一、

 夢をみた。
 むせかえるような土の匂いと、わずかに届く無数の振動。
 暗い暗い視界には何も見出せなかったが、自分の存在だけはしっかりとかたちがわかった。
 ――ここはどこだろう。
 湿った冷たい空間を掻き分けて、腕を上へ上へと持ち上げていくと、次第になまぬるい風が指先を掠めていくのを感じた。
 そのまま手探りで辺りをまさぐる。
 と、ぽつんと水が手の甲に垂れる。
 そのまま腕をつたい落ちてくる冷たくない雫にぼうっとしていると、その上からくぐもった声が降ってきた。
 私の上に誰かがいる。
 もっとその声をよく聞こうとして上体を起こそうと努めるが、全身が重くて動かない。
 聞こえない、聞こえないともがいていると、不意に耳元ではっきりと言葉が囁かれた。


「待ったぞ、ようやく見つけた」


 はっ、として途端に軽くなった体を起こすと、いつもと変わらぬ寝室が広がっていた。
 もう日は明るく、空気はカラリと乾いている。
 うだるような暑さとべったりと汗で張り付いた寝間着が気持ち悪くまとわりついて、心臓が異常な速さで鼓動していた。
 背筋だけがとてつもなく寒かったが、所詮は夢のこと。
 彼女は着替えをすべく風呂場へ向かった。
 そうして日常の業務に戻る頃には、気味の悪い夢のことなどすっかり忘れ去っていたのだった。







2016.04.19投稿