chap.6

「うげぇあああぁぁぁぁっ。やっと終わったぁぁぁ。」

「休んでる暇はねぇぞ。市中見廻りの時間だ。」

「えぇー。もうっスかぁ〜?!」

銜え煙草を揉み消し、また新しいのを出しながら立ち上がる土方さんを見上げてあたしはぶー垂れた。


chap.6
何年前の話してんだよ


「つべこべ言ってねぇでさっさと行くぞ。」

「うぇーい。」

すたすた先に行ってしまった土方さんに、やる気のない事この上ない返事をし、脱ぎ捨ててあった上着に腕を通しあたしは立ち上がった。

全く、漸く山の様な書類整理を片付けたってのに休んでる暇がないよ。

そうそう、上着ってのは例の新しい制服の事。
デザインは普通の平隊士と同じで上着の裾がそれより長い。その上から腰にベルトを絞めて完成、という訳だ。
足回りがちょっと動きにくいのが難点だが、あの何処ぞの悪玉3人組の美女首領みたいな服に比べれば全然許容範囲だよな。

そうやって自分を納得させながら、がちゃがちゃベルトを絞め、先に行ってしまった土方さんを駆け足で追っかける。
どうせ玄関で煙草吹かして待ってんだ。1人で行くのは規則違反だし。
懐の得物を確認して、駆け足を早めて玄関に向かう。

扉を開ければ、案の定、門に寄り掛かって土方さんが紫煙を燻らしていた。

「すんませーん。」

「遅いぞ。やる気あんのか?」

「3分の1くらい。」

「そーか。覚悟は出来てんだろうな?」

「ちょちょちょちょちょ…!!嘘嘘!冗談ですって!抜刀だめ!ゼッタイ!」

「何処のキャッチコピーだ。」

柄に手を置いた土方さんに慌てて両手を振って否定すると、呆れた様にそう言われた。

何だよ、ちょっと見ない間に随分クールを気取る様になったじゃん。

ちょっと面白く無いがそれは兎も角、踵を返した土方さんの後を再び追った。

「今日もかぶき町っすか?」

「いや、今日はそっちには行かねぇ。」

「えー。」

「えー、って何だ。それから、鷹居にかぶき町の見廻りは当分回ってこねぇぞ。」

「え?何で?何かありましたっけ?」

「あのなぁ…。」

唇を尖らせ聞き返せば、土方さんは頭を抱える。
何度となくこの仕種は見てきたが、これ程がっかり頭を抱える事が似合う人物がいただろうか。いや、いまい。
流石は上にも下にも問題児を抱えるフォローの達人だ。

……と、まぁ、おふざけはこの辺にして、と。
土方さんの返答を待っていると、疲れたげな視線を向けられた。

「御前、向こうで一悶着起こしただろ?」

「……あー、」

「そういう事だ。」

「あーい。」

どういう事だと聞き返したいが、ここは空気を読んで素直に返事をした。

そのままかぶき町とは逆方向に足を進めた土方さん。あたしはその後を追いながら、町並みを見渡した。
そういやこの辺ってあんまり通った事ないなぁ…。
おっと通行人の女性が歓喜の声を上げてるぞ。土方さんがこっちに来るのは珍しいのか?

どん、

「うぼぁっ!?」

他所見してたせいか、何かにぶつかった。
見ればそれは急に立ち止まった土方さんの背中。半分だけ振り向いた土方さんが眉間に皺を寄せている。

「……何やってんだお前、」

ああ、何コレ、デジャブ?!!前にもあったよこんな事!!

