bonus.1
「では紅羽。私は松平様の御使いに行ってきますから、留守番頼みますよ。」
「ふぇー…い゙っ!!!?」
欠伸交じりに返事をしたら、革靴の踵で殴られた。
悪戯心休憩中
「いってぇーっ!!!!何するんスか兄じゃっ!!!?」
「言葉遣いを気を付けろと言ったでしょう!!?痛う御座います、何をなさいます御兄様、と仰い!!」
「言えるかぁぁぁぁぁぁあぁぁあっ!!!何そのくどい言い回しっ!!?」
再度、殴られた頭を擦りつつ、あたしは兄者を恨めしく見上げる。
「御黙りなさいっ!!貴女に拒否権や発言権はありませんっ!!!」
「酷ぇ!!!国家公務員が人権侵害してるっ!!!」
「御黙りなさいと言ったでしょう!!!」
ぶすっ!!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!?」
反発すれば、兄者に革靴の先で目潰しされた。
御存知、あたし鷹居紅羽は、只今、真選組初女隊士に相応しい人間になるため、再教育と言う名の戦争で兄者と戦っている。
つーか不可能だろ。
もう20歳になろーっつー人間に再教育とか無理に決まってんだろ。
気付けよコノヤローっ!!!
「良いですか、紅羽。私が留守の間だからと言って気を抜いてはいけませんよ。」
何かもう既にボロボロなあたしに兄者は漸く革靴を履いて、そう言った。
「は?」
「例えば今着ている振袖から袴に着替えたり、晒しを巻いたり、腹出して寝たり、胡座かいたり、アレしたりコレしたりしないように、という事です。」
「アレしたりコレしたりって何だよ。」
「要は軽率かつはしたない行動は慎みなさいという事です。分からない娘ですねぇ。」
「うぐぉぉぉぉぉぉっ!!!腹立つぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!」
しれっと言った兄者に拳を握るも、ビームが出そうな鋭い目付きで、降り下ろすのを抑止される。
絶対この人目からビーム出せるよ、ビーム。
「それから御客様には嫋やかに慎ましく丁寧に御相手する様に。」
「はいはいはいはい。分かりましたよオニーサマ。」
ちくちくちくちく小姑みたいな兄者の言葉を適当に聞き流して返せば、蛙を睨む蛇みたいなじとっとした視線を送られた。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……な、何ですか……?」
無言の圧力に耐え兼ねるも、此処で折れては武士の恥。
そ知らぬ顔して言えば、何故か兄者は勝ち誇った様に鼻で笑った。
「まぁ、何しようと証拠は残りますから、精々頑張ってみたらどうですか?」
「……え?」
兄者らしからぬさっぱりとした態度に目を屡叩くと、軽く口角を上げて兄者は続ける。
「我が家の敷地内のありとあらゆる所には合計17652個の監視カメラが設置してありますから。」
「何その微妙な数っ!?てかあたし知らないんだけどっ!!」
「当然です。紅羽監視用のカメラですから。」
「プラァァァァイバシィィィィィィィィィィィィィ!!!それ憲法違反じゃん!!プライバシーの侵害じゃん!!」
「我が家では私が法律です。他所は他所、家は家ですよ紅羽。」
「関係ねぇよ、そのお母さん的思考!!!国単位だからね!!国単位の他所とか外国だからね!!?」
「問答無用です。鬼の居ぬ間の洗濯など、出来るものならやってみなさいな。あ、あと勝手な外出も減点対象ですからね。では、行ってきます。」
再度勝ち組の微笑を浮かべ、兄者は家を出ていった。
ちなみに減点とは再教育期間に兄者が設けた制度で来月の小遣いに響く事になっている。減点2で小遣い−5000円故に無闇に破れない。
しかしあたしは両手で握り拳を作って肩を震わすしかない様な良い子ではなかった。
「ちっくしょ〜っ!!!カメラだな!?全部探してぶっ壊してやる…っ!!!」
******
「ゔー……此処でもないか……。」
食器棚と天井の縦横30p位しかない隙間に潜り込んであたしは嘆いた。
監視カメラを探すべく、手当たり次第に探すも全くもって欠片も見当たらない。
家全体を引っくり返せれば楽なのになぁ…。
「よ…っと…。何処に隠したんだよ…。」
食器棚から降りて頭を掻きつつ、呟く。
…あー…今の食器棚登りもどっかで撮られたらどーしよ。
畜生、これじゃあ気になっておちおち昼寝も出来ねーよ。
沸々と再沸する苛つきに頭を掻き毟った。
────ぴんぽーん、
「…ん?」
すると玄関からチャイムの音が響き、来客を知らせる。
時刻は平日の真っ昼間。
誰が来ても可笑しくないが、兄者の客は電話が殆んどだし、あたしは来て貰うより自分が行く派だから多分、セールスか何かだろう。
「あーい。」
やる気の無い返事をして、ぺたぺた廊下を歩き玄関へ出向いた。
「はいはい何処さんで、す………、か……、…あ。」
「よぉ。」
サンダルを突っ掛けて、ガラリと引き戸を滑らせれば、予想だにしない人物がいるではないか。
「土方さん、」
「久し振りだな。」
ちょっと高い位置に有る顔を見上げれば、淡々と何時もの口調で言った。
「何してるんスか?職務怠慢?」
「な訳ねぇだろ。総悟じゃあるめぇし。」
嫌み半分に言うと、眉間に皺を寄せられる。
「今日は非番だ。」
「非番?珍しッスね。」
「まぁな。……つーか、鷹居。何だ、お前の格好。」
土方さんは仏頂面の不機嫌そうな眉を若干上げて、顔を斜に構えた。
何だそれ?
