後日談
自室療養をしながら土方さんの書類仕事を手伝って半年、漸く完治と言うことで、普通の生活に戻れた訳だが、如何せん使わないと体力も筋力も無くなる訳で、最近は身体作りに励む日々を送っている。
自慢の腹筋が平らになって二の腕も太腿もあっちこっちむにむにしているなんて耐えられない。
そんな訳で当然出入りには連れてって貰えず、書類仕事と市中見回りくらいしか仕事らしい仕事は出来てない。
これじゃあ丸で入隊当時に戻ったみたいじゃんか!折角日本刀で孤軍奮闘して制圧できるくらいまで成長してたのにこれじゃあ振り出しに戻ってるじゃんか!!
あ、でも怪我の処置とか事務仕事は凄く上達した。独りである程度出来るようになった。
「……あー、早く出入りに参加したい…」
昼休み。
体力を付けるには全身運動、と言う事で、日課になった山崎さんとのミントンラリーをしながら呟く。
「基礎体力がないと始まらないからねー、フン!!」
「えー…。よっ、と。でも大分付いてきましたよー。」
「筋力もいるから、フン!!」
「付いてきましたよー……オラァ!!!」
「ぎゃあああああああ!!!?」
力一杯ラケットを振り切り、スマッシュを打つとシャトルが山崎さんの顔面にめり込んだ。
「ほらぁー。」
「ほらぁ、じゃないよね!!?俺の顔見えてる?!めり込んでるよ!!?シャトルが顔にめり込んでるよ!!?俺の顔見えてる?!!」
「高がシャトルがめり込んだくらいで何スかー。」
「何でそんなに冷静なの!?シャトルは本来めり込む物じゃないからね?!!顔面にクレーターを作る道具じゃないからね?!!」
「しゃーねぇーッスねー。」
騒ぐ山崎さんに近付いてその後ろ頭に向かってラケットをスイングする。
「痛っ!!」
「ほら取れた。」
落ちたシャトルを拾いラケットで弄ぶ。
「もう一本おなしゃーす。」
「えぇ〜…ちょっと休まない?」
ぐったりと肩を落とす山崎さんがあんパンを出して提案してきた。何処に持ってたんだよそのあんパン。てか何で休憩にあんパンだよ。昼飯食べたのにもうあんパン食うのかよ。重いよ。
縁側に腰を掛けた山崎さんは返答を待たずに休憩を始めた。山崎さんの癖に。まあ、でも休憩してもいいや。あたしもシャトルを弾きながらだが、その隣へ腰を下ろす。
テニスボールと違ってシャトルはよく跳ねるから微妙に難しい。
「元気だね、鷹居さん。先週まで療養だったのに。大丈夫なの?」
「平気すぎて出入りで暴れたいくらいッス。」
「それは流石にまだまずいんじゃない?」
「えー、もう竹刀も真剣も振れるんですよー?」
「それでもまだ復活して1週間だからね。足は大事だから。」
「ちぇー。」
先週までギプスが巻かれていた足を縁側でゆらゆら揺らす。
眠気を誘う日差しにふあっと欠伸をひとつ噛み殺した。長閑だなぁ…半年前、昼時と言えば障子紙の張り替えだったよ。
「……む、」
あんパンをもさもさ食べていた山崎さんが腕時計を見て声を出した。
「んー?何スか山崎さーん。」
「午後から張り込みだから準備があるんだ。」
「今からもうあんパン生活ですか?」
「慣れとかないとつらいから。」
俺が口に入れられるのはこれだけって身体に教え込むんだ、とあんパンを頬張る山崎さん。
どんな設定だよ、あんパンしか食えない身体って。あんパン以外を食って何か嫌な事でもあったのか。
「ところで鷹居さん午後は?」
「土方さんと書類整理ッスよー。」
自分にあんパンの呪いを掛けながらあんパンを平らげた山崎さんに聞かれて答えると、驚いたような不思議そうな微妙な表情をされた。
何だそれ。あんまりいい気分じゃないぞ。
そして山崎さんは微妙な顔しながらちょっと迷いを覗かせてこう言った。
「…………あのさ、半年くらい前から思ってたんだけど、」
「何スか?」
「鷹居さん、そんなに書類仕事好きだったっけ?」
「……は?」
唐突な質問に目を瞬く。
何?あたしが書類仕事が好き?
