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2008年12月〜2009年3月
雨も雪も(連載夢主兄視点)


「……おや、寒いと思ったら雪ですか。」

先程まで窓ガラスを叩いていた雨が黙ったかと思えば、外では雪がくるくると緩やかに踊っている。

雨が降っても雪が降っても思い出すのは……。

困ったものです……。


雨も雪も


あれはそう、紅羽がまだ10にも満たない糞餓鬼……げふん、子供の時。

雨の中迷子になって、今思えば何処かで見た様な青年に助けられたのと同じ年の冬初旬。
あの時、あれ程勝手な行動は慎む様叱り付けたと言うのに、我が愚妹は懲りずに迷子になったのです………

───────

「紅羽っ!紅羽っ!!何処に居るんですかっ!!!」

刺す様な冷気が手袋ごと指先を貫く中、小さな影を捜し、呼ぶ声。

休日のせいか、師走のせいか商店街は人で溢れていた。

「紅羽っ!!返事なさいっ!!」

走れど走れど、小さな影は見当たらない。
呼べども呼べども、愛らしい声が返らない。

「…はっ……はっ…何処、…にいるのです………」

凍えた鼻が、ズッ、と鳴る。
額が冷えるは、冷気のせいか不安のせいか、

「……っ……!!」

上がる息と崩壊しそうな肺に、脳は朦朧としながらも、警笛を鳴らし、小さな影を捜せと命ずる。

「紅羽っ!!紅羽っ!!」

そんな己を蔑む様に、膝は嘲笑を始めた。

「……は……っ、……は……っ……」

人混みを掻き分け、回る程に眼を動かし、苦しさと不安に暴れ回る心臓を抑えながら、ただ、ただ、捜し回る。
人の波に冷たい視線を送られた。盛りを過ぎた大人達に怪訝な目を送られた。
……喜劇の様な在り来たりな展開など期待しては居ないが、視線の先に“兄者”と呼ぶ元気な顔が無い事に、不意に繋がれる小さな掌が無い事にただ、ただ、不安で、最悪の事態だけが頭を過るも、限界を過ぎた身体は遂に悲鳴を上げた。

