23
果たして生き残れるかどうかというのは本人の気力次第である、とローが告げた通り、目を覚ましたルフィは失ったエースを求めて暴走状態にあった。
ハートのクルー総出で彼を止めようと動いているがことごとく吹き飛ばされている。
アドリアーナもまた巻き添えを食らわないようにしながら後を追っていたが、いかんせん加減もなく暴れまわるルフィのパワーが尋常ではなく、木々をなぎ倒す威力に頬を引きつらせていた。
女ヶ島に滞在を許されたと言っても、あくまで湾岸の一角であり、その範囲は限りなく狭い。男たちは張られた陣より先に踏み入れることを許されなかったので、その向こうの森へ行ってしまえばただただ見送るだけだ。
「あちゃー……」
ルフィに対してすっかり情が移ってしまった仲間のように、アドリアーナもまたせっかく生き延びて目を覚ましたのだからという思いはある。
とはいえ本当に止めようと思うのならばローが能力でバラして動けなくすればいい。それをしないのはローが手当てをするのはそこまでで、アフターケアまで担当しているわけじゃないからだ。当人に生きる気力がないのであれば延命したところで意味はない。
悪夢を振り払うかのように木々へ、岩へ、地面へとぶつかる彼の様子は痛ましさを覚える。
喪失の痛みは耐え難い。それへの慰めを自分たちは持たず、ならば当たることを止めたところで何になるというのだろう。
「アレを放っといたらどうなるんじゃ」
「……まあ単純な話、傷口がまた開いたら今度は死ぬかもな」
「…………」
ルフィを追えないハートのクルーに代わり、ジンベエが立ち上がって彼を追いかける。
ジンベエは彼の回復までを見届けると言っていたので、おそらくはそういうことだろう。アドリアーナたちよりは彼と縁があるようだし。
「キャプテンその帽子、麦わらの?」
「ああ」
「取りに戻ってくるのかしら」
「さあな……」
いつに増してローの考えていることが読めない。何やらじっと麦わら帽子を眺めていたローは何を考えていたのやら。
例えルフィがいい奴であれども戦場の最中に突っ込んで助けてやるだけの義理はない、とアドリアーナは思っている。ローの行動もまた船長故の勘だったり賭けだったりするのだろうか。
まあわざわざ聞くほどの好奇心もないのだが。必要であれば指示なりなんなり出してくるだろうし、と思いながら、アドリアーナはあっと声を上げた。
「海から冥王の気配」
「……海?」
ローがアドリアーナの見ている方角に視線を向けるなり、まるで爆発が起こったかのような轟音が凪の帯を荒らした。
凪の帯に生息する巨大な海王類が攻撃された衝撃らしい。その死骸が浮かび上がる。
「え!? 人!?」
アドリアーナの声はローにしか聞こえていなかったようだった。
“冥王”シルバーズ・レイリーが女ヶ島へ上陸したのである。
「おお、キミたちか……シャボンディ諸島で会ったな」
船が嵐で沈められてしまったためにここまで泳いできたのだという。
そもそも凪の帯を生身で泳いでいる時点で相当なものだが、加えて嵐が起こるような凪の帯の外側から泳いできたということになる。とんでもないタフさだ。
「じゃあさっき海王類とケンカしてたのもあんたか……!!」
濡れた上着を絞っているレイリーに、ハートのクルーたちは驚きを顕にした。
アドリアーナもまた声には出さないが驚愕している。たとえば箒に乗っているだとかならともかく、海を泳ぐというのはそれだけで体力をかなり使うものだ。それが海王類を相手にしてもなお疲弊した様子も見せていない。
さすがにあそこまで強くなるのは無茶だなァ……とアドリアーナは頬を引き攣らせた。
「あァ……そうそう、ルフィ君がこの島にいると推測したのだが」
事情は知らないが、用があるらしい。
ローが手に持っていた麦わら帽子を差し出した。
「麦わら屋はあと2週間、絶対安静だ」
「ん?」
「ついさっき目を覚ましたところだ。もうおれたちがここに留まる必要はねェ……お前ら、船を出すぞ」
完治するまで世話をするつもりはないらしい。確かに目を覚ましたルフィをローはただ見送るばかりだったけれど。
「え〜ッ!?」
「ああ、わかった。なるほど、世話になったな」
仲間たちはルフィを案じながらも反対はせず、言われるがまま出航準備を整える。とはいえただ船を停めていただけなので全員が乗ってしまえばすぐに出られる状態だった。
「冥王〜! 麦わらと海侠によろしくなーッ!」
「お大事にィ〜!」
賑やかに手を振って別れを告げ、ポーラータング号は凪いだ海へと沈みゆく。
そうして存外危なげなく凪の帯を抜けたハートの海賊団は現在、シャボンディ諸島近海にまで戻って来ていた。
「えー!?」
「まだ入らないんすか!? 新世界!」
さて次の航路は新世界へ向かうだけだ、とクルーたちがテンションを上げていた折、ローが告げたのはまだ新世界へは入らないという方針だった。
「時期を待つと言ったんだ」
白ひげ亡き後、時代が大きく動いたことに感化されたのか暴れ出す海賊が増えたことは新聞記事で察せられる。昼寝をしているベポのそばでアドリアーナも虎の姿になって暖かい日差しにまどろみながらそれを聞いていた。
ローは慎重派だ。偉大なる航路へ入る際も航海士であるベポが腕に自信を付けるまで長いこと北の海を航海していたという。アドリアーナが加わったのは偉大なる航路へ入るほんの数日前だったのでハートの海賊団の歴史は話に聞く程度にしか知らないが、旗揚げ自体は十年ほど前だというのでよほど慎重に力を付けて来たらしい。
「取るべきイスは必ず奪う……!」
「アイアイキャプテーン!」
……まあどうあれ従うのよね、とアドリアーナは思った。ハートのクルーたちはキャプテンが好きなので。 prev|next [
←戻る /
top]