act.8
「御注文御決まりでしょうか?」
「えーっと小宇宙ドリアとドリンクバーで」
「畏まりました。ドリンクバーのグラスは彼方に御座いますので御使いください。」
「はーい。」
さぁて、取り敢えずオレンジジュースでも取ってきますか。
act.8
分かってたけど腹立つなぁ
「お待たせ致しました。小宇宙ドリアで御座います。」
「あ、どーも。」
「御注文の品は以上で御揃いでしょうか?」
「はーい。」
「ごゆっくりどうぞ。」
可愛いウェイトレスさんは注文したものと伝票を置いて笑顔で去っていった。
こんにちは、鷹居紅羽です。
只今、再就職祝いにと、兄者が企画した外食場所のバトルロイヤルホストにて兄者を待っている次第です。
再就職祝いとかほざいて…間違い、言っていたが、さっきの禍々しいオーラから兄者はどうせ、“アレ”の事しか考えてないわけで、そのお話をされるかと思うと、気が重くて仕方がない。
目の前で湯気を発てる小宇宙ドリアにスプーンをぶっ刺し、冷ますためにぐちゃぐちゃ混ぜながら、あたしは溜め息をついた。
ぐぅぅぅぅう…きゅるるるるる〜
………ここは兄者を待つべきなんだろうが、生憎、腹の虫が言う事を聞かないので、悪いが先に頂くとしよう。
好物を目の前にして、誰かを待つなんて出来る程あたしは大人ではないのだ。
……もうすぐ20歳だけどな。
ぐちゃぐちゃに混ぜていい具合に冷めたドリアをスプーンで掬い、いざ口に運ぼうとすれば……
「いや〜すいませんね、紅羽。近藤さんに紅羽の配属部署をお願いしていたら少し時間が……って何やってるんですか?」
ふ…漫画みたいなタイミングだよ。凄いよ、兄者。どっかから覗いてた?
「…腹が減ったから先に食おうかと…」
「こういう時は最低でも食べずに待つのがマナーでしょう?!私は貴女をそんな風に育てた覚えはありません!!」
「仰る通りで……」
「まぁ、今回は許してあげましょう。貴女が真選組に入れた事に免じて。」
「やった!!さんきゅ!兄者!!」
お許しが出たのでスプーンをそのまま進める。
「そーひへば、はにひゃ。さっひ、ぶひょがにゃんはらってひっへはへほ?」
「口に物を入れながら喋るんじゃありません…。」
「……。ごめん。さっき部署がなんたらって言ってたけど、どうかしたんですか?」
「あ!そうでしたそうでした!!その御話があって今日は外食にしたんですよ!!」
めにゅうを開きつつ、兄者は御機嫌な様子で答えた。
比例して嫌な予感が走る。
兄者は店員を呼ぶボタンを押して、あたしに言った。
「紅羽、貴女にお願いがあります。今回…」
「御待たせ致しました、御注文の方は御決まりでしょうか。」
「…あ、デミオムライスとドリンクバーで。」
……可愛いウェイトレスさんに話を切られてしまった。
今回は何なんだよ!!
てか兄者、27の男がデミオムライスかよっ!!可愛いもん食うなっ?!あたしも好きだけどさっ!!
「畏まりました。ドリンクバーのグラスは彼方に御座いますので御使いください。」
ウェイトレスさんんんん!!ドリンクバーはもういいよ!!あたしが頼んでんじゃん!!あたしが説明するから!!貴女がここにいると話が進まないんですよォォォォォォォォ!!
マニュアルを言い終わると、やっぱりウェイトレスさんは微笑んで去っていった。
「ふぅ…、では、飲み物取ってきますね。」
「兄者ァァァァァ!!それよりさっきの続きィィィィィ!!」
「で、ですが私もオレンジジュースが…」
「どこまで可愛いもん食うんだ、アンタはァァァァァ!!いいよっ!!もう、あたしのあげるからっ!!」
「ドリンクバーの飲み回しは禁止ですよ、紅羽。」
「後であたしが新しいの取ってくるから話の続きを聞かせて下さいィィィィィ!!」
何なんだよ兄者。
何時にも増しておかしいよ…
「そうですか?では頂きます。」
兄者はあたしのグラスを自分
の方に引き寄せて、新しいストローを出し、オレンジジュースを飲み始めた。
いいから、話を続けてくれ。
「ふぅ、やはり疲れた時にはオレンジジュースですね。」
「もうオレンジジュースはいいから。話って何ですか?」
「あぁ、そうでしたね。…こほん、紅羽、貴女の配属は近藤さんに頼んで、副長補佐にして頂きましたよ。」
「は?」
思わず持っていたスプーンを落とした。
な……何だって?
「いやいやいや、待って。待って、兄者。あたしの配属が何だって?」
「副長補佐、つまりは土方さん専属パシリですね。」
え?嘘?
あの堅物的な土方さんのパシリ?
「…退職届出してきていいですか?」
「駄目ですよ。それと、貴女は真選組で男として働いて貰います。」
「なっ?!何で?!!」
「そんなの決まってるじゃないですか!!女だと都合が悪いんですっ!!」
「何の都合?!」
「そう!!それが本題です!!紅羽、貴女に折り入って頼みがあります。」
ビシッと音が付きそうな程ハッキリと指を立てて兄者は言った。
あぁ、やっぱりそうか。
この入り方は確実に'アレ'だ。
金関係だ。
兄者は三度の飯より貯金が好きなお金大好き人間。
今幕臣やってるのも、高収入だからであって、上司の人柄に惹かれただとか江戸の皆の為になりたいとかでは断じてない。
そんな事在り得ない。
あたしは溜め息をついて言った。
「…分ってますよ。収入は全額貯金に回しますから。つーかそれと女だと都合が悪いのとどう関係あるんですか?」
「違いますっ!!貴女の収入など貴女の好きに使いなさい!!」
「…へ?」
意外な答えにあたしは目を丸くした。あたしの収入は好きに使えだと?あの兄者が?
