序章

「う〜…む、」

武田信玄は悩んでいた。

徳川との戦の最中、病に臥し、先は短いと悟った信玄は幸村に軍を預けた。
しかし、彼は今ここで上座に座して頭を抱えている。
と言うのも、元来身体が丈夫だった為、病に打ち勝ったのである。

大阪の陣でそれを知った愛弟子幸村は戦の後、軍を信玄に返還し、再び一兵卒として武田の天下統一に尽力している。

その愛弟子幸村こそが信玄の悩みの原因であった。

軍に尽力してくれるのは嬉しいし力強い。

しかし、己の回復が幸村の成長を止めてしまった様に思わずにはいられなかった。
と言うのも、全軍を預けた事で少しは、責任と言う意味に近付いたものの、己の復活によってまた一歩遠ざかってしまった様に感じるからである。

だからと言って再び全軍を預ける訳にはいかないし、国土を分け与え治めさせるにはまだまだ未熟過ぎる。
増して、信玄が健在なのだから以前の様にはいかないだろう。

しかし信玄とて歳を取る。
そうすれば、身体は弱くなりまた何時前の様になるとも限らない。
此度の様に様々に助言をしてくれる者が居ないかもしれない。

そうなった時に幸村がしっかりと大将を果たす為には、やはり責任と言う意味をきちんと理解していなければならない。

「……う〜、む。」

何か良い方法はないだろうか。

己で悩み、模索しながら人間的に成長出来る術。
毎日、いや、常に己を磨いていける術。
そして出来れば、崩してしまっても、時間を掛け、誠実に取り組めば修復がする事も出来る様な術……。

「……儂の堅い頭では難しいかのう、」

色々と考えを巡らせてみたものの、中々良案が思い浮かばず、信玄は溜め息を吐いた。

そうそう都合良くそんな術等ないのだろうか。
柔軟に考えられれば思い浮かぶかもしれないが、格式張った武士である以上それは難しい。

そう、例えば上杉に身を寄せている前田慶次の様に破天荒な事をする男ならば、良い案を考えてくれるやもしれない。

前田慶次と言えば、己が病で臥している間、上田に訪れたと佐助が言っていた。
その時、幸村が意外な発言をしたとかしなかったとか……。

そう、確か、武芸が出来るなんたらと…。

「……そうじゃ!」

佐助から聞いた話を思い出し、信玄は頭を上げた。その顔は実に晴れやかであったから、良案を思い浮かんだのであろう。

「佐助!佐助は何処におる!」

信玄は大声を上げて、佐助を呼んだ。


>>続く

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