Final action
「おいおい、兄ちゃん。其処は借家だぞ。妹さんの新しい就職先が決まって、家に帰って来れる回数が減るんだとかで昨日、家具の撤去してたぜ。え?新しい就職先かい?何でも宇宙貿易とか言ってたなぁ。今日地球を発つとか何とか。何か自家用船で行くらしいよ。やっぱ幕臣が家に居る奴ァ凄ェよなァ。」
Final action
「此方じゃ此方ーっ!黒刃ーっ、紅羽ちゃーん!」
郊外のだだっ広い空き地のど真ん中であたし達を見つけた坂本さんが手を振っている。
傍らには宇宙船が垂直に地面にぶっ刺さっていた。
「兄者ァァァァァァ!!あたしアレに乗るんスかァァァァァァっ?!!」
「でしょうね。」
「でしょうねってそんな無体なっ!!坂本さんっ!修理し終わったんじゃないんですかっ?!」
ごっさりとある荷物を引き摺り、坂本さんに近付いて問えば、人好きする例の笑顔を浮かべる。
「あっはっはっはっ!いやぁ、終わったったら終わったんじゃが、ちょっと遊んどったら此の有り様じゃ。あっはっはっはっ!」
「どんな遊び方っ?!!あっはっはっはっじゃねーよっ!これ今日中に修理終わるんスかっ?!!」
暢気に頭を掻く坂本さんに食って掛かるが、当の本人は笑い続ける。
「大丈夫じゃー。黒刃、ちょっと力貸してくれんがか?」
「はぁ…。仕方ありませんね…」
坂本さんに呼ばれた兄者は溜め息を吐いてその傍らに近寄った。
「…何やるんスか、兄者?」
「退いてなさい、紅羽。危ないですよ。」
「はぁ…?」
言われるが儘に数歩下がると、兄者はそれを確認して地面に突き刺さる小型宇宙船に目を遣る。と、
ひょい、
ズゥゥン!!!!
「!!?はァァァァァァァァァァァァ?!!」
あろう事か、それを持ち上げ、位置を正した。
何コレ!?
どんな展開っ?!!
「ア●レちゃんかお前はァァァァァァァァァァァァ!!?」
「あっはっはっはっ!流石は黒刃じゃーっ!!」
「世辞は良いのでさっさと直して下さい。私は昼休みが終わる前に戻らねばならないのですよ?」
「任しときー。」
「聞けよ!」
あたしの叫びなど気にも留めず、2人は何事も無かったかの様に会話を続ける。
つーか兄者、妹が地球発つのに、有休取ってねーのかよ。
「全く、世話が焼けますね。宇宙船を地面に突き刺す遊びってどんな遊びですか。ねぇ、紅羽。」
「いや、この際坂本さんの宇宙船を地面に突き刺す遊びより兄者の理解不能な怪力のが気になるんだけど。」
「夜兎の血が流れてるのは貴女だけじゃないんですよ?幼少より日々の筋トレを欠かさずにしてたら、こんなんなっちゃいました☆」
「なっちゃいました☆じゃねェェェェェェェェェェェェっ!!」
首を傾げ、肩を竦める兄者が、悍ましくて堪らなかった。
熟この兄は謎が多い。
いや、もう謎どころの話じゃない。珍だ。珍獣、珍生物だ。
その内にどっかの馬鹿皇子に捕獲されれば良いのに。
「お、いたいた。お〜い、」
「?」
頭を抱えてれば、空き地の入り口から気怠げな声が聞こえた。
「あ。」
見れば、見覚えありまくりの5人が此方に手を振っている。
「九ちゃん!妙ちゃん!と、その愉快な下僕達!」
「え゙え゙え゙え゙え゙え゙っ!!?声掛けたの銀さんなのにっ?!!」
集団の先頭に立っていた坂田さんが奇声を上げた。
「酷くないっ?!!紅羽ちゃん、それ酷くないっ?!!」
「はいはいすんません。ま、それは置いといて、」
「置いちゃうのっ?!!」
「妙ちゃんも九ちゃんも、どしたのさ?!」
「完全無視ときた!」
隣で何か言ってる坂田さんはもう良いんで、妙ちゃんと九ちゃんに声を掛ければ、2人ともちょっと寂しそうに笑う。
