高級ホテルの最上階。VIPしか泊まることを許されない極上のスイートルーム。
調度品一つ取っても有名な画家やデザイナーのもので揃えられ、テーブル、ベッド、洗面台、トイレ、シャワールームなど部屋中のありとあらゆるものは洗練され、磨かれ、非の打ち所がない。
2人しか泊まらないのに、ベッドルームが4つくらいあって、その広さはかえって居心地を悪くする。
ガラス越しに窓の外を眺めれば、夜の暗闇の中で、あらゆる光がきらめいていた。オレンジ色の街灯を沿うように流れる車のテールランプ、オフィスビルの窓から不規則に漏れる残業の証である白い光、高層ビルの屋上にある赤い点滅灯、観覧車を彩る七色のネオン、タワーマンションに人が居住していることを知らせる明かり。
その全てが私よりも下にある。
なぜ私がここに居るのか、未だに状況理解が進まない。私は小さな旅館を経営する両親の一人娘で、いきなり結婚する理由なんて皆目見当もつかない。しかも相手は、国内で知らない人はいない、あの「碧棺グループ」の御曹司・碧棺左馬刻だ。
でも、なぜかあれよあれよと私の意思とは関係なしにことが進んで、結婚することになった。というか、既に「結婚した」。
私は夢を見ているんじゃないか、と窓ガラスに触れてみると、手のひらがひんやりとした。
「おい」
後ろから声を掛けられて、私はガラスに映る人物の姿を確認する。彼は御曹司なのにあまりにラフな格好だった。アロハシャツに細身の黒いパンツ。それでいて長身で、眼光は鋭く、威圧感がある。
振り返ると、いきなり腕を掴まれて、私の体は力強くガラスに押しつけられた。言葉を紡ぐ前に、唇を奪われた。そのまま胸にごつごつとした手が触れ、ボタンを一つずつ外される。
「っ、んんっ……!」
胸板を両手で押して強引な行為に抵抗しようとしても無駄だった。圧倒的な力の前に、私はなすすべもなく、彼に翻弄された。
初めてのキスに、体が強ばる。緊張して震える舌を彼に吸い上げられ、絡め取られる。どうすれば良いのか分からなくて何も出来ないでいると、私の舌の下に彼の舌が滑り込んできて、急かすように押し上げられた。ぎこちなく絡ませると、顎を掴まれて口付けの角度が深まる。息継ぎを忘れてどんどん酸素濃度が薄くなって、ぼんやり意識が遠のく。
そこでやっと彼の唇が離れて、私は呼吸をした。いつの間にか全てのボタンを外され、ブラジャーが露わになっていた。恥ずかしくて顔が熱くなり、私は思わず彼から顔を逸らす。
「……俺様が目の前にいるのに顔そらすんじゃねえよ」
低く囁かれ、背筋がぞくりと震える。恐る恐る前を向くと、赤い瞳がもう逃がさない、と言わんばかり私の瞳を見据えていた。
これからすることは決まっている。私は彼と「初夜」を過ごし、跡継ぎを残すための「子作り」を求められている。
どう抱かれるのか不安だった。今まで誰も受け入れたことのないそこに、荒々しく彼が押し入ってくるのかと思うと怖かった。
でも――……。
私の不安は、杞憂に終わった。
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