「……あっ!」

突然停止した足に上半身は勢い余ってバランスを崩す。
転ぶ、と分かった時にはもう遅く、衝撃に構えて目を瞑った。

「………?」

しかし、続いて訪れる筈の衝撃が何時まで経っても来ない事に瞼を上げる。
すると、ぶつかる地面は眼下にあり、誰かの肩が目の前にあった。

「大丈夫か?」

聞こえてきた声にはっとして、身体を放すと、おなえ年位の男が立っていた。

「あ、はい。有り難う御座います……。」

小柄なその男に頭を下げると、彼は別段気にせず言う。

「気にすんな。怪我ねーか?」

「はい……。」

不思議な雰囲気を醸すその男は、黒刃が返事をすると、良かったな、と言うと、更に言葉を続けた。

「で、誰か探してたみてーだったな、」

「あ!」

小首を傾げる程度に傾けた男に黒刃は我に返る。再び蘇るのは妹の安否。

「そ、そうでした…!!助けて頂き有り難う御座いました!では、」

「待てよ、」

走り出そうとすれば呼び止められ、振り返ると男は興味無さげだがこう言った。

「捜すの手伝うぞ。どんな奴だ。」

「え…?」

ぶっきらぼうなその声に疑問を返す。

「手伝うってんだよ。餓鬼か?女か?」

すると男は黒刃を睨む様に聞いてきた。

「あ、え、えっと……妹で…10に満たない男の子の様な子ですが……」

「餓鬼か…。」

分かったと言わんばかりに頷いて、彼は辺りを見渡す。

「おい、テメー何してんだよ。」

すると、仲間らしい男が2人、彼の元に近付いてきた。

「人を待たせるとはどう言う事だ。貴様から呼びつけておいて。」

「煩ぇな。その頭取るぞ。」

「取れるか阿呆。訴えるぞ。」

彼は少し古臭い口調の男に眼を飛ばす。負けじとその男は彼を睨んだ。

「でー、どーしたのよ。此方さんは?」

するともう1人、あからさまに生気の乏しい目の男が黒刃を指す。

「軟派とかじゃねーよな?男だし。」

「当たり前だろーが。俺ァてめーと違って女にゃ困ってねーよ。」
「んだと、コラァァァァァァァァ!!俺だってこんな髪じゃなけりゃモテモテだかんな!!」

彼が鼻で笑うと男は自らの髪を引っ張って主張した。

「何でもそれのせいにすんじゃねーよ。小せーな、てめーは。」

蔑む様に彼は言って黒刃を指す。

「コイツ、妹が迷子になってんだってよ。」

「妹ぉ〜?」

「それは大変だな。貴様、何故手伝わんのだ。それでも武士か。」

「だから今から手伝おうとしてたんだってーの。てめーが変なモン頭に乗っけてっから遅れてんだよ。」

「関係無かろう。というか、変なモンとは何だ。貴様叩っ斬るぞ。」

「…あ、あの………」

何故か眼を飛ばし合う彼等に黒刃はおずおずと声を掛けた。

「御構い無く……私だけで大丈夫ですから……」

「何を言うか、」

すると、先程から頭をネタにされっぱなしの男は真っ直ぐに黒刃を見る。

「困った時は御互い様だろう。遠慮するな。」

「…は、はぁ……」

「おい、テメー何カッコ付けてんだよ。付けんは頭のだけにしろ。」

「ヅラじゃないと言ってるだろうが!!!」

「でー、妹ってどんな娘?」

「えっと……」

「さっき俺が聞いた事反芻すんじゃねーよ。」

「俺聞いてねーし。」

「いいから捜すの手伝え。」

「わーったよ。」

あれよあれよと手伝う雰囲気が出来上がり、3人はどう手分けするか話し出した。
しかし先程からのやり取りから分かる様に全く意見が纏まらないらしく、徐々に喧嘩腰になっている。

「…………」

出来れば関わりたくないので、一寸ずつその場を去ろうとした時だった。

「あ!兄者っ!!」

「んー?嬢ちゃん、アレがおんしの兄ちゃんがか?」

「!?」

聞き覚えのある声と、方言混じりの声が聞こえ、目をやる。

カラコロと下駄を鳴らす長身の男に連れられた紅羽が此方に駆けてきた。

「紅羽っ!!」

その声に不安が一気に取り除かれ、黒刃は屈んで妹を迎える。

「何処に行っていたんですかっ!!?」

「!ご、ごめんなさい……」

飛び付いてきた紅羽に黒刃はきつく言った。黒刃はそれにビクッと肩を強張らせて小さく頭を下げる。

「まぁ、兄ちゃん。そんなに怒らんちー。紅羽ちゃん、わしが迷子になってたのを助けてくれたんじゃきに。」

「……は?」

何気に問題発言をかました男を見上げれば、男は高らかに笑った。

「あっはっはっ!幾つんなっても迷子は心細いきに、一緒に探してくれてたんじゃ!」

「……は、はぁ…。」

「あーっ!!やっと来やがったー!!」

何と返したらいいか戸惑う黒刃の後ろで、先程の3人組が声を上げた。

「テメー!!今まで何処行ってやがったァァァァァァァァ!!!」

「ぐがふぅ!!」

生気の乏しい目の男、方言混じりの男にドロップキックを食らわすと、それを皮切りに残りの2人も一緒に殴り掛かりに行く。

「あだだだだだだっ!!!ちっと寝坊しただけじゃ…」

「ふざけんな!今昼だぞ?!どんな寝坊だ!!」

「てめー、だらしねーのは頭だけにしろ。」

「武士として恥ずかしいと思わんのか!!」

「ちょ、まっ………ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

「……………」

「面白ぇー人達だな。兄者。」

「………そうですね。…………帰りましょうか、黒刃。」

「うんっ!」

手を繋いで家路に付けば、空から雪が降りてきた。

──────

窓ガラスに手を当てて、そんな風景を思い出すと、苦笑いと共に込み上げてきたのは道を別った戦友への思い。

とんでもない出会いをしたあの頃や、共に理想を目指していた頃になど、描きもしなかった今を思うと、何故か、胸が痛かった。




何時かまた、全員一緒に酒でも飲みたいものですね。

「……そういえば、キャラの濃い人に出会うのはそんな日ばかりですね……。」
「黒刃〜。オジサン今夜すまいる行くんだけども着いてこいよぉ〜。」
「……そう言えば警察庁の面接も雨の日でしたね……」
「あァ〜?どしたの〜?」
「何でもありません。」




END。

まさかの兄者視点(笑)

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