荷物を一式準備して、服を着替えた私は直ぐに家を出発するつもりだったが、「私、シンオウリーグに挑戦しにいってくる」と、ワイドショーを見ていたお母さんに告げたら、二、三度瞬きされ「お昼食べてきな」と言われたので昼御飯は食べていくことにした。

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シンオウ地方に来て約1年半。

旅立った当初を知る人には信じられないかもしれないが、私はしっかりトレーナーになっていた。
初めてトレーナー同士でバトルした時の昂揚や初勝利の味、レベルアップの歓喜なんかは大変な劇薬で、すっかり私はトレーナー職に魅了されてしまったのである。
まあ、努力値とか個体値とか難しい事は分からないけれど、旅が楽しいのだ。面白いのだ。
何故もっと早く気付かなかったのか、家でごろついていた日々が悔やしいと思う程になったのだから、私はニートを卒業できたと自負している。私、頑張ったよ、お母さん。

そして先日、キッサキのスズナちゃんを3度の挑戦を経て漸く撃破し、遂にリーグバッジが7つ集まった。そんな訳で私達は今、最後のバッジを目指して、ナギサシティに向かっている。

ちなみに私の手持ちの子はみんな、じめんタイプばかり。
相棒は勿論カラ君ことカラカラで、カントー出発前に捕獲したサンド、まよいのどうくつで迷って出くわしたフカマル、ノモセ湿原で泥に埋まってたのを助けてやったウパー、206番道路で御飯食べてたら盗みに来たグライガー、キッサキシティ近くで捕獲したウリムー。以上の6匹を連れ歩いている。
まあ、カラ君以外は立派に進化しいるのだが、全く頼もしい我が子達だ。カラ君が進化してない理由は内緒である。
じめんタイプばっかだったからナタネさんとマキシさん、先のスズナちゃんには苦労したが、今では良い思い出だ。

あとはシンオウ最強を謳われるナギサシティのジムリーダーを残すのみ。しかも扱うタイプはでんきだとか。でんきタイプは得意中の得意だから、もう勝ったも同然と言っても過言ではなかろう。
漸く憧れのキクノさんに御会い出来ると思うと、浮つく足元と気分はどうすることも出来なかった。

生憎、手持ちに空を飛べる子がいない為、私は家から持ってきた汚い折り畳み自転車で目的地を目指しペダルを漕いでいる。
逸る気持ちを抑えるつもりでトバリデパートとレストランななつぼしで寄り道したり、214番道路とか222番道路でトレーニングしていたら、案外本腰が入ってしまい、2週間一寸で着く予定がナギサシティに到着したのは3週間目の夜だった。
予定より随分時間が遅くなったが、高台にあるナギサジムはまだ明かりが点いていたので、意気込んで挑戦に向かう。
今勝ってしまえば、明日の今頃はリーグに挑戦出来る、その考えが浅はかだとは毛頭気が付かなかった。

機械仕掛けが何とも面倒臭いジムを足早に進む。相性の問題でジムトレーナーは相手にもならず、1度もポケモンセンターに戻らなくて済んだ。
何だか拍子抜けしたが、トレーナーは兎に角リーダーはシンオウ最強と謳われる相手。どんな猛者かと期待しつつも気を引き締めて最深部に乗り込めば、待ち構えていたのは金髪碧眼の背の高い好青年だった。
勝手なイメージだが、私はトウガンさんの様な貫禄のある人を想像していたので、ここでも拍子抜けである。しかもこの男、目が死んでいるではないか。
本当にシンオウ最強の、いや、第一この人はジムリーダーなのだろうか?失礼極まりないのは承知の上、少し距離を置いて彼を見定めていると、どうやら向こうが此方に気が付いたらしい。生気のない碧眼が此方に向いた瞬間、驚きか、それとも彼が思いの外整った顔立ちをしていたせいか、将又両方かは定かではないが、どくりと心臓が脈打った。
彼はその眼に私を捉えると、表情はあまり変えなかったがその死んだ目に少し生気を宿す。

「挑戦者か?」
「え?私に言ってます?」
「他に誰が?」
「私に見えない何かとか?」
「俺はそういうの見えないと思うけど?」

何とまぁ驚きの疑問文会話である。
彼は、いきなり話し掛けられて動揺している私に合わせてくれているのかどうかは知らないが、相変わらず表情を変えずにいる。

「で、君は結局何なんだ?」
「え?」

首を傾げると彼の目から生気が消えた。
小さく溜め息を吐いて目線を逸らし首筋を掻く。

「もうジム閉めるから冷やかしなら帰ってくれ。」
「え?ジムリーダーさんなんですか?」
「そうだけど。」

なん、だと…!?
本当に彼はジムリーダーだったのか!うわどうしよう私滅茶苦茶失礼な事言いまくったよどうしよう!!でっかい注射器で背中から血を抜かれる様な錯覚を覚えながらも、24年生きてきた大人として此処はしっかり謝って御願いをせねばと姿勢を正した。

「すみませんでした、私は挑戦者です。」
「そうか。…それなら、話は別だ!」

おや?
深々と頭を下げると、頭上からさっきまでの気怠げな声とは打って変わった明るい声が降ってきた。
頭を上げると金髪碧眼の彼の目には生気が戻ってきている。

「最近になってまた、手応えのある相手がめっきり減って退屈していたんだ。君は少し骨がありそうだな。」

まぁ、相棒はカラカラですから骨は持ってますが…。

「俺がジムリーダーのデンジ。勝ち負けは兎に角、君は俺を楽しませてくれる挑戦者であってくれ!!」
「え?え?」

呆気にとられる私を尻目に捲し立てる様に言った彼、デンジさんは、ボールからサンダースを繰り出した。慌てて私もサンドパンを繰り出し勝負を開始したが、既にこの時点で勝負は付いていたのかもしれない。

結果を言えば、得意タイプ相手に私は負けたのだった。


つづく>>

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