chap.5

「黒刃…?何やってんだお前…?」

「私は、女子用の制服が出来上がったので御届けに上がったのですが……紅羽、何故に土方さんのコスプレを…?」

「あ、いや、別に、その……。」

「ふふ…。可笑しいですねぇ…。私、貴女に淑やかに過ごせと言った様な気がしたのですが、気の性でしたか?晒しや男装等以っての外、と言った様な気がしたのですが、気の性でしたか?」

「あわばばばばばばばば……っ!!」

満面の笑みを湛え、顔の影を驚く程濃くした兄者に血の気が引いた。

「仕方ありませんね。取り敢えず殴らせなさい。物凄く痛くしますから。

い゙や゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぃ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぃ゙ぁ゙ぅ゙ぁ゙あ゙!!!


どかぁぁぁぁぁあんんんんっ!!


chap.5
……ふふ、冗談ですよ


「この娘はもう…!本当に……御迷惑御掛けしました。」

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!!兄者、さっき殴りつけたとこピンポイントで押さえ付けんの止めて下さい…!」

屯所の応接室。
現在、何時もの御三方+御茶汲み山崎さんと対峙して、兄者に頭を下げさせられています。

今日は。毎度御馴染み鷹居紅羽です。

土方さんから必死で逃げ回っていた所、うっかり兄者に遭遇し、屯所中に響き渡る程の轟音を立て、首が千切れるかと思う位強くぶっ叩かれた訳だが、切腹、殺害は免れて冒頭の土下座になる。

全く、兄者ときたら手加減を知らないというかしないで叩くもんだから、困る。
一昔前の下手なアニメや漫画でなら、自分の頭よりデカイたん瘤が出来てたぞ。

「いやいや、良いんだよ黒刃殿!紅羽ちゃんも反省してるみたいだし、トシだってもう怒ってないし、な?」

「そりゃあんだけ強くぶっ叩かれてんの見りゃあなぁ……。」

困った様に笑う近藤さんが話を振れば、何とも微妙な表情で土方さんは答えた。

そりゃ無理も無いだろうよ。
あって中指の先から手首まで25cm前後、幅12cm前後の掌が爆破音の如し大地を揺るがす様な音を発して人を叩き付ければ、怒る気も失せるに決まってるって。

人体同士の接触でそんな音が出る自体可笑しいよ。
つーかそれで死ななかったあたしが凄いよ。

「で、黒刃さん。紅羽の制服が出来たそうですねィ?」

モヤモヤしながらそんなん考えてれば、不意に沖田さんが口を開いた。

「そうそう!それですよ!」

両手を合わせて兄者はそう言うと、持ってきたスーツケースを引き寄せる。
制服が1着入ってるにしては比率が変だ。

…………待てよ、嫌な予感がする…。

そんなあたしの事なんか露知らず、態々御丁寧に鍵まで掛かったスーツケースを解錠しながら、兄者は続ける。

「幾つか候補がありましてね、作ってみたんですが何れにすべきかは皆さんで決めて頂こうと思うんですよ。」

慣れた手付きでスーツケースを扱う辺り、何か凄く兄者っぽい。
そのスーツケースには何時も何を入れてんだ…。

と、そんな事は置いといて、今ので一気に嫌な予感倍増なんですけど。

「紅羽、勿論貴女が着る物ですから、貴女にも選択権はありますからね。安心なさい。」

「普通はそんなん言わなくてもあたしに選択権あんのは当然だよな。」

「五月蝿いですねぇ。人の厚意を…。右肩から左の腰に向けて真っ二つに引き裂きますよ。」

「すいません。勘弁して下さい。」

ちょっとした反抗心からちょっかいを出せば、兄者が指を組んで鳴らしながら、物凄い良い笑顔を向けてきたんで空かさず土下座した。

だってこの人だったら本当にやりかねないじゃないか。

「では、1着目、」

そんな会話の後だというのに、兄者は複雑な表情の土方さん達等気にも留めず微笑み、何時だったか何処かで見た事あるテロテロの生地で、畳んだにしても小さ過ぎる表面積の布切れに近いナニカを取り出した。