何だ、お前の格好って何だ?
女物が似合わねぇってか?
何て滑稽な格好してるんだってか?
着れなきゃ殺すと兄者に刀突き立てられて脅され、やっとの思いで着付け覚えたってのに、この男はそう言うか……っ!!!
似合うとか言えって言ってる訳じゃねぇじゃん!!
可愛いって言えって言ってる訳じゃねぇじゃん!!
言われたくもねぇわ!!
せめて誰かあたしの努力を認めて欲しいんだよ……っ!!!!
そんな虚しさも手伝って、先刻出てった兄者の発言と今の土方さんの発言に、苛々は着々と貯まってる訳で、あたしの堪忍袋は小さくて緩い訳で、つまりは我慢はできない訳で、あたしは土方さんに負けじと眉間に皺を寄せた。
「何スかそれ。喧嘩売ってるんスか?」
「あ?何の事だ。」
わざと遠回しに言ったのにしれっと答えられちゃったよ。
んだよ!!
この期に及んでしらを切るつもりかぁぁぁぁぁぁあぁぁあっ!!?
何て思ったらもう既に両手は土方さんの肩を掴んで、口は喋りだしていた。
「正直に言いやがれコノヤロォォォォォォっ!!!似合わねぇってんだろ!?女物が似合わねぇってんだろォォォォォ!!?」
「なっ…!?!ま、待て鷹居…っ!!!」
だがしかし。
そんな土方さんの抑止など聞かず、あたしは例の如く、その身体を前後に揺さぶる。
「此方人等好きでこんな格好してる訳じゃねぇんだっつーのォォォォォォっ!!」
「お、落ち着け……っ!!着物どうこうじゃなくて襟元だ……っ!!」
「は?襟元?」
首をガクガクさせながらも言い直した土方さんにあたしは手を止めた。
「襟元が何だってんですか?」
「………目の遣り場に困るんだが。」
「あえ?」
そう言うと土方さんは眉を顰め、顔だけ遠ざける。
首を傾げつつ、襟元に目を落とせば、
「あ。」
きちっと着てた筈なのに襟元が崩れて、鎖骨がガッツリ顔を出しているではないか。
あれだ。
さっき食器棚登りした時に着崩れたんだな、コレ。
「ああら、嫌だわ。」
「何だその口調。」
「特に意味は無いです。」
変な口調のあたしに渋い顔をした土方さんに返答しつつ、襟元を正さんと手を掛ける。
「つーか目の遣り場に困るとかあたしに言いますか?」
何とか元の状態に着直した後、あたしは首を傾げて、土方さんに問うた。
「どーゆー意味だ、それ。」
「だってほんのこないだ迄、全くンな事言ってなかったじゃないっすか。」
「そりゃ、鷹居が男装してる手前だったからだろーが。一々気にしてたら変に思われんだろ。」
「そうでなくても悪い噂しかないのに?」
「しばくぞコラ。」
「すんません。」
からかってやろうと口を挟めば、ぎっ、とキツイ目付きで睨まれたんで、素直に頭を下げた。
「ったく、どっからンな話聞いてきてんだか…。」
「沖田さんがちょくちょく。」
「あの野郎………っ!!!」
「あ、やべ。バラしちゃった。」
秘密ですぜィ、と有る事無い事教えてもらったのに………ま、いっか。
「それはそうと、土方さん。」
「あ゙?」
腸内細菌の大きさ程度の自責の念と謝罪の気持ちは置いといて、あたしは青筋を立てる土方さんに聞いた。
返ってきたのは不機嫌丸出しの音だが、気にしないでおこう。
「何でまた非番にあたしん家何かに来たんスか?」
「来ちゃ悪いか?」
「いえ別に。暇なんだなぁ、と。」
「一々腹立つな、お前は……」
しれっと答えれば、眉間に皺の寄った苦笑いを盛大に浮かべた土方さんは言った。
「それで御用はなんざんしょー?」
「ちょ、何コイツ。マジで腹立つんだけど。ぶった斬りたいんだけど。」
「そんな腹ばっか立ててると禿げますよ、土方さん。」
「テメェのせいで苛ついてんだろーがッ!!!」
「ええええええっ!!?関係なくねっ?!あたし関係なくねっ?!!」
「大ありだ、この阿呆っ!!」
どかっ!!
