三成!儂にも見せてくれ。」
「触るな!これは私の物だ!」
ハードカバーに釘付けになり殺気が消えた三成さんの肩を家康さんが叩く。
あ、やっぱり返してもらえないんだ。あーあ…折角全巻揃ってたのに…。
手を弾かれた家康さんは少し残念そうにはにかんだが、すぐに私に向き直って話を振る。
「なあ、御主。未来の日の本はどうなっているんだ?」
「え?どうって…?」
「戦はまだあるのか?飢饉は?疫病で村がなくなる事はあるのか?」
「家康さん……。」
少し不安の色が滲む瞳から彼の想いが伝わる。詳しい未来史を話すのはきっといけない事だから、全部は語れないけれど、彼の想いに応える事は出来る筈。
「少なくとも、日本では戦争も飢饉も疫病もありませんよ。」
「そうか…!実に良い領主達が集まっているんだな!」
「待て。戦がないなら領土や領主はどうやって決めるんだ。」
ほっとしたような家康さんに三成さんが横槍を入れてきた。相変わらず、ハードカバーを大事そうに持ちながら。
「領主は民衆が決めるんですよ。」
「何?民がだと?」
「我こそは領主に、って人が名乗りを上げて、政策を掲げて一定期間民衆に訴えかけるんです。その後に民が賛同した候補者に票を入れて一番多かった人が領土になるんですよ。それを何年かに1回するんです。」
「信じられん…。」
「ああ。だが、良い方法ではないか!もっと教えてくれ!」
簡単に選挙の仕組みを答えると、流石は為政者に携わっていた2人と言えよう、興味深げに話を掘り下げるよう強請られた。
選挙なんて、今の世じゃ穢い腹の探り合いで禄でもない候補しかいないけれど、彼らの時代から文化が少しでもあれば、何か変わるのかもしれない。
影響力の大きい2人に教えるのは少々憚られるが、教えてくれと言われて、黙っているのは教える立場の人間としては失格ではなかろうか。
「勿論です。長くなりますけど良いですか?」
是の返事をすれば、家康さんは楽しげに、三成さんは不機嫌そうに頷いた。
Holiday!!
保留になった祝祭日!
fin!