「す、すんません…!道行く人がこっち見てたの気になって…!」

「ああ。お前有名人だからな。」

「そっスかねぇ…。」

いやいや、見られてたのは土方さんでしたけどね。てかあたし有名人なのか。
思う所は色々あったけど、あんまり立ち話してる訳にもいかないんで、本題に戻るとしよう。

「で、土方さん。何でいきなり立ち止まったんですか?」

「此処に用があるんだ。」

「?」

土方さんの視線を追って見上げると、店舗の看板。

「……饂飩屋?」

「最近、この店に桂らしき人物がいるっつー通報があってな。」

「桂小太郎ですか。」

「ああ。気ィ抜くなよ。」

「はい。」

ただでさえ厳しい表情を更にきつくした土方さんにあたしは頷いた。今更だけど、何故“鬼の副長”って呼ばれるかこの姿を見ると納得いく。
それは兎も角、1個気になる事があった。

「土方さん、隊服のままで大丈夫なんスか?」

「野郎は恐らく変装してる。こっちが動かねぇ限り逃げたりはしねぇ。」

成る程。桂は変装の達人って言われてるしね。じゃなきゃとっくに検挙してるって話だ。

引き戸を開け、店内に入る土方さんの後に続くと威勢の良い店員の声に出迎えられる。

「「「らっしゃいやせーっ!!」」」

[いらっしゃいませ!]

!!?

続いてやって来た案内担当にあたしは目を見開いた。

[2名様ですか?]

「ああ。」

「えっ、ちょ…!」

店内を見渡しつつ、案内担当に答える土方さんに狼狽えざるをえない。
だって、白いペンギンの御化けみたいなのがプラカード持ってるのなんて怪し過ぎるじゃん!!!

何でノータッチ!!?

[2名様御案内ー]

何の疑いもなくその後について席についた土方さん。

ちょっと待てよ。
鬼の副長なんだろ。何で如何にも怪しい奴をスルーだよ。
何なんだよさっきの感心返せよ。

流れ的に一緒に行ってあたしも席につく。

「あ、あの、土方さん…?」

「あ?」

「今のは良いんですか?」

「は?」

「いや、今のよく分かんないのですよ。」

「バイトの天人だろ。」

「……えー……」

明らかに足がオッサンなのに。
明らかに白い布かぶってるだけなのに。
あんな中途半端なの天人とか言ったら国際問題になんねーか?

物凄く不満と言うか不服と言うか不安と言うか、何か土方さんの今後の副長業務が心配だ。

「あんまりキョロキョロすんな鷹居。怪しまれるだろ。」

「は、はぁ…。」

注意したいのはこっちだよ。とか思ったが、ここは飲み込んで。
騒ぎを起こして桂を逃がしたら元も子もない。

「御注文御決まりですかー?」

「狐饂飩土方スペシャル2つ。」

「え!!?ちょ!!やだ、そんなスペシャル!!あたし普通のが良いで、……す……?」

注文を取りに来た店員に何の疑いもなく言った土方さんを全否定して店員に目を遣ると大変なものがいた。
うざったい長髪で何かのコスプレみたいな格好してる眼帯男が饂飩屋の前掛けをして注文票を持っている。

飲食店で長髪纏めないとかなくね?

この格好は色んな意味で痛くね?

眼帯の柄にさっきの白いのって可笑しくね?


つーか、桂じゃね?


何故気付かない土方さんんんんんんんんんっ!!!
指名手配犯が目の前にいるよォォォォ!!
変装しきれてないよォォォォ!!

心中で訴えるも伝わる筈も無く、店員は明らかに勝利の笑みを浮かべていた。

駄目だこの人!
あたしがしっかりしなきゃいかん!

「畏まりました。狐饂飩2つ入りましたー!!」

声を張り席を後にする店員ことテロリストは去り際に銀色の球体をテーブルに投げて行った。

「ん?」

「!!」

明らかに爆弾。
デシタルのカウントは後3秒ある。反射的にそれに手を伸ばしそのまま近くの窓から外へ出る。

「鷹居っ!?」

「土方さん!奴を!!」

店内がざわめく中、精一杯腕を振って爆弾を空に投げた。


ドォォオン!!!


