険しいイワヤマトンネルの麓、高く聳え立つラジオ塔が町のシンボルとなって早数年。
穏やかで独特の雰囲気を持つ我が町シオンタウンは今日も今日とて平和である。
小さい頃からいつも一緒のカラ君ことカラカラ♂を抱き締めてベッドに横たわれば、カラ君は甘えたげに私にすり寄ってきた。
ああもうカラ君可愛い、マジ天使。此処はこの世の楽園か。
そんな幸福を噛みしめていたが、前触れ無く開いたドアが全てをぶち壊した。

「トモエ!アンタはもう、いい歳して1日中家の中でゴロゴロゴロゴロ!」

ばーんっ!と言う音と共に現れたのはお母さんである。
片手に箒を握り、私の部屋の窓を許可無く開け放つと、私がカラ君とくるまっていた布団を引っ剥がした。

「働かないなら旅にでも出ちまいな!」
「旅ぃ!?馬鹿言わないでよお母さん!見知らぬトレーナーにバトルふっかけられてカラ君が怪我でもしたらどうするの!?」
「ポケモンはバトルが本分でしょうが!アンタもトレーナーの端くれなら、家計を助けるポケモンの1匹や2匹捕まえといで!」
「私はトレーナーじゃなくてマニアですぅ。それにじめんタイプ以外興味ないから欲しいならお母さんが捕まえてくれば良いじゃない!」

屁理屈を捏ねてそう切り返すとブツブツ言いながら部屋を去るお母さん。
もう既に何年も何度も繰り返した遣り取りの為、挨拶の様なものなのだが、怒鳴り合いに驚いたのかカラ君が心配そうな目をして私を見ていた。
ああカラ君可愛い、マジ天使。君はこの世の楽園か。

大丈夫だよとカラ君を撫でてあげると、安心したらしく目を細めるカラ君は本当に可愛いマジ天使。

そんな幸せに浸る中、私は毎度お馴染みであるお母さんの言葉を思い出した。
まあ、お母さんが言う事も一理あるっちゃあ、あるんだよね。

御年23歳にもなる私、トモエはトレーナーとして言うならば、怪獣マニアの部類に入るらしい。だがしかし実際はカラカラ大好きでじめんタイプ以外に興味がないただのニートである。
いやでも、働こうとは思うし旅に出ようかとかも考えてるよ。切っ掛けがないだけ!切っ掛けが!
云年前、トキワシティのジムリーダーがじめんタイプを扱ってるって聞いた時は旅に出ようと思ったもの。
カントーのバッジを全部集めなきゃ御会い出来ないらしいから、トレーナー目指して旅に出てみようと思ったもの。
一度御会いしてじめんタイプの素晴らしさを語り合いかったんだもの。
でもさ、何かその方いきなりリーダー辞めて行方不明になっちゃって、マサラ出身の元チャンピオンが後任になったら、取り扱いタイプとか無くしてやがんの。何それ意味分かんないってなるじゃん。まあ、手持ちにドサイドンが居るらしいからあまり責める気にはならないけど。
チャンピオンとかになりたい訳でもポケモン図鑑完成を目指してる訳でも無いのに旅する意味なくねーって結局諦めたんだ。

今までにジョウトやホウエン、シンオウに遠く離れたイッシュでもどんどん新しいポケモンが発見されてポケモンリーグも新設されているって言うのに、じめんタイプを扱う人の少なさ!
海に行けばみずタイプ使いばっか、山に行けばいわタイプ使いばっか、森に行けばむしタイプ使いばっか!
距離的に遠いから全地域では知らないけど、近場のカントー、ジョウトにじめんタイプのエキスパートたるジムリーダーや四天王がいない!いわタイプじゃだめなのじめんなの!

そんな訳で旅の目的がない私はどうすることも出来ず、ただ家にいるしか無いじゃない。
働く?
あ、いや、シオンタウンはボランティアの町だから…。

私だって会いたい人が出来たり、仲良くなりたいポケモンがいたら旅に出るわよ。それが一切無いんだから、出るに出れないのよ。
あ、サンドとはちょっと仲良くなりたいけど。

そんな事を思いながら、何気なくテレビを点けた。
画面に移っていたのは元気なレポーターと優しそうなおばあさん。

《はい!“突撃四天王!”のコーナーです!今週はシンオウリーグにお邪魔しています!2日目の今日は四天王、キクノさんに御話を御伺いしま〜す!》
《ほほほ、宜しく御願いしますね。》
《はい、宜しく御願いします!早速ですがキクノさん。貴女は何タイプのポケモンを扱われるんですか?》
《わたくしが大切にしているのはじめんタイプのポケモン…》

何気なく点けた筈のテレビだったのに、私は何時の間にか齧り付いて観ていた。
そして、そのコーナーが終わった後、徐に大きめの旅行鞄に手を伸ばす。

「……そうだ、シンオウ行こう。」

私に、キクノさんに御会いしてじめんタイプの素晴らしさを語り合うと言う旅の切っ掛けが出来た。


つづく>>

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ballad


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