Halloween eve



*10月30日



 13時ちょっと前。昼休み。鼎と一緒に昼食を取っていた私の元に(蛍は生徒会の仕事で今日は別々だ)、雪村さんからのメールが届く。
 『明日空いてる?』
 簡素なそれをつい口に出して読んでしまった私に、鼎は目敏くきらりと目を光らせた。

「もしかして例の恋人!?」
「あぁっと……うん。でも鼎たちとの予定の方を先に組んでたから断るよ」
「えっ! どうせならそっち優先したら? 蛍も気にしないでしょうし」

 明日は10月31日、つまりハロウィンだ。鼎と蛍とはこのイベントに便乗してお菓子作り等でもして遊ぼうかという話だった。
 しかし、そこに先ほどのメールだ。
 それでも先に予定を入れていたのは鼎と蛍とのことだし、断るべきは向こうだろう。そう思って言えば、向こうを優先したらどうだと提案する鼎の目は依然、煌々と輝いていた。
 どうやら女の子らしく恋バナの大好きな彼女の恰好の餌食になってしまったようだと内心苦笑する。でもやっぱり好きな人からの誘いは嬉しいものだし、私だって会いたいと思う。
 自分は二の次でいいと言う優しい友人に背中を押され、私のハロウィンの予定は変更されたのだった。

「譲ってあげたんだから後で詳しく聞かせなさいよね!」

 そうのたまう鼎の言葉に、曖昧な笑みで頷いた。



 17時過ぎ。帰宅早々私は明日の準備を開始した。
 ハロウィンなのでお菓子でも作るべきだとの思考からだ。と、いうのは口実で、あの雪村さんからの誘いなのだ。お菓子が無かったら何をされるかわかったもんじゃないというのが正直なところである。
 あの後、授業中に何を作るかを考え、決めたお菓子を作るに必要な物を調達してから帰路に着いた。
 市販より手作りを選んだのはやはり好きな人へ贈るものだから気合いは入れたいと思ったが故の行動だ。
 私はキッチンに立ち、買ってきた材料を満足げに確認してから、作業を開始した。



 そろそろ0時になるかという頃。可愛い柄が描かれたビニールの袋に詰めてラッピングしたお菓子はシンプルな紙袋に入れたが、ワンポイントとして手持ち紐にはリボンを結んで封をしてみた。それは忘れないようにしっかりとバッグの横に置いてある。服装も事前に決められた。念を入れた確認を終えて、早めに寝床に着いた。
 ここで風邪なんてひいていられないと、いつもよりもきちんと布団を被って目を瞑る。
 明日は雪村さんの家に行く。何度も訪ねたことはあるのにそれでも未だ慣れることはなくて。
 躍る胸は遠足前の子供のようだ。普段に比べて早い時間に布団を被ったというのに、眠りに就くには普段より時間がかかってしまった。


Trick? or Treat!



くろうさぎ