静かな仕事場に、聞こえるのは紙がこすれる音と、キーボードを指で叩く音。
伏見はいつも通りパソコンの画面と眼鏡越しに睨み合っていた。
「…伏見くん」
静まっている室内にひとつの声が落ちる。
声の主は伏見の上司にあたる人物だったが、伏見が自分にかけられた声に手を止める様子はない。それどころか、上司に目を向けることすらしなかった。
無視だ。
伏見はキーボードを打つ手はそのままに、一度だけ壁にかかった時計に目をやった。
「伏見く」
「あと15分です。」
再びの呼びかけに、伏見はぐっと眉間にシワを寄せ、上司の宗像の言葉を遮る形で口を開いた。
キーボードを叩く音は消えない。
「……伏見くん」
先程よりもそうっとかけられた声に、とうとう伏見は舌を打った。こんなのこの上司には失礼にもならないのだ。それがまた伏見を苛立たせる。
伏見の様子など知ったことかと言わんばかりに、宗像は口角を少し上げ息を吐いた。
昼休みまであと5分。
キーボードを叩く音は、止まった。
(おなかがすきました)
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