「さっき紅羽ちゃんの家に行って、こないだの結論がどうなったか聞こうと思ったんだけど、」
「もう既に宇宙に向かったと近所の方に聞いてな。皆で探してたんだ。」
「そっか……。何も言って無かったね…」
あたしは2人に頭を下げた。
会ったらきっと寂しくなると思って何も言わなかったけど、やっぱり薄情だよな。
「御免、」
「いいのよ。間に合った訳だし。ね、九ちゃん?」
「ああ。紅羽は宇宙に行く事にしたんだな。」
暖かい2人の反応にあたしはほっとした。色んな意味で。
「うん、」
九ちゃんの問いに頷けば、妙ちゃんは、寂しくなるわ、って言った。
正直、あたしも寂しいし、今生の別れって訳じゃないけど、地球に未練だってある。
1番やりたいのは真選組復帰だけど、そう易々と出来る事じゃねーし、我慢も必要だ。
もう、餓鬼じゃない。
「やりたい事我慢するのを1番やりたい事にしたんだ。」
「そうか、」
「紅羽ちゃんがそれで良いなら私達は応援するわ!」
「有り難う!」
寂しくなるけど頑張ってね、と妙ちゃんは言った。
「だがよー、紅羽ちゃん。」
唐突に背後から掛けられた声に振り向くと、ちっとばつが悪そうな坂田さんが立っている。
「やりたい事云々言った俺が言うのもアレなんだけどよ、テレビで、“ずっとこの家にいますんで”ーとか言ったのに宇宙に出ちゃって大丈夫なの?」
「あ、それなら大丈夫っスよ。」
「え?何で?質問とか来ないの?」
「銀時、貴方は相変わらずパーですね。」
「あぁっ?!」
あたしが答えようとすると、坂田さんの背後の兄者がそう言った。
「黒刃、…か。久し振りだな。」
「ええ。小さくなりましたね、銀時。」
「小さくねーよ!オメーのがチビだ…ろ………?」
振り返った坂田さんが兄者に食い掛からんとして、行動を止め、ゆっくり顔を上に向ける。
「……アレ?背、伸びた?」
「終戦から15p伸びまして、現在182ありますが、何か?」
「15p!?可笑しくね?中学でもねーのに15p?オメー人間じゃなくね?」
「まぁ、約10%夜兎ですんで。」
否定はしませんよ、と見下す様な嘲笑を浮かべ、兄者は坂田さんを鼻で笑った。
相変わらず嫌な奴だな、我が兄は。
「兄者、感動の再会は後にして、さっきの質問……」
「ああ、そうでしたそうでした!余りに銀時がちびっこになったんで忘れる所でした!」
「喧しいっ!」
あたしは話の軸を元に戻そうと会話に割って入ったが、どうやら兄者にその気は無いらしく、再び坂田さんを罵り出した。
自分からしゃしゃり出といてコノヤロー。
「えーとですね、坂田さん。あたしが諸手を上げて宇宙に出れるのはですね、一昨日だったかに超有名大物プロデューサーの金銭詐欺と贈賄のダブルパンチが露になってあたしの話題が既にメディアに出なくなったからですよ。」
「あ、そーなんだ。」
「銀時、貴方の家にテレビないんですか?どんだけ貧乏なんですか?何時までプーでいるつもりなんですか?髪だけじゃなくて頭もパーなんですか?プーでパーとか貴方はイクラちゃんですか?」
「プーじゃねーよ。つーか後半いらなくねっ?!意味分かんなくね?!」
「何と!言語理解能力もパーなんですかっ?!」
「ワザとらしいんだよテメェェェェェェェェェェェェっ!!」
あたしの説明の後、やらなきゃいいのに兄者はまた坂田さんにちょっかいを出す。
この人は嘗ての同志を何だと思ってんだか。
「ふぅ〜、修復完了じゃーっ!」
ぎゃんぎゃん騒ぎ立ててると、修復が終わったらしく、坂本さんが船から顔を出した。
「おーっ!金時じゃなかかーっ!久し振りじゃのーっ!」
「銀時だってんだろーがァァァァァァ!!テメー、何回間違えたら気が済むんだァァァァァァ!!!」
ぶんっ!
