一話
「うおぉぉぉぉぉっ!!漲るぁぁぁぁぁぁあああっ!!!」
「いやー、旦那ってば元気になっちゃってまぁ。」
猿飛佐助は見守っていた。
甲斐武田領土。場所は躑躅ヶ崎の庭先。
そこで練習用の竹槍を振り回す主、真田幸村を佐助は木の上から見下ろしている。
大阪での戦の最中、病に臥していた武田信玄が回復し、元来を取り戻した真田幸村。
信玄不在の重責に悩みながらも、己らしさを貫き、落ちかけの武田軍を纏め上げたのだが、今となってはその時の面影もなかった。
果してこれで良かったのだろうか。佐助は深い溜め息と伴に頭を抱え、眼下で鍛錬として兵士を薙ぎ倒す幸村を見守った。
「そこまでですぞ幸村様!」
すると、幸村とは別の威勢が良い声が辺りに響く。見れば、縁側に竹刀を携えた娘が1人、薄紅の装束で仁王立ちしているではないか。
「む!?貴殿は!」
「お。御出なすった。」
佐助も含め、場に居た全員(殆どは幸村に撃破され倒れている)が娘に目を遣る。
彼女は竹刀を構えると、幸村に負けぬ大声を張り上げた。
「この赤沢もみじが御相手仕る!!」
「望む所!この幸村、全力で御相手致しますぞっ!!」
縁側の板を蹴って跳び上がるもみじ。
幸村はそれに向かって突きを繰り出す。
彼女はその1つ1つを器用に躱して幸村の脳天目掛けて竹刀を振り、幸村も負けじと竹槍を掲げた。
「せえぇぇぇぇいっ!!」
「でやぁああああっ!」
すぱぁん!
互いがぶつかり高らかな音を鳴らす。
「流石ですね、幸村様。」
「もみじ殿こそ。」
競り合う中でそう告げて、彼等は再び得物を振り上げた。得物同士がぶつかり合い、激しくも快い音が辺りに響く。
それはもう両者は楽しそうに組み手をするものだから、樹上の佐助も色々と考えていたが取り敢えずはどうでも良くなった。
自分が気付くくらいだから、大将も気付いているだろう。だったらでしゃばらないで大将に任せて、給料分の働きに徹すれば良い。
「隊長、」
「ん?どうした、才蔵。」
「御大将が御呼びです。」
「はいはい。」
ほらね。
佐助は心中でそう思って樹上から姿を消した。
>>続く