爆発音が彼方で響いたのを確認し、店内に戻ろうとすれば、

んまい棒!手離矢鬼婆亜餓亜!!!(てりやきばあがあ)」

ぼんっ!と煙が弾ける。

……阿呆みたいな名前は兎に角、恐らく煙玉だろう。

「追えっ!!鷹居!!」

「はいはい、っと!」

よっしゃあ!漸く暴れられそうな仕事になってきた…ッ!!
返事をしてから屋根に上り、見下ろせば、眼下に煙に紛れ桂と白いペンギン擬きが二人乗り自転車で逃走するを見付けた。

「舐めんなよ桂ァ!!」

瓦を蹴ってそのまま屋根伝いに桂を追う。
悪いがその辺の御庭番には負けない様に此方人等兄者に鍛えられたってんだ!

ぎこちなく二人乗り自転車を漕ぐ二人(?)組等敵ではなかった。
土方さんにメールしながらでも敵ではなかった。

……てか、何で二人乗り自転車だ。

それは兎に角、奴らを追い抜いた所で、屋根から飛び降り後輪目掛けて得物を構える。


パン!!

[!!?]

「どうしたエリザベス?!」

[桂さん!後輪が!!]

「何っ!?」

ゴムを裂いてパンクさせてから奴らの前方へ身を翻し行く手を阻む。

「御用改めである、真選組だ!観念しろ桂ッ!!」

「!!」

後ろに顔を向けた桂は振り返ると目を見開いた。


「…紅羽殿か!!」

「……あ?」

「紅羽殿だろう!?久し振りだな!!」

「………はい?」

「全く何のドッキリだ。こんな事では俺は騙されんぞ!」

はっはっは、と笑う桂にあたしは首を傾げる。

誰かは知ってるけど、顔見知りだった覚えはないぞ!?てか何で逃げないんだよ。真選組だってんだろ。逮捕するぞ。

[桂さん、御知り合いですか?]

「ああ、エリザベスは知らなかったな。」

白いペンギンの御化けがプラカードを立てると、桂は機嫌良さそうに続ける。

「紅羽殿は俺の戦友の妹だ。紅羽殿、黒刃は元気にしているか?」

元気にしてるってか幕府の警察庁でアンタ捕まえようとしてるトップの秘書してますけど。

何だこいつ。疎過ぎだろ。何年前の話してんだよ。

しかもすっげぇ馴れ馴れしいんだけど!肩組んでくんな!

「てか、あたし真選組だから。」

「募る話もあるだろう。茶でもどうだ、御代は俺が持つ!」

「聞いてねぇ!!つーか御用改めなんだよ!神妙に御縄に付きやがれぇぇぇぇぇっ!!!」



ガシャン!

「ん?」

「あ。」

「桂小太郎、数々のテロ主犯容疑で逮捕する。」

施錠の音に目を遣れば、桂の両手首に手錠を掛けた土方さん。
あたしに気を取られていたせいか、背後から来たのに気付かなかったんだろう。白い(以下略)も縄で縛られていた。

「しまった!逃げろ!紅羽殿!!」

「いや、だからあたし真選組。」

こうなっても勘違いし続ける桂とはもう脱帽ものだ。
脱帽ものの阿呆だ。

程なくしてサイレンの音が聞こえて、現れたパトカーに桂を放り込むと、土方さんはあたしに向き直る。

「御苦労だったな、鷹居。」

「いえ。あたしは特に何も、」

「いや、お前と桂が知り合いだったお陰だ。」

「……え?」

響いた言葉に顔を上げると、あの厳しい表情がそこにあった。

「どういう事だか、署で聞かせてもらう。」

「え、あ、違…っ。」

言い切る前に踵を返した土方さんを追おうとしたが、後ろから手を捕まれて身動きを封じられる。

「土方さんっ!!ちょっと!待って下さいよ!土方さんっ!!」

しかし、一度も振り返ってもらえずにあたしはパトカーに放られた。


To be continued……

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