01

 いつもとは違う喧騒に、彼女は外の様子を確かめようと扉を開いた。
 誰も部屋の周りにはいないようだが、逆にそれが異常を語る。
 ダイクロフトのこの区域は普段、とても静かだ。研究者たちばかりが詰める部屋が並び、機械の音ばかりが聞こえる。
 それなのに、今は非常事態とばかりにブザーが鳴り戦闘音が響く。
 地上軍?こんな場所に?
 ――とりあえず、近くにある部屋に何か起きていないかと移動することにした。
 すると、常時は閉められているはずの部屋の扉が不自然に開け放たれているのを発見した。


「地上軍総司令リトラーの命により参上しました。我々はあなた方を歓迎します」


 地上軍。
 聞きなれない声、不穏な言葉。
 マナが部屋に入るのには十分な状況だった。


「これは、どういった状況なのでしょうか」


 中にいる皆に聞こえるように声をかける。
 シン、とその場に緊張感がはしった。
 おそらく地上軍の兵であろう彼らはとっさに振り返り剣を構える。


「ラディッツ殿、彼女は?」


 奥の方から、場にそぐわぬ落ち着いた声が聞こえる。老練な者のようだが、研究者たちの中にそのような人物はいただろうか。
 首をかしげていると、奥からマナも知る人物であるラディッツが声をかけてきた。


「マナ、彼らは味方だ。我々を救出しに来てくれたんだ」


 そういえば、少し前にダイクロフト開発チームが亡命をしかけたという話を聞いた気がする。だが失敗して軟禁されているのだと。
 ここは彼らがいる部屋だったのか。マナは一人頷いた。
 しかし、また新たな疑問がわいて出た。


「…私はどうしたらよいのでしょう。天上軍兵士としてあなた方の逃亡を阻止するべきでしょうか?それとも、お世話になったあなた方に恩返しとしてこのまま見過ごすべきでしょうか?」


 問いかける目線を送れば、何故かそこにいた地上軍の兵士たちは目を見開いていた。


「彼女は、一体…」
「こういう子なのです。クレメンテ殿、彼女も連れて行ってはくれませんか」
「彼女は天上軍兵士と言っていましたが、それは」
「我々ベルクラント開発チームとも関係深い子なのです。彼女も、ここにいるべきとは思えない」


 話し合う面々に、おろおろと両者をうかがう者、興味なさげに辺りを見まわす者。各々の反応をしているが、彼女はただ彼らを注視していた。マナのことは彼らが決めてくれるだろう。
 そうして待っていると、後ろに気配。


「とりゃーーーー!!」


 何かが迫ってくる気がしたので、とっさに避ける。声の方向を見やれば、小さな女性が仁王立ちをしていた。


「あーっ!なんで避けるのよ?もうちょっとでいいデータがとれそうだったのにぃ!」


 頬をいっぱいに膨らませて怒る女性に、そんなに悪いことをしてしまったのかと首をかしげる。


「申し訳ありません。殺気のようなものを感じましたので、身体が自然と」
「しょうがないわねえ。いい?今度は動いちゃだめよ」
「はい」
「ハロルド!」


 女性の隣に、今度は顔を青くさせた男性がやってきた。二人は何やら言い合いをしているようだが、男性の方が一方的に話をしているようにも見える。


「とにかく!その人は一緒に来てもらうことになった。何かしたら地上軍のメンツに関わるからね、いいかい?」
「はいはい、ちょっとした冗談じゃないの。まったく兄貴ってば頭が固いんだから」
「お前の冗談は冗談に聞こえないんだよ…」


 頭を抱える男性をよそに、その原因を作ったであろう女性はマナの手を問答無用で引いていく。
 どうやら、そういうことになったらしい。







2016.03.16投稿
2016.05.19改稿


 
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