確かに最近書類仕事ばっかりだけど好きとか嫌いとかそう言うんじゃなく、仕事だからやって……いや、でも最近面倒って思うのは少ないな…。
はて、何故だろう、と自分でも疑問に思いはじめて首を傾げたら、山崎さんが、いや、と話を広げる。
「なんかさ、あ、気を悪くしたら申し訳ないんだけど、鷹居さんってもっと粗暴な、荒っぽい仕事が好きなイメージだったんだよね。」
「……まあ確かに」
「でしょ?それが半年くらい前から何か書類仕事楽しそうってか嬉しそう?」
そんな風に見えるのか。山崎さんが言うんだからそうなんだろうと思ったが、何か違う気がするんだよな……こう、何て言うか、
「楽しいってか嬉しいってか好きってか……落ち着く?」
「うわ、意外!」
「何をォ!!」
「だってそう言うキャラじゃないじゃん鷹居さん。」
「む、否定は出来ない。」
「そうだよねー。何で?」
「……何でと聞かれても、」
あたしが聞きたい。何で?
確かに暴れるような作業も好きだけど、書類仕事も苦痛じゃない。何て言えばいいのか、あの例えようのない、
「空気感?」
「空気感って、鷹居さん書類仕事って副長室だよね?」
「はい。」
「あの部屋の空気感が落ち着くの?」
「はい。」
「…えぇ〜………」
下手物でも見る様な目で山崎さんは身体を引いた。ドン引きか、ドン引きなのか。畜生、失礼だな!!
腹が立ったので顔面に右ストレートを抉り込む。
「痛ァ!!?何いきなり?!!」
「失礼ッスね、山崎さん。殴りますよ。」
「もう殴ったよ!!?事後報告だよ!!?」
左頬を押さえながら理不尽だ!と叫ぶ山崎さんにムッと眉に皺を寄せて対抗を試みる。
「理不尽なんかじゃない、山崎さんがドン引きしたのが悪い。」
「するよ普通!!副長室だよ!?説教されるだけの部屋だよ!?」
「何その認識酷ェ!!そんな事無いですぅー!居心地良いですぅー!!」
「頭大丈夫!?副長が常に隣に居て居心地良いとか麻痺してない!!?」
「失礼な!!全然平気だし!!寧ろ土方さんの隣が安心するわ!!」
「………………え?」
「あ゙ぁ!?」
「………え、それマジな話?」
ヒートアップしていた抗争の中突然山崎さんの声が拍子抜けて我に返った。あれ?めっちゃ驚いてアホ面なんだけど山崎さんどうしたん?何か変な事言ったっけ?
「………え?」
「いや、それマジな話なの?」
「……………何が?」
「副長の隣の件。」
「え?ああ、まあ、土方さんの隣好きですから。」
「………そっか、そっちか。」
盲点だった……とかしかもこれ無自覚のやつだ、とか何とかブツブツ言って山崎さんは頭を抱えだした。何だ。何なんだ。
「仕方無い、此処は敏腕監察として色々見聞きしてきた俺が鷹居さんにアドバイスしてあげよう。」
「敏腕(笑)ねぇ。」
「(笑)付けないで!!傷つくんだけど!!」
「地味なのに?」
「酷い!!兎に角、ちょっと聞いて良い?」
「何スか。」
「偶に鷹居さん独りで書類捌いてるけど、それも好き?」
「嫌いじゃないけど退屈です。つまんない。」
「今一番心配な事は?」
「土方さんの胃。」
「……え、何それ。」
「ほら、上にも下にも問題児抱えて後始末とか。それであんなモン食べてるし身体壊しそうじゃないっすか。」
「…確かにね。じゃあ最後。最近気持ちに余裕ある?」
「なくはないけど何か一喜一憂で忙しいです。………何なんスか一体。」
脈絡のない質問に顔を顰めると山崎さんはふっふっふ、とか態とらしく笑って人差し指をおでこに当てている。なにあれ殴りたい。無意識に力が入った拳を振り上げた時、山崎さんに言われた言葉に耳を疑った。
「鷹居さん、それ恋って言うんだよ。」
「……は?」
「鷹居さん、副長好きなんじゃない?あ、卵焼きが好きとかって好きじゃない方ね。」
「……え?」
「やっぱり鷹居さんも女の子だったんだねぇ。」
うんうん、と腕を組んで頷く山崎さんの頭に取り敢えず振り上げた拳を叩きつける。痛い!と騒ぐそんな声なんて耳に入らない。
こい?
