四話
「お、御館様…、一体どういう事で……?」
赤沢もみじは狼狽していた。
代々武田に仕えていた赤沢家が男児に恵まれなかった為、女の身でありながら幼きより厳しい教育を受けてきていたもみじは武田の姫武将として名を馳せ、真田幸村が武将と認めて唯一、破廉恥を連呼しない女子である。武芸一筋の為、少々荒っぽいが、真っ直ぐかつ無垢な娘であった。
それ故、幸村宜しく武将以外として見た時、異性に免疫が全く無い。(故に奥州の独眼竜や四国の鬼、件の風来坊なんかは大嫌いである。)
そんな彼女はたった今、敬愛する師、武田信玄に幸村と祝言を上げよと命を下されたのだ。狼狽しない訳が無い。
勿論それは幸村も同じで、彼も状況が飲み込めないと言う風に何度も目を屡叩いている。
「うむ。もみじ、そして幸村よ。よく聞くのだ。」
信玄は彼女の問いにゆっくりと頷くと幸村ともみじを交互に見た。
「御主等は武においては一介の兵卒では叶わぬ程強うなった。しかし、御主等は人としてまだ未熟。二人合わせても半人前所かひよっこじゃ。そこで、武芸と同じく、共に高め合い、武士として更なる高みを目指してもらいたい。」
「おっ、御言葉ですが御館様…、それと、しゅしゅ祝言等とは一体何が……?」
怖ず怖ずと口を開いたのは真田幸村。
その言葉に信玄の目がカッと見開かれたかと思うと、既に幸村は頬を殴られ彼方へ飛ばされていた。
「ぐおわぁっ!?」
先刻と同じ様に重なった襖に打ち付けられた幸村の元に、信玄はゆっくりと足を進め、彼を見下ろし声を張る。
「馬鹿者がっ!!家一つ持てぬ者が国を持てると思うておるのか!!」
「し、しかし…、この幸村、国を持とうなどうおっ!!?」
「忘れたか幸村よ!御主も男なら、儂を倒して天下を取らんとしてみせよと言った筈じゃ!」
「お……御館さば……っ!!!」
再度殴られ、叱咤されると、幸村は目を潤ませながらも、信玄を見上げた。
「よいか。国を持つ事とは即ち民を、人を守る事。人ひとり、女子一人守れぬ様な小さき男になってはならぬ。幸村よ!精進せい!!!」
腕を組んでそう言い放った信玄に、目を見張った幸村は素早く立ち上がる。
「ぅ……うおおおおおっ!!!!御館様ぁっ!!この幸村、不覚でありましたぁ!!」
両手で拳を握り中腰になりながら信玄を見上げ、感銘に震える幸村は続けてこう叫んだ。
「この幸村!もみじ殿と祝言、必ずや果して見せますぞぉぉぉぉ!!!」
「えぇぇぇぇっ?!!ちょっと幸村様ぁぁぁぁぁっ!!?」
それに続いて声を上げたのが、はらはらしながらも事を見守っていたもみじであるのは言うまでもない。
続く>>