「いってぇぇぇぇぇっ!!!!」
抗論すると、問答無用で降ってきた土方さんの平手が直撃し、あたしは頭を抑え仰け反る。
「何するんスかっ!!?いたいけな罪も無い少女に手ェ上げるとか婦女暴行ですよ?!!警察の癖にっ!!国家公務員の癖にっ!!」
「あぁ?何処にいたいけで罪もねぇ少女がいるんだっ!?何処にっ!?」
「酷ぇ!!!そんな人物で無い自覚あるけど!!」
「あんのかよっ!!」
「っとに何なんスか土方さーん。来てからずっと文句ばっかじゃないですかー。家はオージンジ、オージンジなんてやってませんよ。」
「古ィーよ!!微妙にネタが古ィーよっ!!!!てか上司の事じゃねぇっ!!!」
「あ、そっか。じゃあ少年非行防止センター的な。」
「成人なんだか。」
「……成人非行防止センター?」
「聞いた事ねぇよ、ンなモンっ!!」
首を傾げて言うと、土方さんは頭を抱えて盛大に溜め息を吐いた。
んだよ、此方人等37分の1くらい本気なのに、失礼にも程があるぞ。
「もー、ホントに何の用なんスかー?」
もう何回目かになる此の質問を再度投げ掛ければ、土方さんはちらりと此方を見て、顔を背けた。
「?」
「……別に此れと言った用はねぇ。」
「は?」
そして顔はその儘、土方さんはぶっきらぼうに言葉を続ける。
「鷹居、こないだ脱隊すっ時、死人みてぇな顔してただろ?」
「え!?ま…マジっす、か…?」
「気付いてなかったのか?」
「はぁ…至って普通を気取ってましたから…。」
「まぁ、本人ってのはそんなもんなんだろうな。」
「うぇ〜…カッコ悪ぃ〜…」
顔を正位置に戻した土方さんにあたしは肩を竦めた。
「……でも、それがどうしたんスか?」
まさかそんな嫌味を言いに来た訳ではあるまい。
沖田さんじゃあるまいし。
そう言って首を傾げると、土方さんは再び目線を反らした。
「それが、その…何だ。心配ってか気になってな……」
「……は?」
予想外の発言にあたしは目を屡叩く。
「心配って…………誰が?」
「っ…!!お前だお前っ!!!何時ぞやみてぇに勝手な行動起こしてねぇか見に来たんだよっ!!!」
問えば、土方さんは何かが切れたみたいな顔を一瞬して、投げ槍な感じに指を突き立てあたしを指した。
「なっ!?何スかそれーっ!!!?あたし何もしてないじゃないッスかッ!!」
「してねーなら言わねぇよっ!!いきなり退職願出したり報道で変な発言したり果ては突然宇宙行こうとしてただろーがっ!!!あぁっ!?」
「それ個人の自由だしっ!!別に勝手な行動とかじゃねぇしっ!!!」
「いいや!!上司の返答も仰がねぇで辞任は出来ねぇのにあんな行動取りやがった鷹居の勝手な判断だ!!」
「何それ理不尽ーっ!!!」
そんな土方さんに負けじとあたしも噛み付くが、上手にあしらわれて、あたしは負け犬の如く叫ぶ。
畜生!!何時の間にこんなに口達者なりやがったんだ土方さんっ!!
そんな理由に、唇を尖らせて俯きながら不貞腐れてると、吐息に近い溜め息が聞こえ、頭に軽く重力が掛かる。
「あえ?」
ちょっと顔を上げれば、妙に穏やかな顔をした土方さんがあたしの頭に手を乗せていた。
うん。土方さん、穏やかな顔気持ち悪いよ。(酷)
「……土方さん…?」
「あ?」
「…どしたんですか……?」
失礼な事考えてた手前、おずおずとと訪ねれば土方さんは緩やかに口角を上げた。
「まぁ……さっき言ったみてぇにちっと心配したが、口答え出来るほど元気なら問題ねぇな、って思ってな。」
「……は、はぁ…。」
「何してっかは知らねぇが、取り敢えず頑張れよ鷹居。」
そう言うと、土方さんはくしゃくしゃとあたしの頭を軽く撫でた。
取り敢えずって何だよ、って言う突っ込みとか、若干紅潮してる様に見える土方さんの顔とか、からかい所は沢山あったのに、何故かそんな気にはなれなくて……、
「あ、は、はい…。有り難う御座います……。」
悪戯心休憩中?
代わりに出たのは感謝でした。
「そんだけだ。じゃあな。」
「あ、土方さんっ!」
「あ?」
「上がってきませんか?マヨネーズ位出しますよ。」
fin.
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前身サイト19797打キリ番
依頼 苺様
課題 土方 ギャグ甘
2009429
死ねば死に損生くれば生き得
御堂 篝 拝*