こいってなに?
あの恋?
…………………。
あの恋!!?
あたしが?!土方さんに!!?
まさかそんな馬鹿を言っちゃいけない!!!
あたしにそんなつもりは全然ない!!馬鹿な!!そんな筈はない!!
考えれば考えるだけ頭の中は混乱して、ああもう何だ、何か顔が熱い。取り敢えずこんな状態じゃ駄目だ、否定しよう。
「ち、違います!」
「違わなくないよ。顔真っ赤だよ鷹居さん。」
「赤くないし!!仮に赤かったとしても風邪引いてるから熱あるだけだし!!」
「嘘だよね。さっきあんなに元気に俺の顔にシャトル打ち込んできて風邪引いてるとか嘘だよね。」
「う…っ!!」
くそ、山崎さんの癖に生意気な…!!先輩だけど生意気な…!!
言葉に詰まって奥歯を噛む。もうこうなったら、今の記憶が飛ぶまで山崎さんに拳を200コンボくらい叩き込んで逃げるしかない…!!
「おいコラ、テメェらに遊んでる暇はねぇぞ。」
「!!?」
「あ、副長、御疲れ様です。」
許せ山崎さん、と連続コンボを決める為立ち上がったと同時に不機嫌な声が聞こえて金縛りにあったみたいに動けなくなった。山崎さんが縁側から腰を上げて声の主に敬礼しているのが視界に入る。
ああ、畜生、もう絶対土方さんじゃん。てか土方さんだよ。
「御疲れ様じゃねーよ。山崎テメェ、一昨日の報告書、ありゃ何だ。ナメてんのか?何回作文書いたら気ィ済むんだ?あ?ナメてんのか?書き直せ。」
「え!?で、ですが副長、午後から張り込みが…」
「昼休みあと15分ある。」
「えぇ〜……」
報告書を押し返されて消沈する山崎さん。ざまぁみろ!!全然関係ないけどざまぁみろ!!
しかも用事があるのは山崎さんだけみたいだ!そのまま通り過ぎてください!!!
「鷹居、」
「ぎゃ!?」
細やかな願望はいとも簡単に打ち砕かれ、返事の代わりに短い悲鳴が零れる。こんな顔、合わせらんない訳で振り向かないでやり過ごしたい。
「午後の資料に賠償金支払いの履歴を………おい、聞いてんのか?」
出来なかった。
こんな細やかな願いも叶えてくれないなんて神様はやはり残酷でしかない。ぐっ、と掴まれた肩に身体が固まるのは全部山崎さんのせいだ、畜生、ニヤニヤすんな山崎さん!!
とは言え振り向く訳にはいかないので、あたしは意を決した。
「っ!すんません!!」
「!?」
その場でバック転して土方さんの背後に回り、着地するや否や廊下を全力で走る。
「テメ…ッ!!どう言う了見だ鷹居ーーーーッ!!!」
「すんませェェェェェェェん!!!!5分経ったら伺いまァァァァァァァァァァァァす!!!!」
突然過ぎたのか土方さんは追ってこなかったが、飛んできた怒声に言い訳を返すのが精一杯だった。
後日談
「なんだありゃあ。」
「鷹居さんにも可愛い所ありますねー。」
「あ?」
「俺、応援するなぁ。」
「何言ってんだ山崎。ンな事よりさっさと報告書直してこい。」
fin