大声で訂正した坂田さんは嬉々とし、手を叩く坂本さんに木刀をぶん投げる。
ガゴッ!!
「ふがぁっ?!!」
ものの見事にソレは坂本さんの顎に命中して、坂本さんは木刀ごとぶっ倒れた。
「何してるんですか銀時!!あの阿呆がいないと出発出来ないんですよっ?!」
「別に出発しなくて良くね?紅羽ちゃんが万事屋メンバーに加わればいいだけの話だろ。」
「良くありません!家賃も碌に払わない、仕事も碌に来ない、割りとタダ働きな銀時の所では給料の高が知れてます!却下!」
「酷ェ!つか、何で知ってんの?!」
「企業秘密です!」
ぎゃーぎゃーと騒ぎ立てる兄者と坂田さんはこの際無視して、あたしはぶっ倒れた坂本さんの元に駆け寄る。
「大丈夫ですか?坂本さん…」
「いちち………。あっはっはっはっ!銀時ー、この木刀はおんしのじゃー!わしンじゃないぜよ!」
「うわっ!ポジティブ通り越してアホだこの人!アホだ!!」
鼻血出しながら坂本さんは木刀を坂田さんの元に持っていった。
どうしよう。
これからあんな人が上司になるとか心配で口から何か出そうだ。心臓的な何かが。
「んじゃ、準備ば出来たきに、そろそろ出発ばするぜよ。」
今更だが自分の選択に疑念を抱いてると、兄者と坂田さんの喧騒の中、巻き添え喰らってボッコボコにされながらも、坂本さんは笑顔で言った。
あー、この人タダのアホじゃないんだ。凄いアホなんだ。
「ほいじゃあ、黒刃ちゃん。皆に挨拶じゃ。」
「紅羽です。…ってもこの期に及んで挨拶なんてなぁ…」
坂本さんに促され、兄者や妙ちゃん等と対峙する風になったは良いが、別に今生の別れじゃあるまいし……
「紅羽、」
「兄者?」
悩んでると、何時に無く穏やかな顔の兄者があたしの両手を兄者のそれで包む。
「(糞五月蝿い)妹が傍に居なくなると、(玉の輿計画で日々、色々画策し、裏から手を回す楽しみが無くなって)寂しいですが、きっと(何処かの星の皇子か何かを捕まえて)戻ってくるんですよ…。」
「()ん中聞こえてんだよアホォォォォォォォォォォォ!!!テメーの頭には金の事しかねーのかっ!?」
「無論です。」
「威張んな!!」
「紅羽ちゃん、」
何処までも貪欲な兄者の手を振り払ったあたしに、今度は妙ちゃんが声を掛けてくれた。
「無理しないでね。応援してるわ!でも、辛くなったらいつでも帰ってらっしゃい。」
「妙ちゃん……」
「僕も微力だが応援するよ、紅羽、」
「九ちゃん…」
「苛められたら僕に言うんだぞ!紅羽の為なら何処にだって飛んでいく!」
「有り難う九ちゃん…!でも宇宙広いし、気持ちだけ貰っとくよ。」
笑って返せば、九ちゃんはちょっと残念そうだった。
まぁ、あたしに限って苛められはしないだろうしねー。
「紅羽ー、」「ん?何?神楽ちゃん。」
今まで一言も喋ってなかったが、ちゃんといた神楽ちゃんがあたしの着物の裾を引いた。
「気を付けて行ってくるヨロシ!あと、パピーに会ったら宜しくヨー。」
「パピー?」
「ハゲデコ眼鏡のちょび髭親父ネ。丸坊主って呼ばれてるヨ。」
「ま、丸坊主……?」
「神楽ちゃん、星海坊主だよ。星海坊主。」
疑問符を浮かべれば透かさず神楽ちゃんの隣の、これまた、今まで一言も喋ってなかったが、ちゃんといたダメガネが咎めた。
あー、星海坊主ね。星海坊主。
つーか神楽ちゃん、物凄い父親持ってんだな。
「宇宙は危険ですけど、頑張って下さいね、鷹居さん。」
内心吃驚してれば、ダメガネが家庭的な、お母さん的な笑顔であたしに言った。
「ダメガネ……」
「ここでダメガネは無いよね。ここでダメガネは無いよね。」
「………駄目男…」
「名前覚えてないんですか?!え、覚えてないってか、もしや、覚える気ないんですか?!!」
