カケラの海へようこそ。

あたたかい。





朝起きて1番最初に目に入るのは、愛しい彼の寝顔。
いつも海賊の事で頭を悩ませている彼は、寝ている時も眉間に皺を寄せていた。



「あぁ、幸せだなぁ」


彼を起こさぬようにそう独り言をぽつり、と呟いて寝顔を見つめる。
今日は唯一のお休みを貰った日だから、ゆっくりと寝ていた。



まだ冬を朝晩に感じるから、こうして彼の近くへ寄るとあたたかいのはとても嬉しい。

「あったかい…はじめて出会った時を思い出すなぁ」
















それは、土砂降りの雨の日。
私は海賊に絡まれ、犯される寸前だった。

「やめてよ!!嫌ぁーーーーッ!!!」

土砂降りのせいで、声は誰にも届かない。
そう思っていた。




誰も、助けてくれない。



その時だった
男達の悲鳴が短く聞こえたかと思うと、嫌なにおいが鼻をかすめた。

皮膚の焼けるにおい。

その吐き気を催すにおいに、ぎゅっと瞑っていた目を開くと目の前には白と赤しか目に入らなかった。




「ひ、っ。殺さないでくだ、さぃ」



間抜けにも喉がひゅぅ、と鳴る。
この人見たことがあるけど、誰?
海軍?
海賊?
殺されるの?



頭の中をグルグルと色々な思いが駆け巡る。
それを考えている間は僅か数秒だったのだろう。

男はこちらへ大股で歩いてきた。





「大丈夫か」

ぶっきらぼうに聞くその男は、白いスーツを身にまとい葉巻を咥えながらわたしに問いかける。
「は、い」


それだけしか言えず、私は固まってしまう。



「家は」
「え…?」

「家は何処じゃァと聞いちょる」


思い出した。海軍元帥のサカズキさんだ。
新たに元帥に就任したことを新聞でみた。

マリージョアへ居ながら、この人とは関わりがなく市民としては近寄りがたさも感じていた。
センゴクさんが親しみやすさもあったからだろう。余計にそう感じていた。


「大丈夫です、元帥の手を煩わせる訳にはいきません。助けて頂いてありがとうございました」


そう言うと足早に去ろうとした。


「待たんかィ、服はどうする気じゃァ小娘」

そう彼に言われ、自分の格好を見る。
確かに海賊にビリビリに破かれとてもじゃないが、街中を歩ける格好ではない。



「貸しちゃるけェ」


そう言うと彼は自分のスーツの上着を私へ被せてくれた。
真っ白で、パリッとした高そうなスーツを。


「でもこんな高そうなスーツ……」



言い終わらぬうちに彼は雨に濡れながら、走り去っていった。
「優しい人…」













そのあと、だんだん彼と親しくなり他愛も無いことで談笑したり。
料理を作ったりする内にプロポーズを受けた。


「サカズキさん。愛してます」


そう言って抱きしめると、

「ワシもじゃァ」





いつから起きていたのか、彼は目を細めて少しだけ微笑んだ。






あったかい





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