薄れ逝く意識の中で、確かに私は“彼女”の声を聴きました。
甘く、優しい。
姉の様な、母の様な。
或いは恋人の様な、妻の様な。
喉を焼くほど甘い蜜の様な声音で、“彼女”は死に逝く私に囁きました。
――――――貴女の願いを叶えてあげましょう。
宛ら悪魔の如き甘い囁きは、けれども私には天からの助けの声の様に思われたのです。
私は差し伸べられた手に縋り、願いました。
心の底から、願いました。
“彼女”は慈悲深い微笑を浮かべて頷きました。
然うして、願いを叶える代わりにと、“彼女”は私に三つの約束をさせました。
私は深く考える事も無く、“彼女”が持ちかけた約束に頷きました。
何故なら、私は“彼女”に云われずとも初めから然うする心算でしたので、何も迷う事等無かったのです。
何も。
何も迷う事等、無かった筈なのです。
19.3.5