「うん。」
「酷ォォォォォォォ!!」
「ぴーぴー喚くんじゃねーよ新八。所詮テメーはその程度なんだよコノヤロー。」
「銀さんまでっ?!!それ酷くないですか?!!」
「っせーな、何時まで尺取るつもりだ。テメーの枠は終わってんだよ、すっこんでろ。で、紅羽ちゃん、」
ダメガネに言うだけ言った坂田さんは、本題と言わんばかりに、あたしに向き直る。
一寸見上げれば目が合う高さの坂田さんと重なる影が見えた気がした。
「…何ですか?坂田さん。」
「やりたい事我慢する云々って言った俺が言うのも何だけどよ、」
「それ、今回2回目ですね、」
「え?マジ?…じゃなくて、ホントに未練ないの?」
「ありますよ、そりゃ。」
「ならよ、選び直せるよーに地球に残った方が良いんじゃね?」
ばつが悪そうに首筋を掻く坂田さん。
気だるげな目とは似ても似つかぬあの鬼の目が、どうしてか、思い出されてしまった。
「……駄目ッスよ。こっちに居たら、絶対、戻りたくなる。自分に甘えちまうんですよ。』」
振り切るように頭を振って、あたしは坂田さんを見上げる。
「坂田さんの御蔭ですよ。この決断に踏み切れたのは。有り難う御座いました。」
言ったあたしはそそくさと頭を下げて、船に向かった。
「あ、……おー……」
「銀ちゃん、墓穴掘ったネ。」
「うるせー、糞餓鬼。」
背後で神楽ちゃんと坂田さんのそんな声がする。
これ以上、坂田さんと話してたらきっと、真選組を思い出してしまうんだ。
それが怖くて、あたしは振り返らずに船までの僅かな距離を全力で走った。
「もう良いがか?」
搭乗口で待っていてくれた坂本さんに声を掛けられ頭を上げる。
「はい。宜しく御願いします。」
息を調えながら、あたしが言うと、坂本さんの手がはあたしの頭に乗った。
「宙は広い。今、おんしが悩んどる事も宙に出りゃあ、考え方ば変わってきっと解決するぜよ!元気出しー!」
「…」
わしわしと荒っぽく頭を撫でられて、思わず泣きそうになる。
同時に、似た様な事を良くしてくれたおおらかな人物が脳裏に浮かび上がった。
……あー、何だ彼だ言ってあたしも女なんだなー……。
未練がましいだなんて柄でもねぇ……。
唇を噛んで、思いを断ち切りあたしは頭を上げた。
「有り難う御座います、坂本さん。」
言ったあたしに坂本さんはにっこりと微笑み、逆の手を上げる。
「よっしゃ!ほいじゃあ、出発ぜよー!」
「はいっ!」
坂本さんに続き、荷物を引き摺りながら、搭乗口に足を掛け、振り向いて、皆に手を振った。
「いってきまーす!」
「気を付けるんですよー!」
「頑張ってね紅羽ちゃーん!」
「元気でなー!」
「帰って来る時、御土産頼むヨー!」
「あ!僕、最新のタッパーが良いですー!」
「じゃあ俺は甘味処のフリーパスでー」
「宇宙関係ねェェェェェェェェェっ!!!!!」
思い思いっつーか適当っつーかな声に自然、笑みが零れる。
向こうにはそんなつもり、更々ねーんだろーが、凄く元気を貰えた気がする。
そんな事を考えて、あたしは機内に入ろうと、足を踏み出した。
と、
「紅羽!!3回 回ってわんっ!!」
「!?」
あたしにとっての禁句が高らかと空に響いた。
恥ずかしい、と言う抵抗より先に動くは我が身。
嗚呼、無情……。
くるくるくる……
「わんっ!!…って兄者ァァァァァァァァァァァァ!!!」
唐突なあたしの行動に唖然とする一同を気にせず、あたしはこんな事させた犯人であろう人物に叫んだ。
「何でこんな時にこんな事させるんですかァァァァァァ!!?」
「わ、私っ?!」
食って掛かれば、兄者は驚いた様な素振り見せる。
コノヤロォォォォ!!しらばっくれんなァァァァァァ!!!!
