hyoipaku
穏やかではない静けさのある収容所に、大きくはないがまるで主張せんとばかりの靴の鳴る音が響く。
その足音は、数々の悪事を働き世間を騒がせた者たちのいる部屋にもたいして気にした素振りを見せることなく、目的の部屋へと足を向けた。
ふと、その妙に響く足音が消える。
「周防」
足音の持ち主ーー宗像が呼びかけた先には、何をするわけでもなく気怠げに横になった赤の王がいた。
宗像が再び足を進め部屋へ入っても、周防はまるで気付いていないかのように何も反応をしない。
しかし、宗像は知っている。気付いていないなんて、あり得ない。
「周防」
もう一度呼びかけると、横になった男は煩わしいとでもいうように身じろいだ。
そんな周防を見た宗像は、そっと周防の耳に口を近づけ、ひとこと。
「飯だ」
「……、」
周防はやっと起き上がり宗像と目を合わせると、何となしに鼻を鳴らす。
宗像は持ってきた食事を周防の目の前に置き、何も言わずに一歩下がりじっと見つめる。
周防には手枷がついているためか、食事はおにぎりなど不便のあまりないものが多い。それは今回も然り。
手枷をつけたまま、鎖の擦れる音と共におにぎりへと手を伸ばした。
「……」
「…おや」
淡々と、一切喋ることなく食べている彼をじっと見ていた宗像は、何かに気付いたように口を開いた。
それを耳にした周防は、たいして興味もなかったが怪しげに何の意かと尋ねる。
「…何だ」
「ああ、いえ。ただちょっと、」
言いかけて、すっと足を踏み出し周防に手を伸ばす。
本来ならそれに警戒する周防だが、宗像相手にするだけ無駄なのかそのまま何もせず動向を見るだけだ。
その手は周防の口元に近づいていき、何かを摘まみ自分の口の中へそれを放った。
「あ?」
驚きつつも動体視力が異常に良い周防には、それが何か分かってしまっていた。
摘まんだのはご飯粒、取ったのは自分の口周りから。…自分がつけていたのか。
周防は全く気づかなかった自分と、そのご飯粒をいきなり取った宗像に一瞬目を見張り、そしてまたおにぎりを食べ始めた。
「………ふむ」
黙々とおにぎりを頬張る周防を、また一歩下がり、何かを思うように見つめる宗像は、少し満足げに呟いた。
121223 千
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