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あの日はあれから大変だった。私が就寝してから3時間後にライブキャスターが鳴って、受ければ相手はサブウェイを背景にした黒ボス。何事かと問えば「非番の時に失礼いたしますが、クダリを御存知ないでしょうか?」との事。白ボスに因れば彼は遅番なのに何故こんな時間に黒ボスに探されているのか。意見の食い違いを感じつつ事情を説明すると、表情は変えずとも血相を変えた黒ボス。

「申し訳ありません!直ちに引き取りに伺います。」

どうやら白ボス、嘘を吐いていたらしい。黒い画面になったライブキャスターを見詰めて、未だ私のベッドで寝ているであろう嘘吐きを起こすべきか起こさぬべきか、ぼんやりした頭で考えていれば、文字通り“直ちに”やってきた黒ボスに白ボスは叩き起こされて、力業でギアステーションに連行されたのだった。

あっと言う間の出来事にただ唖然としながらも彼等を見送ったが、何か色々有りすぎて疲労困憊通り越しランナーズ・ハイならぬ疲労・ハイになりかけた私は空になったベッドに飛び込んで、死んだ様に睡眠を貪った。故に非番の記憶など一切ない。

今日はその翌々日、非番開けである。時刻は現在昼時ちょっと手前だが、仕事に区切りが着いたので、昼御飯を食べようと事務室に戻った。すると、暇な筈ないのに暇そうにぶらぶらしている白ボスと目が合う。

「御疲れ様でーす。」
「うん。労って!」
「……御疲れ様です。」
「身体も労って!」
「……………御疲れ様です。」
「ひどい!」

社交辞令で頭を下げると、喜々としながら両手を広げて此方に駆け寄ってきたので、華麗にスルー決めれば、後ろでまたぴーぴー喚く声が耳を掠める。まあ、そんなの気にせず私は弁当を取りにロッカールームに向かうのだが。用を足して戻ってくると、白ボスは珍しくデスクワークに勤しんで……否、黒ボスに捕まったのだろう、デスクワークを強制されていた。すんすん鼻を鳴らしながらデスクに向かう白ボスの横には姿勢正しく気を付けする黒ボスが謎の圧力を携えて立っていた。
しかし、黒ボス、相変わらずストイックかつ清潔な色気が滲んでいて半端ないな……あ、いや、でもむっつりスケベなんだっけ?
………い、いかん!!折角忘れかけてたのに、いらん事思い出してしまった…!!
頭を左右に振っていると、可笑しな空気に気付いたのか白黒ボスがこっちを向いた。目の合った黒ボスに軽く頭を下げる。

「お、御疲れ様です、ノボリさん。」
「御疲れ様に御座います。」
「バニラ、ノボリばっかり名前で呼ぶ!!狡い!何で!?」
「大変ですね、ノボリさん。」
「無視ひどい!」
「仕事に集中なさい、クダリ。」
「うえー…」
「はは…、では、御昼お先に頂きまーす。」

明白に肩を落とした白ボスに愛想笑いをして、自分のデスクに戻ろうとした時、ガタッと何かが動く音がした。何事かと振り向けば、白ボスが時計を指差し黒ボスに迫っている。うわぁ、何か鏡の断面見てるみたい。ホントにそっくりだな……見た目だけは、なんて私の心中は置いといて、白ボスは解決の糸口が見付かったみたいな顔でこう言った。

「ノボリ、ランチ!ランチタイム!」
「些か早くはありませんか?この書類を終えてからに致しましょう。」
「今!今食べる!ぼく、お腹減った!」

あ、出しにされた、と私は苦笑いを浮かべる。御昼お先に、なんて言わなきゃ良かったな。黒ボスに悪い事をしたと思いつつ、彼ら様子を窺う。時計を指した腕を引き、拳を作って軽く上下する白ボス。本当に年齢を疑ってしまう様な仕草だ。図体だけなら普通なのに。そんな白ボスに、黒ボスは表情は変えず数秒黙り込んで(多分、考えている)から小さな溜め息を吐いた。

「分かりました。但し、此方の書類は本日中に上げると御約束なさい。」
「うん!バニラーっ!ランチ一緒に食べよー!」

黒ボスの是の返答に、適当な返事をした白ボスは、ビニール袋を携え、私の腕を掴むとそのまま休憩室に直行したのである。
休憩室は時間が早いだけあってか、人は殆どいなかった。私達、と言うか白ボスは二人席に私を座らせてから自身も対面に腰を落ち着け御機嫌な様子。半透明のビニール袋をテーブルに上げて、音符を飛ばしながら中身を漁っている。
……そう言えば、白ボスが御飯食べてる所って見た事ないや。一昨日、いや正確に言えば昨日の早朝か、あの時も思ったけど、この人どんな生活してるんだろう。ちゃんと御飯食べてるのかな…?興味をそそられ、それとなく袋の中身を確認しようとしたら、白ボスに見付かった。

「どうしたのバニラ?ぼく そんなにカッコイイ?」
「いいえ。」
「冗談なのに!」

笑顔と共に投げられた言葉を素早く切り捨てると、ショックだったのかテーブルに突っ伏して泣き真似をする白ボス。私はチャンスとばかりにビニール袋を取り上げた。

「ぼくのランチ!」
「こ、これは…!」

小さくはないそれをひっくり返すと、出て来たのは菓子パンばかり。しかもサンド系とかでなくケーキ系。蒸しケーキとかカステラとかパンケーキとか……ああ、もう炭水化物ばっかじゃないか!

「白ボス!」
「これ ぼくオススメ!」
「へえ……違う!駄目ですよこんなアンバランスな食事!」
「えー……」
「せめてサンドイッチにするとかサラダとかゆで卵も食べるとかしないと。」
「野菜嫌い。」
「子供か!」

ぷいっとそっぽを向いた白ボスに思わず溜め息が零れる。どんな生活してるんだろうとか思ったけど、知らない方が良かったような……いや、でも知ってしまった以上、見逃す訳には。だって白ボスが食生活の偏りで死にましたなんてなったら私は後ろ髪引かれ隊になってしまう。
(まあ、死ぬのは大袈裟かもしんないが)
取り敢えず、私は自身の弁当の蓋にポテトサラダ、ミニトマト、卵焼きを少し乗っけて白ボスに差し出した。

「見るに耐えないので差し上げます。」
「わーい!……トマトは、人参と玉葱胡瓜もいらない。」
「食え!」
「口移しして!」
「食え!!」
「じゃあ、“あーん”やって!」
「食・えっ!!!!」
「もがっ!?」

手始めにトマトを白ボスの口に放り込み、頭と顎を固定して強制咀嚼させた後、嚥下を促す為、水を流し込んだ。

白ボスが涙目になってるなんて知ったこっちゃない。




白ボスとおひる


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