「他に誰がいるんですか!!」
「濡れ衣です!私ではありません!!」
「嘘吐くなカネ●ンがっ!!」
「カネゴ●って…!今の子知りませんよそんな怪獣!第一、私がこんな金持ちやらボンボンやらがいない様な場所でそんな面白い事する筈無いでしょうっ?!!」
「……あ、」
あたしは兄者の反論に口を噤んだ。
確かに兄者の言ってる事は一理ある。こんな駄目人間(酷)達の前であたしの弱味晒したって兄者的には何も面白くない筈だ。
金持ちやらがいれば良い見世物になったり、上手い事口車に乗せて金取ったり出来るらしいけど、今はいない。
詰まり利益にならないからやる筈がない、か…?
「じゃあ、誰……?」
「…っは……鷹居…っ!!」
疑問符を浮かべていれば、背後から懐かしい声と呼び方。
「!」
振り向けば、黒に身を包んだ鬼上司が、膝に手を付き、肩で息をしているではないか。「…ひ、……じかた……さん」
1番会いたくない、1番挨拶しなきゃならない人が目の前にいる。
何で……?どうして……?
「は…、前のと言い今回と言い、仲間に一言も告げずに宙出ようなんざ、随分と薄情じゃねぇか……っ、」
袖で米噛みの汗を拭いながら、土方さんはニヤリと笑った。
「……な、…何してるんスか…?」
「あぁっ?!此方が聞きてぇよ。メディアで家に居るとか言っときながら、取り上げらんなくなったらオサラバか?」
「…それは、」
「別にテメェが何処行こうが知ったこっちゃねぇがな、テメェの言った事ぐれェテメェで責任持て、阿呆。」
「……すみません…」
郊外の空き地に響く土方さんの説教にあたしは素直に頭を下げる。
「無責任でした…、」
「以後気を付けろ。……それよか、貿易で宇宙に出るってのは本当らしいな。」
「……何でンな事知ってんですか…」
「お前ん家に行ったら、近所の奴が言ってた。」
「あたしの家…?真選組副長ともあろう方があたしに何か?」
「…っち、嫌味な言い回しだな……。まぁ、いい。宙に出んのは勝手だがな、此れ見てから、もっかい考えろ。」
「…文書?」
大分息が調った土方さんは、懐から真っ白い三折りの和紙を取り出し、あたしに突き付けた。
2、3度瞬きしてから、あたしはそれを受け取り開くと、短くも達筆な文字が縦に並んでいる。
「……!」
一通り目を通したあたしは目を見開いた。
「……嘘だっ!
「本物だ。自分を守ってくれた奴が、そのせいで公職退くって御聞きんなって、御心悼めたそうだ。上様が。」
「………まさか、」
かったるそうに言う土方さんに、あたしは再度紙面に目を遣った。
将軍家の紋に、現将軍、徳川茂茂の名、そして【真選組再入隊を命ずる】の文字列。
「今回は特例で受けるか蹴るかは鷹居に任せるってよ。」
勅命なんだがな、と土方さんは頭を掻く。
そんな、折角、諦めようとしてたのに………。
つーかこんな旨い話があっていいのか…?
