act.1
「あーー、畜生。遂にクビんなっちまった。」
袴のポケットに手を突っ込み、項垂れながらあたしは歩いていた。
act.1
ちょっと其処のお兄さん
生まれて以来、刀だけに生きてきた人間にはレジ打ちだって超難解方程式を解くぐらいめんどくせェことだっつーのにあのハゲ。
――――
「だからバカ おめっ…違っ…それじゃねーよ!!そこだよそこ!!」
ハゲ店長があたしを指差して怒鳴った。
「っせーな。これ小説だぞ。そことかそれとか判り辛ェ事言うんじゃねェよ、ハゲ。」
「何だその態度ォォォォ!!つーか おめっ 今時レジ打ちなんてチンパンジーでも出来るよ!!オメー人間じゃん!2年も勤めてんじゃん!何で出来ねーんだよ!!」
「んなもん、やる気がねーからに決まってんだろーが。」
「な、何をををををっ!!?」
「刀以外に興味ねェんだよ。屑が。」
「てめェェェ まだ剣ひきずってんのかぐはぁっ!!!?」
ハゲ店長が殴り掛かってきたんで、素早く避けて後頭部に回し蹴りを食らわした。
「あたしを殴れるとでも思ったか?ハゲメガネ。」
「っ!!てめェはクビだァァァァ!!」
ふらふら立ち上がってハゲはあたしにそう言った。
こんなハゲに謝るなんざ御免だから、あたしは鼻で笑って答える。
「上等だ。退職金はレジん中の万札全部で許してやる。」
「ふざけんなァァァァァァァァ!!退職金なんか出る訳ね゙ガァ!!?」
許してやるっつーのに反抗的なハゲに今度はアッパーをかます。
「あ゙?も、一発食らうか?」
「…や、もう勘弁してください。レジごと差し上げるんで、辞めてください…。」
――――
一時のテンションに身を任せた結果がこれだ。
やってらんねェっつーの。
退職金のおかげで、現在 懐は潤ってるものの、早く新しい仕事を見つけねぇと…。
兄者が幕臣で生活に苦がねぇからと言って、おんぶに抱っこじゃ申し訳ない。
「っつってもなぁ〜、刀関係じゃねぇと続かねぇからなぁ〜。」
以前一緒に働いていた3つ下のダメガネもあたしと同じく刀しか振ってこなかったっつー話を聞いた。
アイツは茶斗蘭星大使といざこざ起こした濡れ衣着せられて、辞めたけど、刀振り回せる仕事を見つけたらしい。
何っつったか、万事屋だったかな。
気が利くアイツなら出来るだろうが、何せあたしは此れでもかって程面倒臭がりだ。
万事屋なんざ、バイトでも出来ねぇ。寧ろ願い下げだ。
「…となると、選択肢は2つ…かぁ……。」
幕府関係か攘夷浪士。
兄者が幕臣だから攘夷浪士は問題外。それに犯罪者になってまで刀振り回そうとは思わない。
だからといって、幕臣も気が引ける。兄者はだいぶ高い地位にいるらしいから、なるなら下っ端とかじゃないと、心配掛けることになる。
「…どーすっかなァー。」
「ちょっと其処のお兄さんっ!」
考えながら空見て歩いてると後から声がした。
不意に足が止まる。
(…お兄さん?あたしか?)
いや、夜の風俗店街でならまだしも、あたしに"お兄さん"とか言う奴は居ないしな……
勘違いと思って、再び歩き出す。
「ちょっとお兄さんってばっ!!」
もう一度声を掛けられた。
あー、あたしか。
足を止めて振り返った。
「……オレ?」
しまった。
"お兄さん"なんて呼ぶから条件反射にそう答えちまったじゃねぇか。
小さく溜め息をついて顔を上げ、振り返る。
目の前に居たのは、やや垂れ目で三白眼の、柔っぽい青年だった。
To be continued……