「…熱でもあるんですか?」
「失礼なっ!!私は至って正常です!」
「じゃあ…?」
「…貴女が女だと知られては、貴女の身が危険です。幾ら剣術の心得があっても、色々と男には及びませんから…。私はそれが心配なのです。」
「兄者…。」
何だ彼だ言って兄者、あたしの事心配してくれてるんだ…。
ちょっと嬉しくなって口許が緩んだ…が、
「…それに」
「?」
「…折角の玉の輿に乗るチャンス!!下手に下賤の悪い虫でも付いたらどうするんですか!?男装していれば回りは血迷うかもしれませんが、貴女の身は安全ですからね!!」
…何?
「兄者、それ、は……?」
「平隊士の男に好意を抱かれては堪ったもんじゃありません。それでは貴女を副長補佐にした意味がありませんから。」
「ドドドドウ言ウ事デショウカ……、」
動揺して片言になりながら、あたしは兄者に訊ねる。まさか…まさかとは思うんだけど……
「単刀直入に言います。土方さんを墜としなさい。」
「な、何ィィィィィィィ?!!何で?!何でそうなんのッ?!」
意外だ!!意外すぎる!!
何がって全体的にですよ!!玉の輿って言ってたから、いやーな予感はしたけど、よりによって副長を墜とせだと!?
無理無理無理!!
ないないないない!!ないよ!!!
「真選組と言えば、警察庁直属の言わば高位の国家公務員!!平隊士でも、その収入は確実に高額と聞きます!!此を逃さない手がありますかっ!?」
兄者は目を爛々とさせ力説する。
しまったァァァァァ!!
スイッチオンんんんん!!!
「で、でも、その話なら隊士だったら誰でもいいん、じゃ……」
悪女的発言だがあたしは断じて悪女ではない。
寧ろ男に間違われるくらいだ。男にモテたことは生まれて以来一度もないことだけ言っておこう。(女の子にはモテたけどな)
「良くありませんっ!!平隊士は平隊士です!!隊長クラスならその倍は確実!!高位になれば尚の事!!だから土方さんを墜としなさい!!」
「待て待て待て待て、兄者。その考えからいけば、近藤さんを墜としたほうがいいんじゃねぇの?」
墜とす気は更々ねぇ、てか墜とせないとは思うけど…
「駄目です。私はあんなゴリラ義弟にしたくありません。」
「オイィィィィィ!!幾ら何でも酷ェよ!!あたしもゴリラ近藤さんって呼んでたけども!!てか、そんな先まで考えてんじゃねェェェェェェェ!!」
「兎に角ゴリラは嫌です!!」
「あたしも無理です!!」
「じゃあ決定ですね。土方さんをモノにして下さいね。」
「それも無理です!!」
「何故です?!妹夫婦で国家公務員、私は高収入ともなれば、濡れ手で粟、左団扇の生活が実現するんですよ?!!」
「何それェェェェェ!!アンタ、妹の将来 何だと思ってんの!!?」
「幸せになってほしいと思ってます!!しかしその為にはお金が必要不可欠でしょうがっ!!」
「結局金かァァァァァァァァァァ!!!」
「世の中、金です!!貯金です!!」
「言い切りやがった!!」
「兎に角、これは家長からのお願い、いえ、命令です。貴女は男として真選組で働き、土方さんを墜としなさい。」
「男として働いて、どうやって墜とすんだよ…」
「心配いりません。貴女の部屋は土方さんの部屋の襖を挟んで隣にして頂きましたから♪巧い事 こう……」
「…兄者。アンタ 絶対あたしの身の危険とか考えてないだろ。」
「まさか。悪い虫が付かないか心配です。虫は虫でもヘラクレスオオカブトか将軍様の故・瑠璃丸様レベルの虫なら大歓迎ですが。」
「金持ちなら良いのかよ…」
「とんでもない!!見た目と性格も大事ですよ!!」
「……もういいよ、なんか疲れた。」
「仕方がありませんね。そんなに嫌なら、この際、結婚なんて言いませんよ。だから既成事実くらい残して下さい。あわよく孕んで損害賠償とか養育費貰えれば良いですから。ね?」
「"ね?"じゃねぇよ……あー、もうヤだぁ〜……
墜とせる訳ないじゃん!!墜とす気もないしさぁ…、兄者の狙いは鬼のお兄さんだしさぁ……。
「大丈夫ですよ、紅羽。貴女ならきっとできます。男みたいに長身で、声変わり前の男みたいな声をして、男みたいな喋り方して、普段男みたいな格好をしてるだけで実際は晒しを巻いたちょっと変わった女の子なんですから。」
「心を読まないで下さい、兄者…。つーか、元気付けられてる気がしないんですけど…寧ろ傷付けられてる気がするんですけど…。」
「そんなことありませんよ。それに紅羽、貴女は脱げばまぁ中の上レベルなんですから。」
「何を根拠に……」
「その時になって困らない様、ちゃんとした下着を用意すべきと私が判断して、紅羽が寝てる間にメジャーでちょっと♪」
「…変態……。"ちょっと♪"って、あたしが普通のきゃあきゃあ騒ぐ女だったら殺されてるよ、兄者…」
「でも我が妹は普通じゃありませんから。」
「分かってたけど腹立つなぁ…。」
どうやらあたしの真選組ライフは一筋縄ではいきそうにないようです……兄者のせいで。
To be continued……