「……ですか?」
「あ?」
「いいんですか?あたし、戻っても…?」
「テメェの好きだ。宇宙が良いなら出りゃ良い、戻ってくんなら歓迎する…、って近藤さんが言ってた。」
疑問と不信感に駆られながらも、聞けば、土方さんはさらっと答えた。
「………ホントっすか…?」
「嘘なんざ吐くかよ。知ってんだろ?」
「……微妙、」
「酷っ!」
ニヤリと笑った土方さんに渋い顔して返せば、がっつり吃驚な反応が戻ってきた。
それが自棄に懐かしくて決心が揺らぐ。
こんな旨い話など裏があるのかもしれないけど、どうしても、駄目だ。
傾く気持ちに抑えが効かない。
「……でも、」
そんな気持ちとは裏腹に、口が紡いだのは否定の接続詞だった。
「でも、あたしは……」
と、そこまで言ってあたしは口籠る。
所詮は理性の差し金で出た接続詞。その後なんか繋げられはしない。
「でも、……何だよ。」
「……あたし………、」
対峙する土方さんの顔すら見れず、ただ俯いて言葉を探した。
暫しの沈黙が空間に流れる。
「……なぁ、紅羽ちゃん、」
沈黙を破ったのは坂本さんだった。
「坂本さん…?」
「事情をよう知らんわしが言うのも憚られるんじゃが、自分に素直にならんがか?」
「…へ?」
唐突な発言に目を屡叩けば、坂本さんはもっさもっさの頭を掻きながら続ける。
「さっき紅羽ちゃんが言うちょったやりたい事我慢云々ってのを悪く言うつもりじゃなかが、わしは我慢ばせんでやりたい事やっちょったらええと思うぜよ。」
「………、」
「確か銀時の受け売りだったがか?我慢云々て。銀時らしーったららしーがの、わしはやっぱり好きなよーにやんのが1番だと思うきに。回りば気にせんでな!」
坂本さんは言い切ると、空を仰いで笑った。
それが何とも尤もらしくてまた気持ちが揺らぐ。
やりたい事を我慢するのもやりたい事で、でも、やりたい事好きなよーにやんのもやりたい事で………。
2つの言葉がこんがらがって、ループして、大体が常に容量オーバーのあたしの頭ではフルに稼働しても追い付かない。
あー、駄目だ。全然分かんねぇ!
誰か脳味噌のキャパシティ分けてくれ!!
「うー……………」
何が何だか、訳分かんなくなってあたしは仕舞いに唸り出した。
「紅羽ちゃん、何悩んでるの?」
すると、見兼ねたのか、妙ちゃんがあたしの肩を叩く。
「貴女がどうしたいかなんて、私には分からないけど、紅羽ちゃんらしく体裁なんか気にしないで、何時もみたいにドカーンと決めちゃいなさいよ!」
「妙ちゃん…」
「どんな選択したって、私達は貴女の味方よ。だから、思いっきりやればいいわ。」
肩に置かれた手から辿って妙ちゃんを見れば、優しい微笑み。
その背後には九ちゃん達、皆。
顔を上げれば、にっこりと笑う坂本さんと機嫌良さげで逆に気持ち悪い土方さん。
まるで妙ちゃんが言った事を皆が言ってるみたいで、気持ちがぽっ、てあったかくなった。
あたしらしく、体裁なんか気にしないで……、思いっきりやればいい……。
そうだよ。何悩んでんだ、あたし。柄でもねぇ!こないだの事で悩み癖でもついたのか?
させるか、そんな事!
どんな選択したって、味方……。
言葉だけだから確証はないけど、言葉だけなのにこんなにほっとするもんなんだろうか?
でも、ほっとするんだから仕方ない。
あたしはただ漠然と人に恵まれたと思った。
「あたし、」
自然に出てきたその笑顔もそのままに、
「あたしは…!」
皆の顔が見えるように、
「あたし、やりたい事我慢出来る程、出来た人間じゃなかったみてーです!てな訳坂本さん、御免なさい!鷹居紅羽はやっぱり地球で刀振り回します!」
声を張り上げて叫んだら、素晴らしくスッキリした。
男もすなる
武士といふもの
やりたいんだから女がやっても良いだろ?
我慢するのはあとちょっと大人になってから!
「あっはっは!気にすんな!この件、まだわししか知らんきに!」
「それはそれで心配だった!」
「鷹居、再入隊は初の女性隊士って事んなってっからな。軽率な行動は慎めよ。」
「え゙え゙え゙え゙え゙え゙!!1番不可能だ!!」
THE END
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