ぴょんぴょん



「いらっしゃいませ」
とある街中の一角にある、近所では珍しいレトロで不思議な雰囲気のバー、HOMRA。
客足は区々だがそれなりに評判のいいそこに、夕方、1人の客が訪れた。
「お好きな席へどうぞ」
「ああ、ありがとうございます」
その客はいつもより少しラフな格好をしているが、マスターの草薙には見覚えがあった。
「ご注文、如何なさいますか…セプター4の宗像礼司さん?」

店内には草薙の好みだろうか、しっとりと落ち着いたボーカルのジャズが流れている。その曲を耳の片隅で聞きながら、草薙はお気に入りのグラスを磨いていた。
「それで、うちの尊に何か用でしょうか?必要であれば呼んで来ますが」
「本当は、別に周防に会いに来た訳ではないのですが…、まぁいいでしょう。では、お願い出来ますか?」
ゆったりと流れる時間を噛みしめるようにグラスを傾けた宗像に、その空気にそっと注ぐように草薙は尋ねた。
宗像は少し困ったふうに、けれど予想内だというように草薙の提案ともとれる言葉に頷いた。
それを見た草薙は、少々席を外すといって店の奥へと入って行く。おそらく周防を呼びに行ったのだろう。
宗像は、店主のいない空間を気にもせずにただ店の雰囲気とカクテルの味を楽しんでいた。

暫くして階段を降りてくるような音のあとに、奥の扉が開いた。
しかし、そこから出て来たのは1人。先程出て行った草薙だけだ。
草薙は何も言わずとも察したのか、周防は後から降りてくると説明してくれた。流石というか、伊達にバーのマスターをやっていないな、と宗像は密かに感心した。
後からと言ったのだからたいして間は空かないだろうと考えていた宗像の予想は当たっていたようで、すぐにまた階段を降りてくる音が聞こえて来た。
「……よぉ」
「こんばんは、周防」
奥の扉から顔を出した周防は、相変わらず髪をオールバックにして、白いシャツを着ていた。
対して宗像はいつもと一緒というわけではなく、いってしまえば私服のような格好だった。それが珍しいのか、周防は眉間に一瞬皺をよせた。
それが宗像には、オールバックの前に出ている髪の毛が少し、上がったように見えたが気のせいだろう。
「何か用か」
「なに、出張の帰りで丁度ここを通ったものですから、ついでにお土産でもと思いましてね。」
「……フン」
降りてくる前まで眠っていたのか、まだ眠たそうな周防は何のようだと尋ねる。
それに正直に答えると、尋ねた本人はどうでもいいというふうに鼻を鳴らした。
今度はその周防の前髪がしなっと垂れた様に見えてしまった宗像は、そんなまさかと微かに首を傾けた。
自分の視力を確認しながらも、周防たちに持ってきた土産を渡す。
土産を受け取った周防は袋をちらりと覗いただけですぐに草薙に渡した。草薙はそれを受け取りはしたが何やら不満そうである。
「中身は」
「まぁそう急がずに。どうぞ、開けて見てください」
言われた草薙は、そう胸を高鳴らせることもなく、土産を袋から取り出し包装紙を丁寧に開いていった。そして、現れた長方形の白い無地の箱の蓋を開ける。
刹那、草薙は息をすることを忘れた。
「……宗像さん、これは」
「ええ、それなりに上物のワインを見つけましてね」
「いや、それなりってそんなレベルじゃ…」
酒と聞いた途端の周防の前髪が、またぴょんと揺れる。
ここまでくるとやはり見間違いではないのだろう。その証拠に、戸惑いの中でこっそり周防の反応を伺っていた草薙は、表情こそ変わっっていないが肩が小刻みに震えている。
…あの前髪は彼の心の変動に比例しているのか。
「おい、酒」
草薙に土産の酒を注がせた周防は、もう時間も経ってすっかり目が覚めた筈なのに、怠そうな雰囲気は変わることなく、新しい酒に口をつけたる。
いつの間にか曲が全て流れ終わったのか、周防のグラスを置く音がバーに響いた。
「…まあまあだな」
「おや、そうですか」
やはり、前髪が上がっている。
平然とした表情で答えながらも、宗像の視線は周防の前髪へと向かっていた。
前髪がさっきよりも上がっているということは、いい酒なだけあってちゃんと美味しかったということなのだろう。おそらくは。
普段ならここで嫌味のひとつでも言ってやるところなのだが、どうにもこの予想外の状況に驚くとともになんだか可笑しくて、毒気を抜かれてしまった。
「…ふ、ではそろそろ私はこれで。」
少し笑いの零れた宗像は、中身のなくなったグラスを置いて席を立った。


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前足さんちとの相互記念。ネタ提供いつもお世話になっております。

Merry Christmas with you.
121224 千

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