act.6

中庭で沖田さんを待っていると、何人か隊士であろう人が廊下を行き来しているのが目に入った。

みんながみんな、山崎さんと同じ黒の制服。
中には土方さんや近藤さんと同じ ちょっといい仕立ての制服を着ている人もいる。

果たしてあたしはあれらの制服に腕を通せるのだろうか……


act.6
気のせいで御座いますよ。


「いやァ、待たせましたねィ。」

不意に後ろから声が掛かった。
振り返ると、沖田さんと土方さんが並んで立っている。

「おら、刀だ。」

土方さんはそう言って、鞘に入ったままの刀を一本差し出した。疑いも無くその刀に手を伸ばす。が、

他人から武器を借りる、と思った、あたしの刀を取ろうとした手は自然に引っ込んだ。

「どうしたんですかィ?」

自分の物であろう刀を担いだ沖田さんが訝しげに言う。

「いえ、…他人から武器は借りるな、と 師に言われてるもんで。」

師──兄者に何時も言われてる事が脳裏を過ぎった。

“敵に武器を借りるなど、愚か者のすることです。良いですか、もし何かそういった出来事に遭遇したのなら、これを使いなさい。"

と、渡されたのは刃渡り30cm程の小太刀。何時も懐に備えてあるそれを取り出した

「護身用、って師に持たされてるモンですがこれで相手させて下さいよ。」

「…面白ェ、構いませんぜ。」

答えたのは沖田さんだ。
にぃっと笑って言う。

「有り難う御座います。」

言って軽く頭を下げた。

「じゃあ、始めやしょうか。出て下せェ。」

沖田さんはあたしに庭の中央に出るように促す。
あたしは頷いて、言われたように動いた。

*****

「いいのか、総悟。」

「ええ。毒付きかも知れねェが、太刀が入る前に決めてやりまさァ。」

土方コノヤローに答えて俺は紅刃の後を追う。
奴は己の得物を抜き、くるくる変えてそれを眺めている。

「…真剣使うのは久し振りだなぁ。」

その様は真剣での斬り合いには慣れてる風にも見えた。

「さっきも言いやしたが手加減はしませんぜ。」

相手にだけ聞こえるよう俺は呟くように言い、刀を抜くと、紅刃は軽く頷いた。
緊張が伝わってこねぇのも益々怪しい。

「双方、構え。」

詮索は後だ。
土方コノヤローの声に、刀を握り直す。

紅刃も小太刀を鞘から抜いたが、それを逆手に持っただけで声が掛かる前と全く姿勢は変えない。
俺の構え方も人を注意できるようなモンじゃねェが、これから斬られるってのに、随分と落ち着いてやがる。

「…始め!」

声が掛かると同時に、俺も紅刃も地を蹴った。

本来は相手が攻めて来た所を返り討ちにすんのが得意だが、今はそうも言ってらんねェ。

刀を振った時、避けても避けきれない位、距離に詰めないと隙が出来る。
俺はギリギリまで間合いを詰める。
紅刃は真っ直ぐ此方に走ってくる。

貰った。

紅刃と衝突間近で俺は剣を振る。


ドッ!!


だが、振った筈の剣に手応えはなく、代わりに胸に強い痛みが走った。
感じたと同時に後ろに引かれるような感覚を覚えるがなんとか体勢を建て直す。
素早く胸を押さえるが、濡れていない。

驚き顔を上げると、懐まで迫っていた筈の紅刃は2m程離れた所に立っていた…、が、思うと同時に一気に間合いが縮まる。


速い…!!


思ったものの、俺が刀を構え直す間は無いに等しく、剣先が俺の喉を目掛けて伸ばされるのが分かった、が、

「……何やってんでィ。」

奴は俺の喉元の、紙1枚挟める程度の所で太刀を止めている。

「や、これで一本でしょう?」

「殺らねぇんですかィ?」

「自分の上司になるかもしれない人間を無闇に斬るほど馬鹿じゃねーッスよ。」

そう言うと紅刃は、にぃっと口角を上げて太刀を下ろした。

「土方さん、見てましたよね?沖田さんから一本取りましたよ。入隊、許可してくれますか?」

「…。」

「往生際が悪いぜ、土方さん。」

黙り込む土方に俺は言う。

「俺の負けでさァ、約束は守りやしょう。」

「だが…「トシィィィィ!!総悟ォォォォ!!大変だァァァァァァァ!!」

「近藤さん?!」

渋る土方の言葉を遮るようにどたどたと音を立て、近藤さんが叫びながら走ってきた。

「何処行ってたんですかィ、近藤さん。もう勝負は付きやしたよ。俺の敗けで紅刃の入隊は決定でさァ。」

「あ、そうなの?そりゃ良かった。紅刃君これから宜しく…ってそうじゃなくてェェェェ!!実はさぁ〜今とっつあんが来てて……「おい、ゴ〜リラァ〜。いきなり走るんじゃねぇ〜よ。オジサン疲れちゃったじゃあァねェ〜かァ〜。」来たァァァァァ!!

ダンディーかつ気だるげな声がすると、近藤さんは再び叫ぶ。

声の方に目を向けると白髪でグラサンを掛けたチョイ悪なんかじゃ済まされない様な面構えのオッサンが、細身で長身の青年を連れて歩いてきた。とっつぁんとその秘書だ。

*****

「松平様、昨夜大分御飲みになられているのですから、御無理をなさらず…。」

現れた長身痩躯の青年は白髪の怠そうなオッサンの肩を支えつつ、一緒に此方に近づいて来た。

「あ〜、昨日ちょっとはしゃぎすぎたかなぁ〜ぁ。オジサン倒れたらァ、ちゃぁんとォ、家まで運んでくれよォ〜。」

「勿論で御座います。ちゃんと引き摺って御自宅まで御送り致しますよ。」

「アレ?今変な言葉聞こえたよ?引き摺ってって…。」
「気のせいで御座いますよ。」

しゃあしゃあとしらをきる青年。…て言うか、あれ?この喋り方…つーか、この声は…

遂に近藤さんと土方さんの隣に来たオッサンと青年。

不意に顔を上げた青年と目が合った。


「…………兄者…!?」


To be continued……

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