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※CPではないですがこちらに置きます。すみません。




草薙が笑っている。この文面だけであれば日常通り和やかで、ほのぼのとした状況だと思えるだろうが、今の草薙の笑みは、ほのぼのどころかまるで氷点下の地域にいるような恐ろしい笑い方だった。
そんな草薙を目の前に、周防は珍しくも少し困ったふうに溜息をつく。
俺だって好きでこうしてるわけじゃねえ、と。

「にゃあ」

笑っているのに恐ろしく目が笑っていない草薙と、草薙の目の前に佇む周防、その草薙の生む冷たい空気に体を震わせる吠舞羅の面々。そして草薙の腕の中には、一匹の猫。
真昼間のバーHOMURAに、小さくかわいらしい鳴き声が響いた。



朝、寝起きの周防は朝御飯も食べず、いつものようにふらふらと街を歩いていた。

歩いていると道端で黒猫がひなたぼっこをしている姿があった。
周防はそれを横目に、またふらふらと歩いていく。

「にゃー」

後ろから、猫の鳴き声が聞こえた。その声はこちらに向けているように感じた周防は、いつもなら気にも留めないだろうが、気まぐれに足を止め後ろを振り向いた。
そこには、予想通り、さっきひなたぼっこをしていた猫がこちらを向いていた。
周防と同じ金色の瞳で、じっと周防を見つめている。
しばらくその奇妙な睨みあいが続いたと思ったら、猫は視線を周防の目から正面に戻し、前へ歩き始めた。

「…おい」

ほかにやることもないのか猫の動向を見守っていた周防は、足もとから感じる微かなぬくもりに低く声をあげる。
周防の足もとにあるぬくもり。その正体は、あの黒い猫だ。
猫は、周防の声を唸り声のように思ったが、それでも周防の側を離れようとはしない。
そんな猫に何をすることもできない周防は軽く舌打ちをして、そっと足を動かした。もちろん猫は蹴らないように。
最初と同じくまた歩き出した周防に、黒猫は少しさみしげに尻尾をゆらした。

アクセサリー店などの行きあたった店へ入っては、商品をさらっと見て出ていく。気に入ったものが見つからない周防は、そうして街を歩き回っていた。
そろそろ戻るか、と足先を方向転換した周防の視界には、本日二度目の黒猫。



「お前、ついてくんなよ」
「にゃー」
「おい…」

猫は周防が何処まで行ってもついて来る気のようで、街には周防が猫をひっつけて歩いているという妙にかわいく思える姿が見られた。
諦める様子の無い黒猫に、もうどうにでもなれとばかりにバーへの道を進む。

「にゃー」

後ろからの満足げな鳴き声など、聞こえない。



カラン、と扉に取り付けてあるベルの音に、草薙は作業を止めずに顔をあげた。

「いらっしゃいませ…ってなんや、尊か。おかえり」
「ああ…。」
「にゃー」

周防が帰ってきたのだと知ると、軽く怪我がないかを確認した。
周防からのそっけない返事を、今更気にする必要もない。だがそれ以外に、今何か聞こえたような。
いつもなら帰ってきてすぐにソファに腰掛ける周防は、今日ばかりは何故かいそいそと奥の扉へと向かう。

「…尊?」
「あ?」
「なんか、あったんか?」
「…いや」

おかしい。絶対に、何かを隠している。草薙は扉を開けようとする周防を疑いの眼差しで見た。
すると、周防の後ろにあるジャケットのフードが、なにやら動いたような。

「尊、ちょっと待ち」

自分の見間違いかとじっくりと観察すると、やはり、動いている。というか、フードが膨らんでいる?
さすがに見ない振りはできないと二階へ上がろうとする周防を呼び止めて、周防のもとに速足で来たかと思うと、何も言わずにフードを覗き込んだ。
その行動に焦ったのは周防だ。草薙には少し目が泳いでいるようにみえた。

「…これは?」

フードの中にあったものを抱える草薙は、面白いわけでもないのに、何故か笑みを浮かべていた。
草薙の腕の中にいるのは、先程自分の後をついてきていた黒猫だった。

「にゃあ」

こうして、冒頭に戻るのである。

(飽きたからここら辺は斯々然々)

暫く周防の部屋に居座っている黒猫は、まったりマイペースに過ごしているようだった。
ある日は街へ出向く周防についていったり、ある日は吠舞羅のメンバーとじゃれついてみたり、ある日はバーHOMURAのマスコットになっていたり。そのなかでもお気に入りは、ずっとベッドで丸まることだった。昼はひなたぼっこ、夕方になれば周防が帰ってくるので一緒に寝る。
そんなことをして、黒猫は日々を楽しんでいた。

ある日曜日、珍しくバーHOMURAはお休みで、草薙は何処かへと出かけバーには周防以外居なかった。
バーにあるソファで留守番をしている(本人にその意識はない)周防は、半日ほどやることもなく黒猫と戯れていたが、突然黒猫が外と出入りできる扉へと歩いていく黒猫をみて、いつもと様子が違うと思った。
どうやら、このバーから出ていくらしい。猫の言葉が分かる訳でもないのに、周防は漠然とそうなのだと思う。
帰るのかと問おうとしたが、猫の様子からは帰る家があるわけではないらしいことに気づき、やめた。

「行くのか。」
「…にゃー」
「…轢かれるんじゃねえぞ」
「にゃー」

猫は、足音一つ立てずにどこかへと歩いていった。
周防は誰もいなくなったバーを後にして自室へ向かうと、そのまま着替えもせずにベッドに寝転んだ。
ベッドと最低限の家具が置いてある周防の部屋に、まだ小さなぬくもりがあるような気がして。





20130222.千

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