「動き安さと通気性抜群ですが、生地はレザーなので保温効果も期待出来るので、イチ押しですよ。」

「………」

「へェ……中々過激ですねィ。」

興味深げに布切れをべろっと広げて口を開いたのは沖田さん。

「良いんじゃねぇですかィ、これで。」

「ちょっと待て。ちょっとそれ置け。」

広がった布切れに絶句状態の近藤さんと土方さんは置いといて、あたしは至って冷静を装い沖田さんに声を掛ける。

「これで良いの判断基準は何処にあるか教えて下さいよ。」

「生地と布面積。」

「よぉーし分かった。表出ろォォォォォォォォォォォっ!!!そのS字にひん曲がった根性Iの字に叩き直してやらぁぁぁぁぁっ!!!」

サラリと答える沖田さんにあたしは腰の刀をに手を沿え、テーブルに足を付いた。

「上等でィ!!俺に勝てたら300円やらァ!!但し俺が勝ったらこれ着て市中見回りしてもらいますぜ!!」

リスク高っ!!!!

続いて抜刀した沖田さんにあたしは戦意喪失して突っ込む。
どんだけ危険な橋だよ!!!勝っても300円しか貰えないのにそんな橋誰も渡んねぇよ!!!

「落ち着きなさい紅羽!300円欲しいから頑張って!!!」

どんだけ金好きなんだよあんたっ!!!!

「例えば、大気圏に1円あったら、生身で拾いに行く位好きです。」

「駄目だ!!もうこの人駄目だ!!」

至って真面目に、真顔で答える兄者にあたしは頭を抱えるしかなかった。

大気圏に生身で1円拾いに行く位ってほぼ死を覚悟してんじゃねぇか。
命より1円を取るのかこの人は。

「もう嫌だ。もうこんな生活嫌だ。」

「早く嫁に行けば良いんですよ。」

満面の笑みを湛え、あたしの肩にそっと手を置く兄者に殺意が沸いたのは言うまでもない。

「盛り上がってっとこ悪ィんだが、」

絶望の淵とはまさにこの事かと頭を抱えていると、土方さんが口を開いた。

「何でしょうか?」

「まさかとは思うが本気でコレを推奨してんじゃねぇよな?」

「……はい?」

訝しげな発言に兄者は首を傾げると、土方さんは銜え煙草を吹かす。

「仮にもコイツは女だ。こんな恰好で市中は疎か屯所内歩き回られたら風紀に悪い。」

まるで続く言葉は当然周知だとでも言う様に土方さんはそこまで言うと、息と共に紫煙を吐いた。

おおお……!何だコレ。
土方さんはあたしの味方か…!?
いや、実際、大事な真選組の事しか考えてないのだろうが、結局例の衣装反対派って事だから同じ様なもんだよ。うん。

利害の一致って奴だ。
利害の一致って。

兄者とて、土方さんに責められたら、ぐうの音も出まい!
そう思って、隣に座する諸悪の根源に目を遣れば何たる事か。


慌てる所か、僅かに口角が上がっているではないか。

しかもアレだ。
長年、兄妹してるあたしですら分かるか分からないか位の微妙な上がり方だ。

一体何だ…!?
今度は何を考えついたんだ……!!?

嫌な予感にあたしの額から冷や汗が滲み出すと同時に、兄者は何時もの表向き様ふんわりスマイルを顔に浮かべた。

「……ふふ、冗談ですよ。」

そう言うと、兄者は机に広がった例のソレを速やかに引き寄せて畳む。
動作の流れが自然過ぎるのがこれから起こる何かを暗示している様で恐ろしい。

「これは松平様の我が儘で製作したものですから。誰が可愛い妹にこんな奇抜な衣装を着せるものですか。」

人のせいにしてるよ、人のせいにしちゃってるよ。
しかもまさかの妹思い発言だよ。やめてくれよ、身の毛が弥立つ。

嫌な予感がどんどん高まる中、畳んだ衣装をスーツケースに仕舞う兄者の口から漏れた小さな言葉が耳に入った。


…………ふふふふふふ……大事にされてるみたいですね…!結構結構。

いかん。この人変な解釈した…!

誰か!誰か翻訳機をこの人に与えて下さい!ポジティブも嫌な方向にポジティブなんですけど!質の悪いポジティブなんですけど!


「実際の候補はこちらとこちらですよ。」


素知らぬ顔してまともな衣装を取り出して、話を続ける兄者の今後の目論みを考えていれば、何時の間にか制服が決まっていたと言う御約束の展開が待っているなど、想像に易いだろう。



To be continued……

[*] | [#]
戻る

ballad


+以下広告+